転移者になって気づいたこと
かんたけ
第1話 転生者、転移者
トラ転、ゲームの中にいたら、誰かに刺されて、女神に呼ばれて、老人に言われて、頭を打って、自害して。
ありとあらゆる方法で主人公たちは死に、そして異世界で目覚めている。
かくいう俺も、その一人だ。
「ブギュアッ!」
振り上げた剣が、肋骨を掻い潜って心臓をさし、血飛沫が舞う。肉が裂ける感触を感じながら、強引に剣を引き抜き、血を何度か拭う。
あたりに散らばるゴブリンの死骸にオイルを撒き、火を付ける。
轟々と燃える炎は、青年の瞳に影を落とした。
彼に、仲間はいない。
今回のゴブリン退治も、青年はボッチで挑んでいる。
上級冒険者が、複数人で挑むような難易度なのにも関わらずだ。
ギルドに人材派遣を依頼してみたが、人相と報酬が悪いためか、集まった人材は皆無。
血眼で仲間になってくれとアピールし、なんなら日本の漫画でウケにウケた全力の泡踊りまでしたが、犯罪者を見る目で見られた。
ならば一発芸をと、服を脱ぎ捨て隠部をお盆で隠す。面妖なポーズをとった青年が見たのは、伽藍堂になった酒屋。彼の背後には、数人の冒険者が剣と魔法のステッキを構え、殺気立つ様子だった。
「おいおいナンシー。ゴブリン退治に行くってんのに、まるで俺がゴブリンのような扱いじゃあないかあ」
軽い冗談で言ったつもりだが、周囲は静まり返り、(笑)の一文字もない。
「やはり貴様はゴブリンだったのか!」と訳のわからない御託を並べられ、「死んだばあちゃんの従兄弟の嫁さんの仇ィ!!」とギルドから放り出されてしまった。全裸で。お盆は酒屋の主人に取られた。
こうして全裸になった男は、内股歩きをしながら家に帰り、すごすごと鎧を纏い、ガラクタのような馬車に揺られ、ゴブリン退治へ向かったのだ。
青年の奇行を見た依頼人から、依頼をキャンセルされ、別のギルドに投げられたので、実質無料、ボランティアで行うゴブリン退治(難易度超高い)である。
「…ぶえっくしょんハイヤッ!!」
青年しかいない孤独な大地に、くしゃみの音が響く。
「風邪かあ?」
「薬いります?」
「いやいや、きっと誰かが噂してるんだよ」
「なになに恋の話かしらぁ? お姉さんに話してごらん?」
「…虚しい」
上の会話、全て青年の一人芝居である。
青年は妖艶なお姉さんや、しっかり者がタイプだ。
「なーんか、あれだなあ。ほらあれ」
青年は、適当な場所から引っこ抜いてきた伝説の剣をしまい、膝をつく。身につけていた鎧から赤が流れ、黒い水溜まりを作った。
雫が頬をつたい、波紋を作る。青年は暑がりであり、寒がりだった。
「よし」
青年は頷き、目を閉じる。
−−暇だからなんか考え事しよ。うん、そうしよ。
語り手が、神から青年に変わった瞬間であった。
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