第17話 ドッペルゲンガーとしての意地
情報集めを本格化させ、後二時間以内に俺はやる事を終わらせる為にカマセとやらと対面した。
こいつが孤児院を燃やした原因である公爵貴族だ。
その確信を得るための情報集めで面白い事が分かった。
上位の存在しか知られてない情報機関『陰』。このクソ貴族の子供は優秀と言う事だ。
一人はロリコン⋯⋯そして孤児のリーシアを知っていた。
すぐに俺の存在がリーシアでは無いとバレた。
もう一人は領地運営に関わっているようだった。
たまたま今日来ていたらしい。
この二人のお陰で俺は間違いなく、犯人を処分出来る。
その後の生活なんて、俺には知ったこっちゃない。
「奴隷なんて、この国では良くないんじゃないか? 陰とやらに知られるぞ」
「ほぉ。陰を知っているのか。まぁ問題ないさ。俺が居る限り、そんなヘマはしない」
「偉い自信だな」
「まぁな。ふん!」
傭兵が一瞬で肉薄し、俺に剣を振り下ろした。
鱗に変えた腕で防ぐが、その重い剣が体全身に伸し掛る。自信がある訳だ。
重い。スキルを確認したいが、今は体を一ミリも変えたくない。
だから、確認出来ない。
それだけじゃない。スキルを出させるだけ出したい。
でも、今はその余裕もないのだ。
「らっ!」
足を突き上げる。
「なかなかにいい蹴りだ」
自ら後ろに跳ぶ事により俺の蹴り上げを避けた。
カマセの近くに跳んだ事により、ビビり出すカマセ。
名前通りかませ犬っぽい奴だ。
「そうだ。お前に良い情報をやろう」
「興味無いな。用あるのは、その後ろにいるデブだけだ」
「孤児院を直接燃やしたのは、この俺だ」
独特なステップと気配により、一瞬で背後へと移動した様に感じる傭兵。
不意打ちであろう刃は確実に首を狙っていた。
俺は気配を消すのは苦手でも、気配や視線を察知するのは得意なんだよ。
冷静で完璧なコンディションの今の俺に、不意打ちは基本通用しない。
「ッ!」
相手の攻撃を首で受け止めて反撃しようとしたが、それを感じ取ったのか再び闇に紛れて瞬時に移動した。
こいつ、僅かな光を利用して自分の姿を対象の視界から外れてやがる。
俺の観察眼を持ってしても、簡単に視界から外れるのだ。
あの盗賊との対戦がなければ無意識外に逃げられている可能性もある。
この場所が太陽に照らされていたら問題なかっただろう。
「カマセ様。合図したら逃げてください。これはかなりの強敵です」
「わ、分かった」
聞こえている。俺の聴力は優れているんだよ。
傭兵が正面から突っ込んで来て、俺の目を一点に集めて来る。
本当に優秀だ。⋯⋯でも、こいつもターゲットだ。そうなった。
高速で振るわれているであろう剣も、なんかスローに見える。
俺のスピードが上がったのか、良く分からない。
良い技術だ。欲しい。
⋯⋯でもな。今の俺は、成長と言う欲すら薄らとしか感じない。
⋯⋯今の俺は、殺意、殺したいと言う欲が強いんだ。
「【加速】」
瞬時に動き、ドアの前に立つ。
「ッ!」
傭兵が驚いている。あいつ、動きが少し鈍いと感じた。
もしかしたら、全盛期ならもっと強く速い存在だったのかもしれない。
しかし、こんなゲスを守ってるんだ。実力は下がるよな。
「逃げんなよ外道が」
「いぎゃああああああ!」
「うるさいよ」
爪を伸ばし、足に力を込めて【縮地】を利用してカマセの背後に移動する。
刹那、カマセの両足が切断された。
「あ、あじぎゃああああああ!」
「安心しろ。まだ生きれるよ」
俺は血塗れた手を払い、傭兵を見る。
怒りの感情すら見せない傭兵。
「ご、ごりょぜぇ!」
