6 本好き少女のピアニッシシモ

 お昼休みになったところで私は速攻で昼食の誘いを断り、隣のCクラスへ向かった。


「くぅ、もう授業が終わっちゃってる!?」


 Cクラスを後ろ側からそっと覗き込む。

 急いで来たのだが、先生の姿が見えない。

 天羽さん、もう移動してしまったかも……。


 泡を食っていると、一番後ろの席にいた黒瀬が私に気付いた。

 でかいのは自分の顔を人差し指で指し示すが、私はそれに大きく首を横に振った。

 その私の挙動で黒瀬はなにか気付いたらしく、今度は教室の左奥を示した。


「天羽さん……!」


 今度は大きく縦に首を振る。

 すると、黒瀬が席を立った。

 なんと、奴は天羽さんに話しかけ、そして私の居る入り口を指し示す。


 おぉ、あいつでかいだけの恋愛脳かと思ってたら割と使えるじゃん!


「あの……私になにか御用でしょうか?」


 私の元へゆるりゆるりとやってきた天羽さん。

 当然のように私の推しその3の声をしているじゃないかあああ。


 黒瀬が天羽さんの後ろで人差し指を立て、もごもごと口を動かしてる。

 なんかちょっと嬉しそうだけど何言ってんのか分かんない。

 あれで意味が通じてるつもり? ちゃんと喋れよ。


「えっと、まずはハジメマシテ! 私、Bクラスの香月伊緒奈」

「これはご丁寧に。私は天羽文歌と申します」

「えっと、その実は、私と友達になってくれないかなって」

「え……お友達にですか?」

「そう……! 実は私も本好きでさ! 学内図書館で司書さんに言われたんだ!

 『それなら天羽さんとお友達になってみたら?』って。

 それでなんだけど、びっくりしたよね? えと……ダメかな……?」


 うん、嘘ですごめんなさい。


 ゲームでは知力パラメータが3段階以上、かつ図書館利用回数3回以上。

 それが、彼女が本好きの友達を欲している――という情報の入手条件だ。

 書庫の鍵が使えるようになるのと同時に、司書さんに教えて貰えるんだよね。


 いや、でも本は好きだけどね……!

 まぁほとんどが漫画やラノベだけど、読書には変わりないさ!


「まぁ、そんな事があったんですね。

 実は……私も本が好きなお友達が欲しかったんです。

 前に司書さんにそんなお話をしたことがあって……。

 そういう事でしたらダメなんて事はありません。

 いいえ、むしろこちらから是非。お友達になって頂けますか?」


 うはぁ~。文歌可愛いよ文歌!

 消え入りそうな声でぽつりぽつりと、ゆっくり紡ぎ出されるウィスパーボイス。

 本当に、ずっと聞いていたい気持ちになる……。


「本当に? 私からも改めて是非お願いするよ!」


 私は天羽さんと友達になった。テレッテッテー。


 IDもゲットしたのでこれで連絡は万全。

 そして放課後にご一緒しようと約束した。

 私からCクラスに迎えに行き、行き先はもちろん……。

 見ていたまえ水無月さん!


 天羽さんと友達になった後は疾風のごとくテンプレ退部届関連を消化。

 しかし、さすがにお弁当を食べる余裕はない。

 け、れ、ど! 今回はちゃーんとパン回収してるもんね。

 さすがに天羽さんに会うと時間がたり無さそうなのは折り込み済み!

 素早くパンをお腹にしまいこんで、私は弾む心で放課後を待った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る