第17話菓子職人との決戦!




 

菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーの言い分も自分は理解出来るつもりです……しかし美味しくない事は揺るぎない事実であると確信しています。さて前置きが長くなってしまいました。最近私は趣味として園芸や料理を始めまして……皆様に食べて頂きたいと思いまして……お持ちしました」


 俺はそう言って使用人に合図を出す。

 タルト・タタンの乗った皿を女中メイドや下級使用人の従僕フッドマンが配膳しそこへ、茶淹女中スティルームメイドが空かさず、白磁の茶器ティーカップにお茶を淹れてくれる。


「なんだこの焦げた菓子は……」


 菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーは見るからに嫌そうな表情を浮かべる。


「コレはタルト・タタンと言う菓子で、表層のリンゴが茶色く変色していますがこれは、甘いモノは焦げやすく熱で変色しているだけです」


「そんな事は知っている……つまりは失敗作か……」


 菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーはチクりと嫌味を言う……


「申し訳ございません。

初めて作った物ですのでプロのモノと比べられると数段劣るでしょう?」


 俺はワザと失敗していると思わせないように話す。


「……」


 まさか俺が作ったものだとは思わなかったのだろう……みるみる表情が青くなっていく……


「ですが焦げは悪い事だけではありません。

風味を足したり味にアクセントを加えてくれます。

コレが新しい時代のお菓子です」


 俺はそう言って皆に食べるように促す。

 するとナイフとフォークで小さく取り分け、小さく切った物を母様が口に入れた。


「はむ……あぁ美味しいわ。

林檎の爽やかな香りと溶けるような口当たり、それでいて甘さがしつこくないのは、林檎のお陰かしら?」


 ――――と母様は大絶賛している。


「本当だ、蜂蜜の焦げが香ばしい香りと苦味を足していて、俺は好きだな……冒険者時代に、南方の黒い泥水のようなお茶を飲んだことがあるが、苦味はそれに似ているな」 


 ――――パウル父様にも概ね好評のようだ。

 

 それに南方の黒い泥水のようなお茶と言うのが気になるが……今はいい時間はたっぷりとあるからな。


 アイリーン夫人も――――


「ナッツの食感が良いアクセントになっています。

それにバターと麦の香りが良く立っていて美味しいですわ」


 リンダも。


「うまい!」


 ――――と言って大きな口を開けてかぶり付く姿を見て、アイリーン夫人と、子守女中ナースメイドがおろおろと狼狽えている。


「地元のリンゴの方が美味しいわね。お菓子にするとこっちの方が美味しいけど」


 そう言いながら優雅に食べているのは、スヴェータだった。

 名前から判断すると、北方の出身のスヴェータの地元のリンゴは、多分糖度が高い生食用なのだろう。

 お菓子にすると美味しいのは、意外かもしれないが酸味の強い品種だ、


「……」


 無言でフォークを突き立ててかぶり付いたのは、菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーとしての意地であろうか?


「……マズイ」


 あれ……やっぱり菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーとしての意地で、俺の菓子を認めないつもりなのだろうか?


 美味しいといってくれるものだと思っていたので、その言葉は青天の霹靂へきれきで戸惑いを隠せない。


「素材がそれぞれの個性を主張しすぎています。確かに砂糖が少ない方が風味を大切にできるのは、この焼けた砂糖で理解できました。私達は砂糖が焦げたダメになるとばかり凝り固まった価値観の中にいました。これなら発想さえあれば私のような石頭でも、もっともっと上手く作れる!」


「なら……」


「これは私の様に頭でっかち達には、貴族にふさわしい物とは言えないと言い出すでしょう……」


 だが、世間一般の常識では、砂糖を大量に使った贅沢なお菓子が基本。高価なモノを大量に使ったモノがいいモノなのだ。


 これは中世ヨーロッパでも同じことがあり、胡椒を兎に角かけたりしていたことが有名だ。胡椒は同じ重さの金と同価値と言うがアレは嘘だ。実際は銀貨で支払う事が多く当時の貨幣の流通量で言えば銀貨こそが重要だった。

