第43話 戦争上等

 なんでだ?

 どうして魔眼の力が作用されてないんだ?

 こいつに魔眼の力をレジストできる程の精神力があるとは思えない。

 ただのゲスが精神力を鍛えてるとは到底考えれない。

 体も踏んでみると脂肪だらけで鍛えている様子もない。


 だと言うのに王妃直伝の【誘惑の魔眼】を防いだと言うのか?

 確かに王妃と比べたら能力は弱いだろうけど、それでも理解度はマックスだ。

 こんなクズに防がれる程に弱くない。


「は、離れろ! こ、こんな事して⋯⋯貴様は極刑だ!」


「⋯⋯お前、何かしらの魔道具を装備しているな」


 服装はバスタオルのような服である。

 ならば服ではない。

 この部屋に魔眼を防ぐ効果があるのなら、それはヒスイにも作用される筈だからありえない。

 ならば沢山着いている指輪が原因だと判断できる。


「うっ」


 リオさんの姿で使ってないので魔力消費が激しく、一気に消費した魔力の影響で目眩がする。

 よろめいた隙を狙って足元が脱出して逃げ出す。

 下半身から血をドバドバ流しながら。


 リオさんの姿に変身すると騒ぎながら指を向けて来る。


「き、貴様! 我に幻術を使っていたのかぁ!」


「使ってたのはお前だろ!」


 私は右手を【獣化】させる。

 獣の力を解放して本能の力を外に放出する。

 狐のような毛と爪が伸びる。

 そのまま高速で接近して伸ばして来た指を切断した。

 血と指が舞い上がり、部屋を汚す。


「いぎゃああああ!」


「これじゃないのか」


 王族だから体を鍛える事は基本的にないのだろう。

 騎士などに守られて恵まれた環境で育って来たのだから。

 しかし、恵まれ過ぎた環境は人の性格を傲慢して外道に落としていく。

 獣王のように祖先が恵まれてなくて、そんな環境で育ったから自分の意思で強くなろうとしている。


 脳筋に育ったのも血筋と環境が影響しているのだろう。

 だからこそ王妃はあのように育ったのだ。

 こいつのように誰かが守ってくれるような環境じゃなかったんだ。

 王族だろうと、獣王国はここほど国のような感じではないのだ。


「こ、こんな事して⋯⋯戦争だぞ! 戦争だぞ!」


「だからどうした? 戦争? 最高だねっ!」


「は、はぁ?」


「勘違いするなよ。お前もお前の騎士も強くない。個々として弱い。私達獣人を侮るな! 個々が日々生き残る為に訓練をしている我が兵士達を舐めるな! 貴様のような外道の下で働くような奴らと一緒にするな!」


「なにを⋯⋯」


「時代は変わった。人間が亜人を支配する時代はもう永遠にありえない! 今後は人間も亜人もそして魔族も! 全員が平等に手を取り合う時代だ! お前のような古い考えは淘汰されるべきだ!」


「⋯⋯」


 私の気迫に押されて何も言えなくなるクズ。

 一歩近づく度に恐怖によって逃げて行く。

 落ちていた何かに躓き尻から倒れて、それでも尚逃げる為に動き出す。

 床を逃げ惑っていても、いずれは追いつかれると言うのに。


 生きたいと思うから既に詰んでいる状態でも足掻こうとする。

 愚かだ。

 これ程までにバカな奴はそもそも同盟相手に適さないんだ。

 クズは壁に背中を当てて、何も無い後ろを向いて絶句する。


「や、止めろ! そ、そうだ。きちんと同盟の話⋯⋯をおおおおおお!」


 右手を開いて向けてくれたので、その指を全て爪で切り裂いた。

 お父様の獅子ライオンの爪とお母様の細く美しい爪が合わさった爪。

 とても自慢だったけど使う事がないと思っていた爪。

 それをまさか使う機会があり、人間相手に使うとは思ってもみなかった。


「やめ⋯⋯」


 念の為魔眼を使ったら今度はちゃんとできた。

 右手の指のどれかか魔眼を防ぐ効果のあるアクセサリーだったようだ。

【獣化】を解除して尋問を開始する。


「⋯⋯【獣化】使うとリオさんに近づいちゃうな」


 一人称が私ってなんだよ。

 これがドッペルゲンガーと言う魔物の本質なのかもしれない。


「ヒスイの胸元のアレはなんだ」


「奴隷紋でございます。奴隷契約と言う呪いの類でございます」


「なぜ契約できた」


「隷属液と言う液体に最初に血を垂らした者が主で後に入れた血の持ち主が奴隷、そこに奴隷の意思は関係ありません」


「強制契約か」


「はい」


 契約は互いの同意があってようやく成立するモノだ。

 そんな事は異世界及び奴隷には関係ないと言うのか。

 怒りが、怒りが全く収まらない。


《───ザザ──》


 もうこのまま殺してやりたいと心が悲鳴を上げて来る。

 今すぐこいつを殺さないと暴走してしまいそうだ。

 あぁ、ウザイキモイぶち殺したい。


「⋯⋯契約を解除しろ」


「できません」


「なぜだ!」


「なぜ? それは⋯⋯」


「いや良い」


 このまま続けると魅了状態が解除される。

 だからこの質問を中断した。


「解除の方法は?」


「対象の奴隷紋と反発する術式を紋に刻む、または解呪の魔法を使う事です」


「その方法は!」


「分かりません」


 ⋯⋯そうか。


「隷属の毒とは?」


「相手の体内に入れ、特別の道具を使うと活性化して内部で激痛を与えます。そして恐怖と痛みを与えて続け洗脳して行き、命令を聞かせます」


「なぜお前は今回の事を企てた」


「亜人は全員下僕、道具が調度良い。獣王国と世間に広まるなんて、アホらしいではないですか。獣人如きが⋯⋯」


「⋯⋯もう良い十分だ」


 俺は魔眼を解除して再び人間の姿となった。

 あのままリオさんになっているとリオさんに呑み込まれそうになったからだ。

 呑み込まれて、リオさんと対面したらどうなるのか不安だ。

 ドッペルゲンガーの話、嘘か誠かは不明だが不安点は除いておく。


「な、なんだ。頭の中が」


「おいクズ」


「ひ、ヒィ!」


 一度魅了状態になったからか、痛みに悶える様子はなかった。

 嫌な記憶は消したのかもしれない。

 自分の指のない右手とかを見たら絶叫しそうだ。

 だから、俺は右肩を足で壁に押し込む。


「ヒスイに使った奴隷契約を解除しろ」


「だ、誰がするかっ!」


「しろ」


「しない!」


「したら命は助けてやるよ」


「⋯⋯断ると言ったら」


「簡単だよ。まずはお前の髪を火の魔法で全焼させる。次に足と手の爪を一つ一つ剥いで行く。次に指を折る。次に足首と手首を折る。次に肘と膝を折る。あぁ、指は関節を順番に折る。次に片目を抉る。歯を一本一本抜いて行く」


 淡々と言っていくと、それが絶大の恐怖になったようで何も言わなくなった。

 その後はただ皮を剥いで肉を抉って、耳を切断して残った目を抉る。

 回復薬で体の傷を癒して行く。

 これで骨も手も再生する。


「それをお前がヒスイを解放するまで何回も何回も繰り返す」


「⋯⋯わ」


「3秒だけ待ってやるよ。さーん」


「わかった! だ、だから何もするな!」


「にーぃ」


「わかったと言っているだろ! 速くこの足をどかせ!」


「いーち」


「わ、わかりました! だからこの足を退けてください!」

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