【1万PV突破!】水面のカルテット ~乙女ゲー世界にTS転生……は?喜ぶとでも思ったのかよ、生憎だったな!おれは乙女ゲーアンチとしてネット界隈じゃ有(ry~
成葉弐なる
1 水面のカルテット
目覚めたら女だった。
ネットでよくある異世界転生ってやつなのかもしれねーが、俺が俺である事に気付いたのはこの世界で高2になる春だった。
前世の記憶が覚醒した時のお約束ってやつで速攻で鏡の前に立ったさ。
「悪くねーんじゃねーか? つか普通に可愛い」
ラッキーだね。
TSしちまった事自体は置いておくとしても、ブスになっちまったら目も当てられないクソゲーのような人生がまた開幕しちまうからな。
俺の容姿を簡単に表現するなら、なんか地味で冴えないモブ子Aって感じだ。
だが悪くない。容姿そのものは普通に整ってる。
綺麗な黒髪。
髪型はかな~り前下りのアシメボブ。
そして、太めの黒フレームの眼鏡が鎮座していた。
見た目について満足した俺は、自分についてのこの世界での記憶を思い起こした。
そして分かっちまったのさ……。
この世界が俺の大嫌いな乙女ゲーの世界だってことをな!!
∬
「ちっ、なんでよりによって現代学園系なのっクソ」
俺は――私は、この世界がよく知る現代学園系乙女ゲーム《
なんでって、昨日の記憶を呼び起こしたら転入初日で学校名が分かったからだ。
《私立統制学院》。
乙女ゲーでよくあるミッション系の金持ちが通うクソ学校だ。
私がこの学校を選んだ理由を考えてみると、どうやら選んだってわけではないらしい。
両親の仕事の都合での引っ越し。
その引越し先で学力に見合った高校がここしか無かったのだ。
鏡とベッドと机、ほぼ空っぽのクローゼット。
そして複数のまだ開かれていないダンボール。
クローゼットの丸い引手部分には、統制学院の制服がかけられていた。
もちろん女の子用。
起き抜けに覚醒してまだパジャマ姿だった私はとっても苛立っていた。
「なんで! どうして! よりにもよって水面のQuartetなの!!」
ファンタジー系の乙女ゲーだったならまだいい。
だって大嫌いなカッコつけのキモい男共に付き合わずに、冒険でもしてりゃ良いんだから。
でもここは現代学園系乙女ゲーの世界……。
しかも、だ。昨日の記憶でもう一つ思い出したことがある。
私はよりにもよって、
「うえぇ……」
思い出したくもない奴の名前と顔が脳裏に浮かんで来て吐き気がする。
クソ、やっぱりいやがるじゃない……イケメンの男共がわっさわっさと。
それともう一つ――私は自分自身の境遇を呪っている。
どうやら魂は肉体に引かれる。
さっきから
「
女の、いや母の声が聞こえる。
そしてドアが開かれた。
「ちょっと伊緒奈、あんた何やってるの? 早く起きないと学校遅刻するわよ」
「分かってる……!」
あぁそうだ分かってる。
私の名前は
前世の35年間とこの世界での16年間。
合わせて51年間の記憶がはっきりと示していた。
残念ながら、こいつはどうやら現実だよ、と。
∬
急かす母に着せ替え人形のように着替えや支度を手伝って貰い支度を整える。
そして、まだ混乱する脳みそを叩き起こす為に強引に朝食を流し込んで家を出た。
いくら大嫌いな乙女ゲー世界、大嫌いな水面のQuartet。
そして大嫌いな
だって私だって、
それにどうやら今生の私の学力はかなり高い。
統制学院は全国トップレベルの偏差値って設定だったはずだし、私のこの世界での記憶もそうであると告げていた。
「大丈夫……オケ部は即日で退部すればいいんだし」
学院までの通学路を歩きながら、私はなんとかこのクソったれな乙女ゲー世界で普通に過ごす為の方法を模索していた。
でもそこまで気落ちはしてない。
「だって、そうよ! だって私――主人公じゃない!!」
主人公の名前と容姿は正確に覚えている。
なんでって、私の前世での推しの女性声優さんが声を当てていたからだ。
「……推しがヒロインやってるからって理由で、男が乙女ゲーをやっちゃ悪いか……」
歩きながらぼそっと呟くが、今の私は女だ。
なんとも言えないちぐはぐさ加減に自分でも笑ってしまう。
笑い方はどうやら前世のものを覚醒した段階で引き継いでしまったらしい。
自分でも気持ち悪いかな? って思ってた笑い方だから、人前ではあまり笑わないように注意しよ。
とにかく、前世で私が乙女ゲーをプレイしていたのは推しが出てる事が結構あったからだ。
決してホモだからじゃない。
それに女の人が作る女キャラって基本可愛いのだ。
ファッションセンスも今風だし、ちゃんと内面もリアルな女の子って感じで好感が持てる。
加えて推しが声をあてているとなれば、声優オタとしてはやらないわけにはいかない。
しかし、しかしだ。
結局の所ゲームを進めれば、推し演じる主人公が男共に落とされる事になる。
私からすれば完全にNTRである。
まずはひたすらにバッドエンドを埋める。
それから他のエンドを嫌々攻略していくのが、私のプレイスタイルだった。
ただただ、推しのためにその苦行に耐えていた。
だから私は乙女ゲーが大嫌いだった。主に乙女ゲーに出てくる男共が大嫌いだった。
同じ男として言う。奴らは完全に同じ男じゃない。
キモい。キモすぎて吐き気がする。
いや今の私は女だけど。
「でも……水面のカルテットか……」
水面のカルテットの主人公の名前は
まぁ乙女ゲー世界にありがちであまり目立って可愛いって容姿じゃない。
一部の夢女子のクソ共にはかなり不人気で、宇宙人とかブスビッチって呼ばれてる。
でも顔は整ってて素朴な感じの黒髪ロングの女の子だ。
絶対ブスじゃない。っていうかアニメ版のキャラデザだとほんと可愛いんだから。
……ほんと、一部のオタ女共の感性はよく分かんない。
あんなに可愛いみなもをブスとかさ……。
まぁいいや、私は主人公と
都合のいいことに、乙女ゲー世界に出てくる女の子は主人公以外も割とみんな可愛い。
私もそのご多分に漏れず、割と良い容姿なんだからそこだけは感謝してもいいかな。
「主人公じゃないなら、あのキモ男達と距離を取る方法はいくらでもあるはず!」
どうやら体が変われば考え方も変わるっぽい。
前の私だったらこんなにポジティブに考えられないに違いない。
ただのモブの私にはイベント回避の方法はいくらでもある。
そう思うと段々と足取りも軽くなってきて、晴れやかな気分で歩いていた。
と――考え事をしていたからだろうか。
突然右手から出てきた人影に気づくのが遅れた。
「――嘘」
ぶつかる瞬間、私は相手の顔を見た。
透き通るような艶のある綺麗な黒髪。よく通った目鼻立ち。
でも雰囲気はとても落ち着いていて、優しさにあふれる濡れた瞳。
――間違いない、水無月未名望だ!
