第3話

「まずい……。どうしよう……」


ルーナは先程教師より配られた『魔物討伐実習』のグループ分けが書かれたプリントを持ち絶望感に打ちひしがれていた。気持ちがプリントを持つ手に伝わりすぎて、プリントにグシャリと皺が寄っている。


『魔物討伐実習』

『騎士科』と『魔法科』の生徒が成績順にグループを割り振られ、両学科の生徒間で協力し課題となる『魔物』を討伐する実習である。


婚活の為に出来るだけ成績が良い方が高位貴族の目に留まり、魔力目当てで玉の輿を狙えるかもという打算のもとに『魔法科』内で上から数えた方が良い成績を修めていたルーナ。


まあ、殆ど座学よりも実技に重きをおいて成績を底上げしていたのだけれど。

成績は実技、魔力量、座学のテストの点数で決定されるため、家族やギルバートに口癖の様に「自重しろ」と云われていたルーナは本人的には実力の半分くらいの魔力量を申告したり魔法を使っていたのだが、皆の心配をことごとく打ち砕きこのザマだ。


「あら、ルーナ様はどなたとグループ分けされましたの?」

「イレーネさまぁ……。私……」


先程からプリントを持ったまま顔色や表情が百面相しているルーナを心配し覗き込みながら声を掛けるイレーネ。

ルーナは涙混じりの声でプリントをイレーネに手渡しながら耳打ちする。


「こんなメンツ嫌なんだけどぉぉ………」


イレーネもプリントに書かれたルーナのグループ分けメンバーに視線を落とすと大きく目を見張り、静かに同意の意味で頷きかえす。無言でルーナの背中を優しくさすった。


『魔物討伐実習』


1年生Aグループ


『騎士科』

1年主席 ギルバート・レクラム

1年次席 ベルンハルト・グライスナー


『魔法科』

1年主席 イザベル・フォートリア

1年次席 ルーナ・ヘルゲン




この学園の正式名称は『グライスナー王立学園』だ。

王族といえども、忖度無しに実力で国を脅かす魔物を討伐出来るようになるまで鍛え上げるを目的とした鬼畜仕様学園だ。

基本的に魔物討伐は前衛は『騎士科』後衛は『魔法科』の生徒が担う。

『騎士科』の生徒の門戸は広く平民、貴族などの貴賤の区別なく、実力さえあれば入学可能。しかし、それ故に入学試験は最難関を極める。

そんな厳しい『騎士科』だけれど、卒業後には王立騎士団への就職や成績次第では『近衛騎士団』への配属も夢では無い。

そのため、市井の優秀な人材が集まっており、婚活相手として青田買い目的の貴族のご令嬢から注目されているのである。


『魔法科』は魔力量テストや適応属性、魔法の実技によって入学が許可される。

この世界において魔力量は血筋に則ると思われているフシがあり、魔力量が多いイコール貴族という図式だ。

この要件に関してルーナは規格外であり、ルーナの両親は他家との軋轢等を憂慮し口酸っぱく「自重しろ」とルーナ自身に再三注意している。

魔法適応属性に関しても、大体一つの属性のみである事が多く、王太子が2つの属性を持ったことが魔力測定で露見した際に新聞の号外が出た程だ。

ルーナは全属性適応かつ苦手だと思っている属性は只コントロールが出来なくてめちゃくちゃになるからである。


以上の事から『魔法科』はお貴族様が多く通う社交界の縮図と言う訳だ。婚活するには絶好の場ではあるが、それ故に細心の注意を要する。玉の輿を狙うルーナは猫かぶり必須なのである。


また今回ルーナが貧乏クジを引いた『魔物討伐実習』は青田買い目的のご令嬢にとって、同じ敷地内にあるが校舎も寮も違う『騎士科』の優秀なお婿さん探しの場として格好の狩場なのだ。

そして『魔物討伐実習』にて、戦闘時に協力することで親交を深めそのまま婚約し、学校卒業後に結婚という男女は驚く程に多い。

『吊り橋効果』の賜物だ。


ルーナは婚活の手始めとしてこの『魔物討伐実習』で、魔力量と魔法の実技をアピールし、大人しめ令嬢の猫かぶりで高位貴族かそこそこ裕福な商家の子息と親交を深めたかった。


残念なことにギルバートは論外として、『騎士科』次席であるベルンハルト・グライスナー。

お察しの通り、ルーナが先日ロマンチストと評した王太子殿下だ。ルーナはそこそこの貴族と結婚し玉の輿を狙っているため、この方も論外中の論外である。


ルーナはまさかの未来の国王陛下と王妃(仮)と幼馴染兼元専属従者と『魔物討伐実習』に行く事になったのだ。

猫かぶりが解除され粗相をしようものなら、扇子が飛んでくるより先に首が刎ねられる?と頭を抱えることとなった。


ルーナは手始めに毎日鏡の前で1時間していた「大人しめ令嬢っぽい微笑み」練習を1時間半に増やし、微笑みバリエーションの新たな開発に取り掛かることにした。


ルーナはとりあえず考えるよりも身体を動かし、練習を繰り返すことで何とか乗り切れると信じる体育会系思考の持ち主だ。もしくは生粋のドMか脳筋。

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