第2話

「まぁ!そうなんですの?」

「えぇ……、そうなんですよ。ルーナ様。あの王太子殿下には幼い頃よりお心を寄せてらっしゃる方がいらっしゃるとか……」

「一途でいらっしゃるのね。王太子殿下は……。とてもロマンチックで素敵ですわね……」

「はぁ……、せっかく私達は王太子様と同学年という幸運に恵まれたのに残念ですわぁ……」


食堂で同じクラスのイレーネと円卓を囲みながら「大人しめ令嬢」らしい会話をするルーナ。


「…………、あのさ、この話し方何時までしないとダメなの?」

「ん?とりあえず、あの一団がこの食堂を去るまでよ……」


しかしながら、ルーナにとって猫かぶり限界時間が近づき、イレーネに催促がましく口元を隠しながら小声で確認する。

げんなりとした表情でイレーネが視線で示すのは、王太子の最有力婚約者候補と国内で知らぬものはいないイザベル・フォートリアとそのご友人達のテーブルだ。


イザベル・フォートリアは美しい金色のくるくる縦ロールとルーナと同じ制服を着ている筈が胸元のボリュームが格差社会。持たざる者は神の無慈悲により持てれないモノだ。

因みにルーナはあの髪型を見ると美味しそうなキャラメル風味クロワッサンみたいと思い食欲が唆られる。


そんな彼女は容姿とともに家柄でもルーナよりも持てる者だ。フォートリア家といえば、祖に王族を持ち現在では国内にある3家ある公爵家の中でも最も権勢をふるう。

そのためイザベルは王太子との家格の釣り合いもとれ年令も同学年であり筆頭婚約者候補だ。


そんな彼女は公爵家令嬢として他の貴族の模範となるように言葉遣い、所作など完璧だ。そこまではどうぞご自由にして頂ければよいのだが彼女は他の令嬢にも格式高い所作や言葉遣いを求める。

少しでも彼女の前で粗相をしようものなら、彼女の標準装備の扇子で手の甲を弾かれる。


端的に云うなら他者に礼儀を押し付けてくる『当たり屋』


不躾にずっと眺める訳にもいかず、ルーナはせめて会話をせずに済むようにデザートの苺のショートケーキを口に運ぶ。

ルーナが紅茶とケーキに夢中になっている間にイザベル御一行は食堂を後にした。


ルーナは今後の学園生活に思いを馳せ小さく嘆息した。



♢♢♢♢♢


「『魔法科』1年ルーナ・ヘルゲンと申します。王太子殿下には――」


「あぁ。楽にして?同じ学生じゃないか。イザベルも良いよね?」


「はい。殿下がそうおっしゃるなら……。私からは何も異論はございません」


「じゃあ、そういう事なら。俺は『騎士科』1年ギルバート・レクラムだ。どうぞよろしくな」


ルーナは今、人生史上極厚の猫かぶりをしている。


おい。ギルバート。あなた、今私の事鼻で嗤ったの見えたからね?と心の内で悪態をつくルーナ。


「大人しめ令嬢」の微笑みを貼り付けたルーナは早くも婚活をしつつ猫かぶりをするという目的が破綻しそうな最大の危機に瀕していた。

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