第23話 プリンスエドワード島3
8月31日。
当初、今日一旦シャーロットタウンを離れる予定だった。でも同宿者との生活が楽しいのでもう暫く滞在する事にした。
昨夜、トロントからの女性2人とレンタカーでキャベンディッシュに行く約束をしてたが、朝食時にGaryを誘ったらO.K.で4人で行く事になった。 運転手は予定通りJanis で、彼女は運転するのが好きなようだ。
キャベンディッシュはシャーロットタウンの北北西にある海岸沿いの小さな町だ。『赤毛のアン』の物語では、『アボンリー』というロマンチックな名称になっている。
『Green Gables』は、物語の中で孤児院から引き取られたアンがカスバート兄妹と住んだ家のモデルであり、著者の L.M.Montgomery(ルーシー・モード・モンゴメリー)の叔父さんの家だったようだ。
外観は正に物語の『グリーン・ゲイブルズ』そのままだ。中に入ると今にもアンやマシュウ、マリラが現れそうな雰囲気がある。物語の描写よりは少し狭いかな。
家の周囲は一面芝生でゴルフコースのようだ。近くの芝生にリンゴの樹が1本あり実がなっていた。Gary が樹を揺すったのでいくつか実が落ちた。斜度があったので実が転がり一生懸命拾ってたらみんなに笑われてしまった。
その後、L.M.Montgomery 夫人(モンゴメリー夫人)の生誕地を見学した後、海岸をみんなで歩いてみた。いつの間にかGary と2人になったと思ったら後ろからJanis とScharon が走って来た。驚いたことにJanis はビキニの水着に着替えていた。着替える場所なんかあったかな⁉ 着痩せしていると見え、思った以上に良いプロポーションだ。フィルムの用意ができてないのが残念である。海岸の水は冷たく、結局Janis は海には入らなかった。
海岸の後、4人で近くの草原で乗馬に挑戦。ウォーキング(常歩)の後、経験者の Gary と Janis はファースト(速歩)にも挑戦していた。
夕食は予定通り、ニューグラスゴーと言う海鮮レストランに足を運ぶ。有名なレストランらしく少し待って席に案内された。全員狙い通りに注文し、新鮮なロブスターに舌鼓を打つ。恐らく3人は、”高いが美味しい”と思ったはず。私は、”美味しいが少し高い”と思いました。
ロブスターを堪能した後、真っすぐシャーロットタウンに戻ったまでは良かったんだが、この後予想外のトラブル発生。
軽くビールを飲むつもりで、"Bann" と言うショットバーに入り4人で楽しく話していた。ところがそこに他のグループの男の一人がJanis に何やら話しかけてきた。明らかに酔っ払いでしつこいので彼女も適当に相手にしていたが、途中から彼女の首に手を回して撫で始めた。彼女は我慢してじっとしていたが、酔っ払いはニヤニヤしながら止めようとはしない。
クリスチャンであり牧師でもある Gary が横に居たなら、上手く対処したのであろう。だが横に居たのは短気で冷静さを欠いた日本人だった。思わず立ち上がりざまに酔っ払いの顔面を殴ってしまった。
(しまった。やってしまった)
自分でも、まさかと思った。中学時代以来の暴挙である。昨日までならもう少し冷静に対処できたかもしれない。今日一日共に楽しく過ごし、すっかり彼女の事が気に入ってしまっていたようで、怒りの沸点が随分低くなっていたようだ。
謝罪したが数秒後、今度は凄まじい相手のパンチが飛んできた。「グァーン」という音がしたように感じた。謝罪する事に意識が行ってしまって防御が疎かになっていたようだ。彼の仲間らしい他のまともな人たちが止めてくれなければ、どうなっていたことか⁉
まともなグループの中にも一人ぐらいは、酒癖、女癖、性格の悪い奴もいるものだ。180cm,75kg ぐらいのボクサータイプの筋肉質の若い野郎だった。パンチを食らって仰向けにダウンしたのは生まれて初めての事である。ダウンの後、髪をだいぶ引っ張られたのでかなり抜けた。
Janis に帰ろうと声をかけられたが、眼鏡を落としたようで探していたら、近くに居た男の人が見つけて手渡してくれた。店の人に謝罪して最後に店を出た。
改めて、別のレストランでお茶を飲んで宿に帰ったが、折角の最高に楽しかった一日を台無しにしてしまった。
この夜、朝まで寝付かれなかった。1時間毎にトイレに立った。怒りと尿意とが関係あるのを初めて知った。翌朝、数日前から同室になっていた Gary に聞いてみた。
"Do you sleep last night?"
"No, You went to Rest room many times."
Gary にも悪い事をした。しかし、同室の人がトイレに立ったぐらいで目が覚めるかなあ? クリスチャンて神経質なのかな?
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