 事実中高の世界史でポトシ銀山を習うのはそう言う事だ。事実。安土桃山から太平の世である江戸時代まで、日本の銀も大量に欧州に流失している。


「そんな事ない。さっきも言ったが“素材の味を生かした新世代のお菓子”っていえば、他の貴族や豪商達も文句なく食べ当てくれるハズだ。

彼らは味に執着している訳じゃないからね」


 全ては言い方だ。

砂糖を減らしたお菓子だと、貧乏な平民のお菓子だと受け取る者もいるだろう。

 だが流行のお菓子だと言えば、そういうものなのかと受け取られる。

 躊躇っているからダメなんだ。例え嘘でも堂々と言い切ってしまえばいい。俺は自己プロデュースが上手くセミプロとして、問題なく食べている先輩を思い出した。


 あの詐欺師、いい加減捕まらねぇかなぁ~


「……」


 どうやらもう一押し必要なようだ。

 会談などをした際に料理や花瓶に生けた花や仕草で、ホスト側の意思を伝えると言うやり方があると、ニュースで見た事がある。

 

 例えば、クラブケーキと言うワタリガニなどの蟹の肉と卵や玉葱を使ったアメリカ東部メリーランド州の名物料理には、俗語スラングとしては「仲間でもないのに、いつまでもブラブラとまとわりついてくる奴」つまりは「友達ぶっている奴」と言う皮肉めいたモノがある……

 花にも花言葉にも当然悪い意味もある。

 例えば、紫陽花アジサイには「移り気」や「落ち着きのない」と言う意味があるらしい。

 こう言った品の有るようなお上品な相手の貶し方……「京都人」や「大英人」のような、分かりにくい皮肉を利かせた言い方「ぶぶづけ食べますか?」見たいなのは、俺にとっては文化ではなく雑学の話になってしまう。

 生憎とそこまで学があるわけではないので、残念ながら知っている限りの料理の誕生秘話で勝負するしかない。


「このタルトにはとあるストーリーがありましてね」


 俺は昔洋菓子屋で聞いた話を思い出す。


「ストーリー? コレはユーサー様が考えたのでは?」


 菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーは驚きを隠せないようだ。

 俺は首を横に振って否定する。


「ある村に、タルト作りの上手なタタンと言う姉妹が居ました。

彼女はタルト作りが得意だった。ところがある日、焼くときにうっかり果物だけを先に焼いてしまった。誰がどう見ても大失敗と言えるでしょう。思わぬ失敗で手順を忘れ途中から生地を被せて焼いたのです。つまり何が言いたいのかと言うと、失敗を失敗のまま終わらせてはいけないという事です。失敗してからでも前向きな努力を続けることが大事だという事です。「失敗は成功の母と言いますしね」別の方の言葉ですが……「天才は1%の閃きと99%の努力である」と仰っている方もいらっしゃいます」


 俺は遠回しに砂糖塗れの菓子に傾倒していた時代と 菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーの判断を俺は「失敗」だとは思うが、その時間は無駄ではないと言いたいのだ。


「そういうものでしょうか?」


「そういうものだって。ほら、皆を見てよ」


 ユーサー達が話している間も、自分達以外は食べ続けている。

 程よい甘さのタルト・タタンに夢中になっている。


「美味しいと思う方を食べている。舌は正直だよ?」


 こうして砂糖を減らしたお菓子は、素材本来の味わいを楽しむ本物の貴族のお菓子として広まって行く事になる。

 頑なに旧来のお菓子を食べる女性には、「砂糖は肥満の原因で美を損なう」と言い。男性には「肥満で馬にも乗れないなど恥ずかしい」と言い着実に流行から文化へと成熟し、南方国家に対する砂糖による貿易赤字がある程度改善される。ことになったのはまた別のお話。




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【あとがき】

まずは読んでくださり誠にありがとうございます!

読者の皆様に、大切なお願いがあります。

少しでも、


「面白そう!」

「続きがきになる!」

「主人公・作者がんばってるな」


そう思っていただけましたら、

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つまらなけば星一つ★、面白ければ星三つ★★★

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新作異世界ファンタジーの

【魔剣士学院の悪役貴族(ヒール)の四男は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めました。】

https://kakuyomu.jp/works/16817330649742962025/episodes/16817330649866158494

こちらもよろしくお願いしますm(__)m

2月まで二日に一回更新していきます

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