第3話 ヒスイ・メイ・スカイ

 あれから数日、前に戦った、“キックラビット・真紅眼レッドアイ”に変身して過ごしていた。

 亜種と呼ばれる種族の中で特出した力を持つ個体⋯⋯と考えている。

 真紅眼は目が発達しており、動体視力が良かった。他にも身体能力が本来のキックラビットよりも高く、【縮地】のスキル性能が高かった。


 色んな獣を倒していると分かった事がある。

 相手のスキルを見てから倒すと、理解度が一気にマックスになる。しかし、スキルを見ずに倒すと、理解度は上がらない。

 これがどう言う意味なのかはまだ分からない。


 木々をぴょんぴょん移動する。

 理解度がマックスなので、どんな状態でも使える【加速】を利用して素早く移動している。

 そして、スキルを使うには体内の何かしらのエネルギーを使うと分かった。

 体力とは違う感覚で、『減る』と言う感覚がするのだ。そして、本来その変身体が持たないスキルを使うと、その減りは大きくなる。

 あまり使わは無い方が良い。

 使い過ぎると疲れる。下手すると気絶する。


 そして、俺は女性を発見した。初めての人間だ。

 草に隠れて様子を伺う。現世のカメレオンに変身しておく。


『さぁ私に使役テイムされて良い強い子ちゃん出ておいでぇ。あぁ、だけどいきなり攻撃とかなしね。あと、可愛いと良いな。あ、後成る可く背中に乗せて移動してくれる子』


 なにか喋っているようだが、言葉が分からない。

 金髪でスラリと髪の毛を伸ばしており、腰には短剣を、背中には弓矢を担いでいる。

 目は碧眼で、外国人の様だ。ここが日本ならば。

 しかし、彼女の耳は異様と言って良い程に長く尖っていた。

 地球にあの様な人種は居ただろうか?


 獣と言い人と言い、薄々感じていたが、ここは違う惑星⋯⋯世界なのかもしれない。

 そう考えた方が、色々と合点が行くと言うモノ。

 好戦的なここの獣達とは違い、大人しそうな人だ。

 出る事にしよう。

 女の子だし、やっぱりうさぎの方が良いかな?


 本当は現世のうさぎに成ろうとしたが、最近良く見る二足歩行のうさぎが頭に過ぎり、そっちに変身してしまった。

 当然、見て来た中で一番強い、真紅眼の個体だ。


『⋯⋯いぎゃあああああああ! 食われるうううう!』


 武器を持っているのにも関わらず、腰を抜かした。

 もしかして、このうさぎって人にはかなり恐れられているのでは?

 てか、言葉が分からない。


 あ!


「出来た。日本語話せる! 凄い。前世と性別とかが全く違う筈なのにスラスラと言葉が出せる」


 驚愕しているが、それは相手も同じ。

 掌を見て、スキルを確認する。


 種族:森人族エルフ

 スキル:【生物対話】【精霊対話】【言語理解】【精霊召喚】【精霊契約】【原初精霊の加護(風)】【精霊目視眼】【魔力眼】


 言語もスキルなのかな?

 にしても多い。

 精霊に関する事が多い。エルフは精霊に精通しているのかもしれない。

【原初精霊の加護(風)】とか、絶対に強いやん。


「え?」


【原初精霊の加護(風)】に意識を向けて詳細を確認すると、驚きの事が書いてあった。


 原初精霊の加護

 貴方は加護を受けれる器では無い。このスキルは発動しない。


 ドッペルゲンガー以来のスキル説明に驚きながら、予想通りと言うべきか、意味の無いスキルだった。


「え、いやなんで! てか、さっきからなんで手を!」


 お、だいぶ声を聞いていたお陰か、言葉を理解出来る様に成った。

 彼女のスキル、【言語理解】のお掛けかもしれない。


「オレ、ドッペルゲンガー」


 ワオ、カタコトダ。


「喋ったあああああああああぁぁぁ! ドッペルゲンガー? 殺されるうううう! い、いや。ドッペルゲンガーは変身先寄りも弱い。私に会ったが百年目! その命、頂戴する!」


