第20話 罪を背負って笑って生きるクズ

 全てを終わらせ、その報告をしに行った。

 それが終わり、全てに別れを空に向かって伝えた。

 空を飛んで何処かに行こうとしていた所だった。

 急に眩しい光に包まれて、視界が変わる。

 目の前には目尻に水を溜めたヒスイが居た。頬を真っ赤に染め上げ、俺を鋭い目で睨んでいる。


「ゼラさん!」


「ん?」


 頬をパチンと、両手で包まれて叩かれる。

 別に痛みは感じない。⋯⋯と言うか、なんで俺はここに居るんだ?

 空を飛んでたのに。


「使役者は使役獣を呼び出せる魔法が使えるんですよ。そんな事よりゼラさん」


「な、なんだ?」


 サラッと心を読まれた俺はヒスイと目を合わせないように目を逸らす。

 すると、握られる力が強くなる。こっちを見ろ、そう言っている気がした。


「私から離れようとしてましたよね?」


「な、なんの事やら」


 俺は言い訳をした。確かに、俺はヒスイから離れようとした。

 それがヒスイの為に成ると思って。


「なんで離れようとしたんですか」


「⋯⋯してない」


「じゃあ目を合わせてください!」


 俺は目を合わせれなかった。だって事実だから。


「なんで、ですか」


「⋯⋯俺はもう、君の傍に居られる存在じゃないから」


「大きな音でした。爆音がここまで聞こえました。ここからでも火が見えました」


「それは全部⋯⋯俺がした事だ」


「そうですか。だからって、なんで私と離れる事に成るんですか!」


「だって俺は、犯罪者だ。ヒスイにも迷惑が掛かる。だから」


「だからなんですか! ゼラさんが私の傍から居なく成る方が迷惑です! ゼラさんが罪を背負っても、誰も裁けない。証拠があってもゼラさんだと突き止める事は不可能です」


「⋯⋯そうだな」


「永遠と一人で自分の罪を背負うんですか」


「当たり前だ」


「私は貴方の主です。契約者です」


「⋯⋯」


「私は貴方の保護者です! 貴方の罪は私の罪!」


「違う!」


「違くない! 私達は一蓮托生です! そう誓った筈です! ですから、貴方の罪は私の罪。私の罪は貴方の罪。一緒に背負って生きましょうよ」


 お、おかしいな。なんでかな?

 なんで、こんなに嬉しいと感じてしまうんだろうか。

 迷惑なのは分かっているのに。離れないといけないのに。

 なんで離れたくないって思ってしまうんだろ。


 俺は人殺しだ。相手がいくらクソ野郎でも、殺しには変わりない。

 そんな俺の罪を一緒に背負って生きる?

 ヒスイにそんな義務は無いのに。別に無視してしまえば良いのに。

 そんな俺に手を伸ばしてくれるのか。こんな人殺しのクズに。


 引き剥がさないと。ヒスイと離れないといけないのに。

 なのに、体が動かない。考えている脳からの命令を体が全力で否定する。

 良くないと分かっているのに、甘えてしまう。


「なんで、離れるって分かったんだ」


「契約の証の色が薄く成ったんですよ。それが離れている理由。距離の問題ではありません。心の問題です。⋯⋯心配でした」


「そうか。でも、ダメだよ。ヒスイが、俺の罪を背負う必要は無い」


「はぁあああああああああ。だ、か、らぁ! 私はゼラさんの保護者であり契約者であり、仲間じゃないですか! 違うんですか! 仲間だって思ってたのは私だけですかぁ? 一蓮托生の関係だって思ってたのは私だけですかァ!」


「ちが⋯⋯」


「違うなら!」


 再びパチンと顔を叩かれ、今度は自分の頬を叩くヒスイ。

 頬がさらに真っ赤になり、そして痛そうに目を震わせる。


「これからも一緒に生きましょう。それが私達じゃないですか。至らない所も多いですが、頑張ります。私、ゼラさんと生きるの好きですよ。楽しいですし」


 ヒスイの笑顔がリーシアと被さった。


「ヒスイ、こんな俺と、こんなクズと、一緒に居てくれるのか?」


「そう誓いましたよ。出会ったその日に」


 首に手を回し、抱き寄せてくれる。ヒスイの鼓動が聞こえる。

 速い鼓動が聞こえて来る。緊張か焦りか分からない⋯⋯だけど、凄く安心する。


「⋯⋯もしも特定されて、裁かれる時は、ヒスイは逃がす」


「ダメです」


「ダメだ。それだけは、約束してくれ。俺の罪は俺のだ。そして、ヒスイはそんな俺に騙されている。俺の事はただのドッペルゲンガーだと思っている。人殺しもしてないと、思っている。何も知らない」


