第EX6ライブ2
床を這う何本ものコードそしして、剥き出しの鉄筋コンクリートと配管やダクト、それに照明やスピーカーを吊り下げる溜めに天井から垂らされたいくつものワイヤー、立ち見の客席とステージを仕切り、興奮した客を押し止めるための重く塗装の剥がれたバー。
この場所に立った時にはあぁ俺はバンドマンなんだ。とちっぽけな自尊心が満たされるのを感じる。
客席は逆光によって見えない事がいつもは不満でしかないが、今日ばかりはありがたい。アイツが居ない今の観客席なんか俺は見たくもないからだ。
「初めましての方は初めまして、俺達【
そう言うと、マッシュヘア風の長身と言うにはやや物足りない男はコードを押さえてジャラジャと音をかき鳴らす。
すると如何にも病んでると言った見た目の。ストリート系ファッションの女の子がキャーっと歓声を上げる。
「次は……サブボーカル件サブギターの坂本!」
俺の名前が呼ばれる。岡本のように俺もカッコいい風の音をジャラジャラとかき鳴らす。
すると黒く日焼けした女性。
彼女が居るだけで少し気がまぎれる。
「ベースの荒井!」
小柄な男は一歩前にでると、響くような重低音がかき鳴らす。すると大きなお姉様がたたから歓声が上がる。
そのなかには荒井の彼女の
「キーボードの中田!」
呼ばれると顔上げてニッコリと微笑んで、短い曲を演奏する。
熱心に歓声を上げるファンの中には、中田の彼女の姿もある。
「そして新メンバーでドラムの三浦!」
ハイハット・ハーフオープン、スネア、スネア、ハイタム、ハイタム、ロータム、ロータム、フロアタムとリズム良く叩いて簡単だがそれっぽいフレーズを叩く。
しかし、他のメンバーに比べて歓声が上がることは無い。
なぜなら、【
歓声が上がらない事に驚いて、中村が唖然としているので仕方ないと思い助け船を出す。
ヒソヒソと客の声が聞こえてくる。
「そして! ヴォーカルの中村!」
俺は出来る限り目立つように声を張り上げる。まずは挨拶代わりの一曲目、【
基本を書いたのは、岡本だが歌詞を書いたのはそう言えばアイツだった。
足元の家庭用ゲーム機ほどの大きさの返し……モニタースピカ―から自分が引いた音が流れ出す。練習したいつも通りの音が鳴る。目を客席に上げても指が、手が、体が正しい動きを覚えていて練習通りの動きをトレースする。
ちゃんと他の音も聞こえる。リズムを担保するベースもドラムもハッキリ聞こえる。
アイツのドラムよりも、音は弱いがハッキリ聞こえてリズムが狂う事もない。間違いなくアイツより腕の有るドラマーだ。だが物足りないと感じている自分がいる。今日が合せるのは初めてだが、皆いつも通りの演奏ができている。
だが客のノリが良くない。いつもなら皆腕を上げたりして乗ってくれているのに、そう言うのが無いのだ。
MCを挟まず次の曲へ行く……「れでぃーすてぇでぃー」これは初めてアイツが作詞作曲した曲だ。
途中MCを挟みながらも何曲か演奏しとうとう最後の曲になる。
「皆ありがとう……最後は……」
俺はマイクを奪い言葉を発する。
「最後は過労で死んでしまった。友人に捧げたいと思います」
俺の言葉を聞いて、中村はぎょっとした顔をする。
俺はそれに構わずアイツが書いていた曲の楽譜を配る。
「うちのドラムが最後に書き上げた曲……タイトルはAA126ってなってたんですけど……俺がタイトル付けたいと思います。
俺はマイクを奪い取り、声を上げて熱唱する。難しいコード進行や所は少ない正にアイツが書きそうな曲だった。だが、歌詞やフレーズの多様で印象には残るそんな曲だ。
特にボーカルの声を聞かせるタイプの曲だから気恥ずかしい。
今日一番の盛り上がりと言っていい。
中には涙を流している者も居る。
先輩の言った通り、音楽なんてのはまやかしなのかもしれない。だが俺はそれが好きだ。
楽曲が終わり礼を言い頭を下げる。
「ありがとうございました。」
歌ったせいか、照明による熱のせいか、喉がカラカラに乾いていて、汗でベタベタだ。でも最高に気持ちのいいライブだった。
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