君に恋をしたことは間違いなのか

☆猫より柴犬派☆

プロローグ

阿久津あくつさん。こんな事を伝えるのは大変心苦しいですが……落ち着いて聞いてください。まずは奥さんのことですが最善を尽くしましたが元々衰弱していたのもあって出産に体が耐えられずお亡くなりになりました」


 一瞬何を言われたのか分からなかった。つい数時間前に俺は妻と会話を混じえたばかりのだ。それが突然亡くなったなんて言われてもすぐに納得することは難しかった。


 妻の冷たくなった手を握った今もまだ現実を受け入れられない。


「本当に……妻は…朱里あかりは死んだのか?」


 目を逸らした医者の「残念ながら、私の力不足で……」という言葉を聞き俺はその場に座り込んだ。


 気づいたらこの10年弱の間、流すことのなかった涙が目から溢れてきていた。


「なんで…」

「それと、赤ちゃんの事も話しておかないと行けません」


 虚ろな目で案内されたケースの中を見るとそこには気持ちよさそうに眠っている女の子の赤ちゃんがいた。


「何とか手術自体は成功して赤ちゃんは生まれてくる事が出来ました」


 先程まで絶望だけだった俺の心は自分の血を引く娘を見て喜びと悲しみの入り交じったようなごちゃまぜな感情が溢れていた。


「よっ、良かった……良かった…娘だけでも助かって…」


 安堵して医者の方に顔を向けるが医者の顔色は暗いままだった。


「申し訳ないですが、娘さんのことでも伝えないといけないことがありまして……出産予定より大分早く生まれたこともあって体に何か障害が残っている可能性があります。それに……」


 その言葉を聞き俺は固まった。


 そして産まれたばかりの小さな命を見て俺はまた泣いていた。


「ごめん。ごめんよ」


 何もしてあげられないことに謝ることしか俺にはできなかった。

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