第47話 偽物龍人、少しだけエドを楽しむ

「お疲れ様やなぁ」


「はい。色々と暴れてしまってすみません」


 俺は王妃と会話をしていた。


「いや。こっちこそ貴方の力を知った上で利用していますからなぁ」


「それが仕事ですから」


 きちんと報酬は貰っているので、これで完全に仕事は終わりである。

 今回の影武者は自分自身の成長に繋がった気がする。

 だがしかし、もしも本物のリオさんが行ったと考えると⋯⋯いやだな。

 少なからず友だと思ってくれている人が危険な目にあうのは嫌だ。


「それで、いつ頃旅立つんですかぁ?」


「そうですね。ヒスイ次第ですね」


「寂しくなりますねぇ」


「そうですね。それでは」


 俺はヒスイの元へと帰った。

 宿の部屋の中ではヒスイとリオが最後の会話を楽しんでいた。

 そんな中に入るのは気が引けたので街中を散歩する事にした。


 街中は騒がしくなっていた。

 当然だ。

 同盟の話はなくなり、そして戦争で攻める事となったのだ。

 世界平和を目指す裏側の国家との繋がりが表側に出た事にもなる。


 騒がしいと言っても、皆が落ち着いて準備している感じがした。

 確実に戦争が起こると分かっていたかのような感じだ。


「⋯⋯いや、良くないか」


 本当なら俺も戦争に参加したと思ってしまっている。

 本当は戦争なんて嫌だ。戦争なんてバカがする事だと思っていた。

 だけど、実際の当事者になると考え方が変わる。

 人間も亜人も、全ての種族が平等に暮らすためには人間絶対主義は邪魔なのだ。


 邪魔の国は厚生させるのではなく、滅ぼす方が手っ取り早い。

 前の国を中心に様々な種族の国と繋がりが出来ている。

 そんな国家規模の事件に俺は足を踏み入れている。

 嫌だとは思わない。


「⋯⋯だんご一つ⋯⋯いや10本! それとお茶を」


 騒がしい街中でも営んでいる場所で俺は懐かしのおやつを楽しむ事にした。

 俺はこの国が何よりも好きになった。

 二つしか見てないからなんとも言えないなのは分かるのだが、それでもこの国は落ち着く。

 日本と比べると文明的には何段階も下だが、やはり近いモノがあると落ち着く。


 だんごを食べながら今後の事を考える。

 既に影武者は終わったので、この国に滞在する理由もない。

 それに戦争に関わる資格とかは俺にはない。

 あくまで部外者だ。

 ヒスイが望むように動く。使役獣として。


 ヒスイに使役されているとは言え、前世の社会人とは全く違う。

 上下関係は全くないのだ。

 対等な仲間として俺はヒスイと共に旅をしている。

 もしもヒスイがいなければ今の俺はいないと思う。

 ただ森の中の魔物を狩って狩って狩り続けて強くなろうとしていただろう。


「でも、ここに俺がいなければエドはなかったのかな」


 と、言うか王妃様⋯⋯俺との会話で選んだ国名これで良かったのだろうか?


 俺は王妃に前世の話を少しだけしていた。

 存在がバレているが故に隠す必要がないのと思ったし、何よりも嘘は見抜かれる。

 そう考えると、かなりの信頼を寄せている事に気づく。


「獣人国エド⋯⋯やっぱりダサいよなぁ」


 叫んだ俺が言うのもなんだけど。


 そんな事を考えていると隣にルーが座り、俺の金で買っただんごを一つ奪われた。


「それがお前の正体、か。龍人かよ」


「金、ちゃんと払えよ」


「俺は騎士団長だぜ? 少しは敬うとかないのかよ?」


「人の買った物を横からさらっと奪うのが騎士団長って言うなら、この国は落ちぶれてるよ」


「それもそうだな。俺のせいで国の名を落とす訳にはいかない」


「そうそう」


 と、言うかなんでお前がここにいるんだよ。

 帰った瞬間に獣王達に挨拶して帰って寝たんじゃないのか?

 そもそも騎士団長にしてはかなりラフな格好をしているが。


「戦争、お前はどうするんだ?」


「ゼラニウム、ゼラとでも呼んでくれ。⋯⋯どうするか、ね。特にはないよ。俺は俺の道を行く。その案内役にヒスイが居るだけだ」


「おま⋯⋯ゼラは俺っ子なのか?」


 お前と言いそうになったので殺気を込めて睨んだ。

 俺はこの名前で呼べと言ったのだ。絶対にそれで呼ばせる。

 俺にとって名前はすごく大切で重要な事だ。


「猫被る必要ないだろ?」


 一人称が俺な理由はただの前世の癖。

 数十年前と言う長い月日の癖は簡単には変える事が出来ない。


「⋯⋯なぁゼラ、正式にこの国に仕える気はないか?」


「この国自体は気に入っている。どのくらいの寿命か分からないけど、一生をここで過ごしたいと、この国の成長をこの目で見たいって思いはある」


「なら⋯⋯」


「でも俺はヒスイの仲間だ。エルフの風習は知っているか?」


「一応な」


「だから俺はヒスイと共に旅を続ける。⋯⋯少なくとも、ヒスイが俺を要らないと思えるその時までは」


「そりゃあ残念だ」


 そしてもう一つルーがだんごを口に運んで、串に刺さっている三つの玉を一口で食べる。

 そのまま立ち上がって去ろうとしたので、尻尾で捕まえた。


「金払え」


「済まない。今持ち合わせがなくてな」


 いやーめんごめんご。

 そんな顔をするルーに対して殴りたと思ったのは言うまでもない。

 この金は俺用にヒスイが渡した物だ。

 つまり元はヒスイの物であり、そんな物で買った物を俺の合意なく使った癖に⋯⋯。


「殴っていいか?」


「すまん冗談だ」


 鱗の右拳を見せつけたらちゃんと金を返してくれた。

 そう言えば、【獣化】系統のスキルを手に入れた時に新たなスキルが派生していた。

 それが【龍化】である。


 なぜそうなったのかと予測を立てる。

 まず、俺は前のドラゴン戦でそのドラゴンに変身出来るのは勿論の事で、クリスタルドラゴンにも成れる。

 そのドラゴンで使えるスキルは確かに手に入った。

 だけど主にこの一般的に龍人として見られる変身先は正式な種族では無い。


 しかし、そこに獣人と言う獣と人間を合わせたような変身先を得た事によって正式に龍人を得た。

 つまり、何かと人間を合わせる過程が精密になったのが龍人と言う変身先に影響を与えたと思われる。


 今の俺は列記とした龍人と言う変身先を持っている。

 前々から獣人自体の変身先は持っていたが、より血が濃くて獣の力が強い存在は知らなかったから龍人はなかったと思われる。

 他にはスキルの理解度などが理由として上がるだろう。

 【獣化】の最上位のスキルだと思われる力はリオさん兄妹が持っている。


「ドッペルゲンガーってなんだろな」


 自分の事だがあまり分からない不思議な生態系。

 見たモノに変身出来るのはなんとなく分かるが、それから組み合わせる事によって新たな変身先を得る理由が分からない。

 お陰で助かっている部分はあるのだが。


「さて、帰るか」


 そろそろ良いと思ったので、俺は宿に帰った。

 そこではまだリオさんと会話を楽しんでいるヒスイの姿があった。


「ゼラさん!」


「ゼラ!」


 二人とも寄って来る。


「ゼラさん。これからの事、お話しましょう!」


「⋯⋯ああ。分かったよ」


 リオさんが居るって事は、三人での話し合いだろう。

 俺達には重要な事だな。

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