「そのつもりですが、こいつ、思いのほか強いですよ」
「なんでだろう。盗賊に褒められたら嬉しかった⋯⋯でも、お前に褒められても嬉しくねぇ」
「あっそ。どうせ俺以下だ。何故だか興味あるか?」
「全くない」
構えを取ると、相手は軽い口調で言った。
「俺はなぁ、元陰だ。王の犬が嫌に成って逃げ出した。陰の知識とか流れないように普段から命は狙われてなぁ。そこを拾って貰ったんだ。ここなら、奴らの目も欺けるし、今は楽しい思いをしてるよ」
床を蹴って加速し、相手の腹に向けて手刀を突き出した。
肉を貫く勢いで突き出した。さらに、鱗である為に簡単には斬られない。
「あまい」
「受け流しは対処出来る」
「無理だろ」
無理だった。流されたベクトルを無理矢理曲げようとした。
多少のちぎれる感覚はするが、出来ない訳ではなかった。
しかし、こいつの剣での受け流しは無理矢理ベクトルを曲げれなかった。
「おらよ」
そのまま腹を蹴られた。
チャクラとはまた違う衝撃が強く体を押して、壁まで吹き飛ばした。
ゆらりと立ち上がる。
「頑丈頑丈。⋯⋯なぁ、お前も俺達と組まないか?」
「どうせ、陰によってお前らは処分されるだろ?」
「そこまで万能じゃねぇよ。確かに、『円環の陰』なら出来るかもだが、こんなで動かせるような奴らじゃない」
「詳しいな」
「言ったろ? 元陰だ。それよりもさぁ、良いと思わねぇか? 奴隷を自由に出来るんだぜ? 獣人、エルフ、様々な亜人を好きな様に扱える。犯すのも、いたぶるのも、殺すのも自由だ! 人間が良ければ人間だって用意してくれる筈だ」
「⋯⋯もしも、昔だったら、その言葉を聞いても『他人事』として片付けた。でもな、今は、今なぁ⋯⋯」
エルフと言う種族は俺を森から出してくれた人の種族でもある。人間は名前をくれ、純粋な明るく優しい笑顔をくれた種族だ。
怒りが湧いて来る。ふつふつと、湧いて来る。
「クソみてぇな反吐が出る」
「あっそ。陰式八番、八咫烏」
黒色の斬撃が八本、一斉に放たれた。
「はあっ!」
それをチャクラを纏わせた拳と気合いで弾いた。
弾いた先にカマセが来ない様に、きちんと計算して弾く。
「何守ってんだよ!」
「こっちにも事情があるんだ」
そして、激しい連撃へとなる。
高速の斬撃とそれにピッタリ合わせる拳。
金属音と火花がこの部屋を埋め尽くす。
連撃が終わり、一緒に距離を離した。
「ここまで防がれるのはびっくりだよ」
「⋯⋯」
「仕方ない奥の手を使うか」
懐に手を突っ込んだ。
この隙に接近して殴ろうかと思ったが、攻撃態勢で反撃され、防御出来ない危険性があるので見る事にした。
「おっと」
そして、その切り札とやらが懐から落ちて床に転がった。
まさかのミス⋯⋯ッ!
「こ、これは」
一気に眩しい光が広がった。
さらに、視界を塞いだ瞬間に本当に懐から出した筒を向けて、スイッチを押した。
「ぐっ」
そこから杭のような射出され、俺の腹を貫いた。
「ぎゃはははは! 僅かな隙でも簡単に相手の思考を真っ白に出来るんだ! それにお前目、良いだろ? 余計に効くよな!」
「うっ!」
俺の腹を斜めに切り裂いた。
「血が出ない?」
子供の体は戦いにくい。
ギリギリでバックステップしたから大きな負荷では負わなかった。
「この体はあんまり傷つけたくないのに」
「じゃあ去れよ」
「それも無理だ」
再び、俺は構えを取った。
もう、油断しないと言う決意と共に。
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