「無理です! 嫌です!」


「頼む。俺を俺のまま、クズで居させてくれ⋯⋯」


 俺の言葉に、ヒスイは二分無言になり、頷いた。


「ありがとう」


 最大の笑みを俺は向けた。俺は罪を背負い、その罪を精算する事なく、笑って生きる。

 貴族を殺した事に後悔も無ければ反省もしない。

 更正? クソ喰らえだ!

 俺はあいつらを許さない。それだけだ。

 だから、ヒスイには背負わせない。俺がヒスイを騙して俺はのうのうと生きる。

 それが俺だ。誰にもこの生き方を否定させない。

 俺は⋯⋯クズだ。


「⋯⋯明日、獣王国に行きます」


「分かった」


「とある依頼を受けましたのでね」


「へー」


「⋯⋯と言うよりも、その見た目はなんですか?」


「俺の⋯⋯名ずけ親のリーダーの見た目の大人の姿」


「⋯⋯せめて中性で行きませんか?」


「無理だな」


 俺は胸を貼った。


「じゃあ、その俺口調は止めません?」


「ヒスイしか居ないから問題ないよね!」


 俺は親指を上げた。


「それでは⋯⋯獣王国について詳しくお話します」


「重んじて聞き入れよう」


 正座をした。


「獣王国は獣人絶対国です」


 俺は待ったをかけた。

 獣人絶対なのにエルフの君が行くのかと、そんな当然の疑問が現れた。


「あの貴族様、仕事が早過ぎますよ。しかも、私も知らなかったのですがこの国、水面下で獣王国と取引していたらしいです」


「えー」


「そして、実はその国から秘密裏に匿名依頼が届きました!」


 手紙を出してくれた。

 なんかそれっぽい事は書いてあるし、それっぽい印鑑もある。

 だが、それっぽいだけで本物かは不明である。


「知っている人からの紹介でしか私達のサービスは分からない様にしているので、問題ないでしょう。この印鑑は獣王国の国旗と同じなんですよね」


「は? いや待て。それってつまり⋯⋯」


「はい。獣王から直接ですよ」


 いやーまじやばくね?


「依頼内容は不明ですので、早く向かいます。獣人絶対と言いましたが、それは騎士とか国に仕えるのを獣人限定にしているだけで、割と差別意識とかなく受け入れてくれますよ。人間は難しいですがね。だから不思議なんですよ。この国、凄すぎますよ。我が里との長らく行われている貿易が維持されているだけはあります」


「そっか。なら獣人の方が良いかな?」


「え?」


 俺は人間の耳を引っ込めて頭上から猫耳を生やし、尻からは猫の尻尾を生やした。

 服も体なので擬態を変更するのは余裕である。

 ちなみに猫以外にも可能である。犬だろうが猿だろうが。


「可愛い〜」


「ちょ、止めて! くすぐったいよ」


 耳をくりくりされる。く、くすぐったい。

 ヒスイの表情が固まる。


「胸を触っても、中身を見ても、中に手を入れても平然としていたゼラさんが、表情を変えた! 可愛い」


「そ、それは、リーシアの心が強いから〜」


 リーシア大人の姿だが、中身は子供のリーシアだ。

 表情感情豊かなのは仕方ない。

 偽の心なのに、自分の心のように感じる。


「てか、いい加減にしろ!」


「ぎゃふん!」


 ベットに倒れたヒスイ。


「あ、ごめん。チャクラが無意識で込められた」


 だ、大丈夫だよね? い、一応息はしてるね。良し!












 ◇◆◇◆◇◆

 キリの良い20話へと参りました!次回はまだこの国の延長線上ですが、近々獣王国がメインの話へと移る予定です。予定としては3話先くらいからです。

 ここまでに思った感想など、わたくし作者にぶちまけてください。どんな感想でも受け入れ、返信する所存です。『とんな』感想でも。

 貴方の感想を星に変えて頂けますと、口から汚い笑みが零れます。


 ここまで書いてちょっとした後悔を言います。ヒスイの髪色銀髪にすりゃ良かった!

 作者は銀髪ヒロイン好きです。はい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る