 短剣を抜いて襲い掛かって来るが、野生の中で生きた俺相手には遅かった。

 取り敢えず躱す。


「あの、ドッペルゲンガーについて、教えてくれませんか? お、普通に喋れる。変身が安定したか?」


「わ、私を食べるんでしょ!」


「食べんよ。胃袋あるか分かんないし。空腹感を感じないんだ」


 そして、エルフの女性は落ち着いた。


「わ、私はエルフの、ヒスイ・メイ・スカイです。エルフの風習である、20歳から120歳まで外で経験を積む、それで里から最近出て来ました」


「⋯⋯あ、俺が名乗る番ですか。俺はドッペルゲンガー。名前は、忘れた」


 俺、前世ではあんまり名前で呼ばれなかった。だから、覚えてないや。

 取引先の人の名前とかは覚えているんだけどね。


「ドッペルゲンガー⋯⋯そう言えば、さっきキックラビットの亜種に変身してましたね」


「ドッペルゲンガーについて、知っている事を教えて頂けませんか?」


「あ、私で良ければ」


 ドッペルゲンガーについて聞いた。

 ドッペルゲンガーは生まれてすぐに見たモノに姿形を変える。

 それは生物に限ると言われているが、定かでは無い。

 ドッペルゲンガーは変身した元を殺すと言う習性があり、基本的に返り討ちにあってその命を終わらせるらしい。

 世の中全員元はドッペルゲンガーかもしれない⋯⋯そんな物騒な事も言われているようだ。


「なんでドッペルゲンガーは負けるのに本体に挑むんですかね」


「⋯⋯自分と言う存在を確立させたいからじゃないか? 本体を倒すと、スキルを完璧に自分のモノに出来るしな。それに、心と言うか感情と言うか、それがその変身した先に傾くんだよ」


「スキル? そうなんですね。でも、貴方は違いますよね」


「それは」


 俺はドッペルゲンガーの気持ちを考えてみる。

 周りに合わせて動くだけだった俺だから、分かる筈だ。

 他者の気持ちを理解しろ。


「ドッペルゲンガーは生まれてすぐは自分の意思と言うか、心が無いんじゃないか? だけど、俺にはある。折角手に入れた心を失いたくない。だから、本体に襲いかかるのかも。俺は元々複数の変身が可能だったから、普通で居られる」


「そうなんですね。それで、ドッペルさん」


「⋯⋯俺以外居ないか。なんだ?」


「使役、されませんか?」


 そう言えばさっき、彼女はスキルの存在について知らない風だった。

 この世界でスキルを確認出来る方法は無いのかもしれない。

 或いは、そう言うのが無いと言う認識か。


「使えるのか?」


 使役やテイムに関するスキルは無かった。あったのは【精霊契約】くらいだ。


「はい。使役魔法テイムマジックの契約です。どうでしょうか?」


「魔法は技術なのか⋯⋯」


「ん?」


「いや。それで、俺に無理矢理命令を聞かせる事が可能なのか?」


「そう言う魔法もありますが。それだと魔物の本来の力が出せません。出来れば、合意の元の契約が良いです。絶対命令権はありません。あくまで繋がりを持ち、共に生きると言う感じです。私のメリットとして、優秀な魔物のドッペルさんが仲間になってくれるし、他にもあります。ドッペルさんは私の庇護下に入るので、シルフ様の加護を僅かですが、受けれる筈です」


「効果は?」


原初オリジン風の精霊ヴィントエレメントのシルフ様の加護は風等の空気の流れに敏感に成ります。さらに、風に関する魔法などの威力等が向上します。後は、風の精霊達と仲良く成れやすいって感じです。我々スカイ種のエルフだけがシルフ様の加護を得られるのです。どうですか?」


 もしかしたら、これでスキルの方も使用可能に成るかもしれない。


「分かった。その代わり、条件がある」


「なんでしょうか?」


「敬語は辞めないか? なんかむず痒い」


「そうですか? 分かりました。と、すみません癖で」


「癖なら仕方ないさ。あと、この世界について、色々と教えてくれ。魔法とか」


「私で良ければ! あと、この世界って言い方だと、ドッペルさんはこの世界の生物じゃ無い感じがします」


「ま、まぁ生まれたばかりだし」


 社会人、言い訳しました。

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