第33話 パーティはとても重要

 捜査して分かった事はこの国の住人は、今回の同盟話は冗談だと思っていると言う事である。

 誰もが獣人を見て、今更ありえないと言う雰囲気だった。

 だが、今回の同盟話はきちんと俺達が知っている形で住民に広まっている事は事実だ。

 奴隷の解放などはきちんと始まっており、近くの大きな国へとその種族を流しているらしい。


 人間の奴隷は居らず、獣人は獣王国へ、エルフなら各々の故郷へ、他の種族も同様である。

 その為の人件費などは国が払っているらしい。

 時代が変われば人の考え方は変わる。

 ⋯⋯しかし、唐突に変わるモノだろうか? この国の王が変わってから新たな方向に進んでいる訳では無い。

 数十年の王が急にこの種族平等を謳ったのだ。


 不自然過ぎる。

 ヒスイもそう思っているが、口には出さなかった。

 そんな疑の心を持って国際パーティへと足を運ぶ。

 獣王国から来た人達全員だ。きちんと正装に着替えてはいる。

 だが、内側に隠しの武器を仕込んでいる。


 俺の傍にはヒスイとビャが立っている。和服は動きずらさがあるけど、下駄も含めて俺の体なので、俺は問題ない。

 獣人達も慣れているのか、動きに不自然さはなかった。

 ただ唯一、ヒスイだけは動き難そうにしていた。


 しまった。練習させておくべきだった。

 獣人達、特にビャが不審がっている。

 まともに動けるように和服姿で戦闘訓練でもするべきだった。

 これは俺のミスだ。


 パーティ会場へと到着すると、会場と廊下を隔てる扉を二人の使用人が解放する。

 中はテレビで見た事あるような豪勢な形を成していた。

 大きなシャンデリア。大きなガラスの窓に柱。バイキング形式の沢山の料理。

 そして各国の王族と貴族達。身なりで違いは分かる。

 そしてもう一つ分かるのは、俺達以外に人間以外の種族はいない。


「この度は我が獣王国とブランシュ国の同盟記念パーティにお集まりくださり、深く感謝をお申し上げします」


 俺が頭を下げると、皆も合わせて頭を下げてくれる。

 そのまま使用人に案内されるがままにヒルデ王へと近づく。

 階段を上り、場所の高さを一緒にする。下駄のお陰で身長も同じだ。


「こちらこそ感謝を。今宵は盛り上がって頂きたい! 各国の王達よ! 貴族達よ! 我々の古い考えは腐れ果て、新たな時代を作る! そして、今日がその一歩となるだろう! 人間も獣人も関係ない! 種族ではなく、この世に産まれた一つの生命として、この場に感謝を! 乾杯!」


 ヒルデ王から貰った赤ワインの入ったグラスとヒルデ王のグラスをカンっと合わせる。

 そして下にいる人達もグラスを掲げる。


「ありがたく頂きます」


 そして、ヒルデ王と同時にワインを全て飲み込む。


「⋯⋯ッ?」


「如何な? この国で一番高価な物を揃えた」


「深みがあり、とても美味しいです」


 言ってやりたい。俺の舌はバカじゃないと。

 無駄な物が入っていなければ美味しいと感じただろうが、不純物があると味も悪くなる。

 液体の毒は見た瞬間に瓶に入った状態での変身が可能だ。

 体内に入れればスキルの理解度もマックスへと成る。

 そしてスライムと合わせればそれを出す事の出来るスライムに変身出来る。

 さらに、そのスライムと聖水スライムを合わせれば解毒剤が出せるスライムへと変わる。

 そして、そんなスライムは皆が耐性スキルも持つので、俺は飲み込んだ毒を体内で分解し、抵抗出来る。


「家臣達にも振舞ってもよろしいでしょうか?」


「勿論でございますよ。ささ、こちらに」


 氷に付けられたワインボトルが入ったバケツを運んでくれる。

 キンキンに冷えてそうだ。グラスの乗ったトレイも運ばれる。

 俺もそれを運んでくれる使用人達と動く。

 使用人がボトルを取り出す前に俺が取り、ビャへと接近した。


「これを皆様に振舞ってください」


「畏まりました」


 真剣な顔で頷いてくれる。


 俺はボトルを人差し指で規則性のある動きで叩き、下駄で床を軽く叩き、喋る言葉と口の動きを変える。

 指と足はヒスイ用だ。

 ビャには口パクと尻尾と耳の動きで本題を言い渡す。


 内容は簡単。飲んだフリ。絶対に飲むな。皆に広めろ。である。


 ワインの方は危険だが、料理の方は問題ないらしい。

 普通にパーティは始まり、各々と料理に手を伸ばしていた。


「違いがあるな」


「ゼラさん、何かありましたか?」


 小声でヒスイが話して来る。警戒されないように料理を取りながらだ。


「毒が入っていた。即効性じゃ無いみたいだけど、危険だから摂取はさせなかった」


「そんなのも分かるんですね」


「ついでに解毒も可能だ。ビャを使って一応皆に解毒剤の入った液体を飲ませておく」


 しかし、この毒はなんだ? スキル名が良く分からない。


【隷属服従の毒素】である。それを放てる。

 隷属服従⋯⋯どんな効果なのか、分からない。

 警戒しておくに越したことは無い。


「料理は問題ないと思う。他の人達がいるからな」


「分かりました。違いとは?」


「目だ。こちらを見ている人達の目が二種類に別れてる。品定めしている目と和やかな優しい目だ」


 この国の王は前者だ。

 つまり、この国とグルな者と、本当に同盟だと思っている者、そんな二種類の国が存在する。

 これは俺達を確実に騙す為だろう。⋯⋯それを証明する為に、後者の目をしていた王族が俺に寄って来た。


「まさかこんな時代になるとは夢にも思ってみなかった。実際現実になると、ヒルデ王の凄さには言葉も出ないよ」


「ほんとですよね。我々も世界に向けて、獣人の王が統率する国と広める事が出来ます。この場に感謝を」


「感謝を」


 グラスを合わせて乾杯する。


「我々の知らない過去の事はきっと精算する事は出来ないでしょう。ですが、この機に種族の壁を壊せる様に互いに頑張りましょう」


「はい。⋯⋯失礼を承知でお聞きしますが、貴公の国名は⋯⋯」


「これは失礼。自己紹介がまだでしたね。我はヒマラ国のフール・ライ・ヒマラだ。北にある雪国だ」


「そんな遠くから遥々⋯⋯ご感謝致します。私はご存知の通り獣王国のリオでございます。以後、お見知り置きを」


「こちらこそです。移動は飛竜を使えばすぐですよ」


 飛竜での移動方法は確かに存在するが⋯⋯調教や育成が困難で、扱える人は数少ない。

 俺も見た事がない。⋯⋯絶対に料金は高い。

 そこまでして来る、この同盟にそれだけの価値を見出しているのだろう。

 外にあまり貿易のない獣王国の価値を見たいのもあったのかもしれない。優しい目の中に衣服などの生地に夢中になる内心が見て取れた。


 俺は優しい目をした人達の国名を聞いて、他の人達は社交辞令の挨拶をした。

 そして、毒ワイン以外の問題はなくパーティは終わりを迎えた。

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