第10話 (ようやく!)冒頭に戻る

 ヒスイの交渉の元、この豪華な客室には貴族の娘とその両親、ヒスイと俺しか居ない。

 ゆっくりとマントを外すと、目の前の三人が驚愕する。


「わ、わたくしです」


「違う。これは俺の娘では無い!」


「落ち着いてください。それは事実です。この人は私の使役獣でございます」


 ヒスイが淡々と説明をする。今度出発する馬車のダミーに俺を入れる事を。


「確かに、その方法なら確実性は上がるだろう」


「どうでしょうか? 今回はこちらからお話を持ちかけましたので、予定していた金額寄りも割引させて頂きます」


「うーん。今回も大丈夫、と言う保証もない。保険はある方が良い、か」


 父親がそうやって考える素振りをする。もう交渉はヒスイに任せて、俺はこの部屋を見渡した。

 凄い豪華だ。大きな鏡まである。


「あの、わたくしの体でうろちょろとしないでくださいませんか?」


「分かりました」


 ちなみに彼女の名前はエリスらしい。

 交渉は淡々と進み、予定日を決めて俺達は解散した。

 報酬はきちんと役目を果たしてから。


「にしても、他国に行く理由が婚約の話だとはな」


「色々あるんですね〜」


 なんでも、この国にいる同じ公爵家から婚約の話は持ちかけられていた。

 だが、元々他国の伯爵家と良い感じで、既に婚約の話も進めていたエリス達は断り続けていた。

 しかし、その公爵家は悪名高く、何するのか分からなく、結婚を推し進めようとの事だった。

 その諸々の作業の為に行くらしい。


「国際パーティで知り合って純愛結婚、貴族では珍しいパターンですね。初々しいです」


「あのエリスって子。かなり若そうだったぞ」


「エリス様、ね? 確か11歳だった気がします」


「お、おお」


 わけぇ。


 そして、その日が来たので、俺はエリスの見た目で馬車に乗り込み、揺られている。

 そして、冒頭に繋がるのだ。


 ◆


 ヒスイの姿で出た俺を警戒する盗賊共。

 殺すのは良くないらしい。


「傭兵か!」


 見た目的に傭兵だと思われた俺に向かってクロスボウが放たれる。

 高速で放たれたであろう矢もあのうさぎと比べたら遅い。

 右腕の皮膚を鱗へと変えて矢を弾いた。


「なにっ!」


 驚愕している盗賊の思考を置いて一瞬で肉薄し、顔面に向かって拳を突き出した。

 骨を砕く様な感覚を感じながら、吹き飛ばした。


「脆い」


 別にイキってる訳では無い。本当に脆いのだ。

 日本の成人男性と比べたら硬いのだろうが、あの野生溢れる森と比べたら脆い。

 力加減が難しいな。


「と」


「なんだと!」


「殺気が出過ぎ」


 ノールックで剣を躱した。

 肘で顔面を殴って気絶させた。骨は普通に砕けてるし、鼻血が出ている。地面に倒れた。

 思いの外人間が弱いんだが?


「まずいなぁ。これじゃ修行にも成らない」


「バカにすんなよバケモンが! アタシ達はレッドウルフ盗賊団第三軍! 負ける訳がないよの!」


「ちょい待て!」


 女が叫び、片手斧を持って走って来る。


「レッドウルフ盗賊団⋯⋯だと?」


「大盗賊の名前でビビったか!」


「名前、ダサくね?」


「死ねっ!」


 大きのか。知らんよこの世界の常識なんて。


「なん、だと」


 片手斧が首に向かって振るわれたので、首を鱗に変更させた。

 すると、簡単に弾けた。金属音が鼓膜を震わせた。

 ちょっとうるさいね。


「悪いが、女だからって手加減する常識は備わってないから」


 腹を蹴り飛ばし、吹き飛ばして地面を転がせた。

 盗賊達が一気に迫って来るが、足をうさぎとリザードンマンを配合させた感じのにして、一気に加速する。

 アクション映画顔負けの足技で吹き飛ばし、骨を砕いて気絶させる。


 別に殺してもなんとも思わないが、捕らえた方が良いらしいので手加減する。

 ⋯⋯あれ? 人を殺してもなんとも思わない?

 なんでだ?

 俺は元人間で、人間を殺すのは『普通』躊躇う。


「普通って、なんだろ」


 地面には血の海が出来、赤色の盗賊達が転がっていた。

 無意識にそう呟いていた俺は隙だらけ。普通に油断していた。

 だから、この不意打ちを受けてしまった。


「油断したなクソ野郎!」


 左肩から切断された。左腕が宙を舞う。


「武技、断切スラッシュだ! 痛いだろ! 仲間が受けた痛みはそれ以上だ!」


「すまん痛くは無い」


 舞った左腕を右手で掴み取った。お、感覚的に分かる。

 これもきちんと『使える』ようだ。

 にしても武技、ね。

 相手の目に変えてスキルを確認すると、スキルにはきちんと【断切】が存在した。


 現地人に取って、スキルは武技などの認識らしい。

 これは良い情報だな。


「は、は?」


「今更驚く事か?」


 左腕を刀へと変更させた。きちんと腕を握ってる感覚がする。

 意味が分からない。

 腕を握ってる感覚だが、刀を掴んでいる感覚もするのだ。

 不思議だな。


「良いスキルをありがとな」


 俺はさっき見たスキルの動きを模倣して扱う。

 理解度が低いせいか、大した力は無いが、刀の特徴とドッペルゲンガーの身体能力で相手の右腕を簡単に切断した。


「あああああああああ!」


 血を噴射しながら叫び散らし、地面を転がる。

 のたうち回る盗賊を見下ろしながら、塚の部分を切られた部分に押し付ける。


「お、行ける」


 そのままくっ付けて左腕を作り直す。

 魔力を込めれば完治する。

【自己再生】のスキルの力も利用する。スライムと上級聖水を配合した時に出来た魔物のスキルである。

 使用方法は再生させたい部分に魔力を流すだけだ。

 それで再生する。


「おいおい。随分派手にやってくれたね〜」


 大方仕事を終えて一息ついていると、奥からのっそりと歩いて来る男が居た。

 筋肉すげぇー。

 目を変えてスキルを確認する。


「多いな」


「全員生きてるのか。ま、良いや。お前、殺す」


 相手は武術家らしく、武器は素手だ。

 鷹の様な鋭い目を俺に向けながら、ジリジリと距離を縮めて来る。

 俺も警戒態勢に入る。

 地面に転がっている有象無象とは違うただならぬ気配を感じる。

 だが、技術を向上させるチャンスでもある。


「にしても、男でポニーテールって初めて見たな」


「ポニーテール?」


「気にするな。来い」


「言われなくても」


 警戒して相手をしっかり見ていた。だが、奴は気がついたら目の前に迫っていた。

 全く気づかなかった。見ていたのに、接近している事に気づかなかった。


「はっ!」


 薄ら笑いを浮かべている男は俺の目の前でバチンと手を合わせた。

 一瞬で弾かれた手の振動は俺の鼓膜から脳に一瞬で伝わり、ピリッと来た。


「っ!」


「動かないだろ」


 なんと言えばいいのだろうか?

 まぁ、簡単に言えば猫騙しである。

 体が動かない妙な感覚に陥る。そして、突き出される拳。

 その拳には魔力とは違う何かが乗って蒼色のオーラを纏っていた。

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