「ご、ごめん! ちょっと考え事してて」
「ううん……大丈夫、私も不注意だったから」
うわああああ、推しと同じ声してるううううううう!
なにこれここ天国かなにかかな!?
「でででで、でもそれ」
嬉しすぎて挙動不審になりつつ、私は地面を指さした。
地面にはコンビニの袋。
お互いにぶつかって転んだせいだろう。
中にはいっていたBLTサンドは完全に潰れ、裂けたプラスチック包装からはみ出て地面に完全に落ちてしまっている。
「あぁ、これは……さすがにちょっとダメそうですね」
「ごめん! えとほら、すぐそこコンビニあるし、私買い直そっか!?」
「いえ、こちらも不注意だったんです。そこまでしていただかなくても……」
「そ、かな! あ! ていうか同じ制服だね!!」
「もしかして、あなたも統制学院……?」
「そう! とーせいとーせい!」
推しと同じ声をしてる子と友達にならない?
そんな選択肢は私にはない!!
どうにかして、私は彼女とここで友達になるつもりだ。
ってなんかそれ百合っぽい。まぁいいけどねソフトな百合なら全然いけるいける。
同じ転入生同士などと適当に話を合わせつつ、水無月未名望のメッセIDをゲット。
コンビニで彼女の昼食を買い直すついでに、私もパンをゲット。
そして昼食を共にする約束をした。
ホントは今朝世話を焼いてくれた母の作ったお弁当があるのだけど、水無月さんとの距離を近づけるためには仕方ない!
ん……待てよ。
おい、ちょっと待て私……。
そうだよ水面のカルテットの初日には、昼食イベントがあったのではないか。
そうだ! そうだよ!
お金持ちじゃなくバイオリンの腕を見込まれて転入してきた水無月未名望。
朝、校門前で
高すぎる統制のカフェテリアのランチに手が出ず。
一番安いメニューを頼んだもののお腹が膨れず……。
そこに現れるのが金持ちのバカ息子である
奴は「ほら、恵んでやるよ」と言って、未名望に昼食を出して……。
「やば……」
隣にいる水無月さんを見て様子を窺う。
彼女は思いがけず友達が出来たことに物凄く喜んでいるようだった。
けど、昼食イベントに巻き込まれるわけには……。
「ご、ごめん! 水無月さん。私、昼食は先約があるのを忘れ――」
言い終わる前に、突如としてクラクションが鳴り響いた。
交差点。まだ信号は赤のままのはずなのにトラックが突っ込んでくる。
私達二人はもう横断歩道を渡りきっているが、トラックの進行方向の先には小学生の女の子が足をすくわれて動けずにいた。
その光景を見た瞬間、私はすでに自分がイベントに巻き込まれている事に気が付いた。
いやそうじゃない。これはそうじゃなくて――。
時間が止まったかのようにゆっくりと流れる中、私は必死に周囲を見渡した。
あの馬鹿、どこにいるの?
私が探しているのは
この女の子を助けるのはあいつだ。
そして水無月未名望がそれを目撃する。それが水面のカルテット一番最初のイベント。
なんで私こんな大事な初期イベ忘れてんだ……!
でも仕方ない。
別にフラグがあるイベントじゃないし、私のゲームをする目的はあくまでも推しの声を聞く事であってキモ男共の活躍を見るためじゃない。
必死に見渡して、私はようやくそいつの姿を見つけた。
でも、おかしい。
浅神は私達の
あれじゃ間に合わない!!
私がやるしかない!
そう意気込んで再び女の子に振り返った時、私の横にいた水無月未名望が飛び出した。
スローモーションの中、水無月さんの表情がゆっくりと私の目の前を通り過ぎていく。
私はその彼女を見て驚いた。
「――なんで」
必死で女の子を救うために飛び込んでいった彼女の顔には、
――何故か狂おしいほどに満面の笑みが浮かんでいた。
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