第9話 営業エルフ、営業先は公爵家

 現在俺は不法侵入を行っている。

 現場は貴族のお屋敷である。警備はザルの様で簡単に侵入する事が出来た。

 虫などを利用したら余裕である。


 さて、今回侵入した理由はここの娘の姿を得る為である。

 女性の部屋に侵入すると言う事を平然とやろうとしている元日本人がここに居る。

 さて、どこに居るのやら。蜘蛛となり壁を伝って散策する。


 流石は公爵家。俺の知識が正しいならかなり高い身分。

 窓になんと、ガラスが使用されているのである。

 王様が住んで居そうな王城にもガラスらしきモノは使用されていた。

 高貴な身分になるとガラス窓を使用するのかもしれない。

 ただ、少し叩けば分かるのだが、とても薄い。隙間もあり、冬は寒そうだ。


 文明的にもやはり、日本と比べて劣っていると言わざる負えない。

 ガラスの加工技術が乏しいのか、素材が乏しいのか、一般市民には復旧していない。


 と、ようやく発見した。

 ヒスイの説明で出て来た娘だと思われる。ヒスイと同じように金髪である。

 寝息を立てずに静かに寝ているが、心臓はしっかりと動いている。


「お前の体、借りるぞ」


 寝ている彼女に変身して、隣に立つ。服が無い。

 布団で隠れているからか? にしても、屋根付きベットって、本当に物語の中だな。

 勝手で悪いが、タンスの中を見させて貰った。

 適当なドレスを見て、それに胴体などを適合させる。


「これで良し」


 後は自分の心と向き合う。深く、深く向き合う。

 そして歩いたり、時にはお辞儀をしたりする。

 体の具合を確かめ、言葉を発する。

 違和感なく使える。貴族の作法は分からないので、教えて貰うしかないが、今はそのタイミングではない。


 再び虫に変身して、外に出る事にした。

 鳥と成り夜空に舞い上がる。丸い月が二つ並んでいる。

 蒼い月と黄色い月。

 そして、俺は明かりの無いお店に侵入する。

 入ったのは薬屋である。

 目的としては液体を色々と見る為だ。もしかしたら、魔物に有効な毒液なんかもあるかもしれない。


 中に入って人の姿に成る。


「お、あった」


 聖水、回復薬、色々な薬と思われる液体が存在した。

 中にはタブレットの様な固形物も存在したが、それには変身不可だった。銃とかには成れるのにだ。


「さて」


 そのまま腰掛けて、配合作業を行う。

 ⋯⋯成功だ。


 俺は“ポイズンスライム”に成った。毒薬瓶と言うアイテムの中身とスライムを合わせる事で出来た。毒薬瓶単体には変身出来ないが、何かに配合は出来るようだ。

 スキルは【毒耐性】【再生】【毒性粘性体】である。

 他のスライムも大体同じ。そして、上位な物だと、当然上位なモノに変身出来る。スキルも増えるし強化される。

 当然能力も向上する。


 色々と配合が終わったので、スライムの状態でどこまで動けるか確かめてみる。

 スライムの移動方法は主に二つ。滑る様に動くか、ジャンプだ。

 滑る様と言ったが、匍匐前進に近い動きである。

 液体のゼリーの様な体なので、ドアの隙間も難なく通る事が出来た。


「次は武器を見に行こ」


 一度人の姿に戻り、そして鳥となってそれらしい場所を探す為に再び飛ぶ。

 朝と夜では当然活動している店が違うので、明かりのある場所も違う。

 夜は一部の場所に集中している気がする。キャバクラとか、あんのかな?


 ま、どうでも良い事なので、武器屋に侵入する。

 目的としては、武器にもスキルが存在するかの確認である。

 もしもそれが存在し、変身する事が出来れば、色々と役立つと思ったからだ。


「⋯⋯あった」


 中には勿論無いモノも存在したが、スキルを持っている武器がきちんと存在していた。

 そう言う武器は何かしらの装飾が施されている。


「ん? 誰かいるのか?」


「にゃー」


 人が入って来たので、急いで猫に変身して鳴き声を出した。

 危なかった。一つ一つ武器を確認していたので、周りに気が回らなかった。

 これでやり過ごせると思っていたが、そうでも無いらしい。


「まさか、魔物かっ!」


 ペットと言う概念が無いのか、いち早く魔物だと疑われた。

 テイムしてないのであれば、警戒するのは当たり前か。

 しかし、夜でも城壁から警戒する兵士が居るのに、街中に魔物は入って来るのか些か疑問である。


 武器屋を後にして、俺は宿に戻った。適当に水を浴びて、地面に座って朝が来るのを待つ。

 当然、暇である。故に、配合をひたすら試す事が出来るのだ。

 本当なら、武器と武器を配合して新たな武器を作り、スキルを混ぜたいと思っていた。

 しかし、それは出来なかった。


 だが、現世の武器と掛け合わせる事が出来たので、銃剣の様な物なら出来た。

 これは使えるのか分からない。⋯⋯と、言うか、片腕を剣に変えても少し重く感じ、上手く操る事が出来ない。

 物質が違えば当然体積や重さも変わるのだろう。

 ゾウとエルフが同じ重さな訳ないしな。


 翌朝、朝食を取り始める。

 俺は小動物に変身して、ボソボソと食べる事にした。

 別に食事を必要としない俺が食べても意味がないので、ヒスイの料理から小さく貰い、食費を抑える。

 今日は昨日侵入した公爵家へと足を運ぶ事にした。


 大きな門の前には門番が欠伸をしながら、槍を構えて立っていた。

 もう一人の門番がそれを叱っている。

 今の俺は人型となり、マントを羽織って姿が見えない様にしている。


「すみませーん。少し用事があるのですがぁ」


 俺はヒスイの隣を歩き、ヒスイがそう門番達に高々に手を振りながら叫ぶ。

 一瞬で警戒心を高めた門番は槍をクロスさせて門を塞ぎ守る構えを取る。

 物語とかでは良く見かけるシーンだが、実際に目で見ると驚きである。

 これってどのくらいの効果があるんだろうか?


「何者だ貴様!」


 叱っていた方の門番が鋭い眼光を向けながらそう言う。

 流石はヒスイと言うべきか、堂々として笑顔を作っている。

 ⋯⋯あ、いや違う。これはビビって引き攣った笑顔を作っているだけだ。


「あ、この人最近来た鈍足エルフですよ」


「鈍足言うな欠伸門番!」


「あ、欠伸門番とはなんだ!」


「二人とも黙れ! と、言うかその後ろの人は誰だ?」


 と、俺にも話が振られたので、マントを外す事にした。

 門番なら当然把握しているであろう、その人物を。

 欠伸していた門番含めて、二人は驚愕を顕にする。


 そりゃあそうだろう。屋敷に居るであろう人物が、知らず知らずの内に外に出て、しかも他人のエルフと一緒に、そして目の前に居るのだから。


「これは、一体」


「こう言う理由がありまして、少しお話が」


「お、お前この事を伝えてこい! 早急にだ!」


「か、畏まり真下後方!」


「ふさげるな!」


 なんか、懐かしい気持ちに成ったのは気のせいだろうか?

 と、表情を崩してはダメだ。

 我慢我慢。⋯⋯なんか、普段なら我慢しなくても問題ないのに、我慢しないといけない。

 この人は我慢体質かもしれないな。

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