魔法少女(少年)

第2話 アニメの世界に転生

 “魔法少女ロゼリアル”。物語の過程で、五人の少女は身を削って互いを助け合いながら戦って戦って戦った。


 時には衝突やすれ違いもあった、でも最後

には絶対に彼女達はサイコーの親友だった。


 どんなに辛くても仲間を思いやり、勇気を

出した皆の姿が俺は本当に好きだった。


 身を削って何度も迫り来る脅威から世界を守った。それにもかかわらず追い討ちをかけるように更なる敵が現れ、最終的には全員死亡エンド、この最後に俺は絶句した。


 きっと、最後には笑顔を見せてくれると信じていた挙句の果てのこの結末だ。


 “自分が作者だったら”こんな悲しい結末を、どう変えれただろうかと何度も考えた。


「ああ今日も”だるい”な」


 あれから一ヶ月、俺は未だに鬱だった。これは燃え尽き症候群とも言えるのだろうか。


 アニメでの、あまりのショックに打ちひしがれていたのだ。


 俺はただのしがないアニメオタク、冴えない男子高校生のはしくれだ。


 いや、”ただの”は嘘かもしれない。俺は人より感受性が一段と豊かなのだ。


 “豊か”とは言ってもそれは褒め言葉ではない、それゆえに苦しみが多いという事だ。


 登校、見慣れたようで見慣れない風景。パッとしない毎日、何をすればいいかもよく分からない。


 それは、目的も目標もない魂の抜け殻のようでどことなく虚しい。


 今日も俺は、席に座って黒板にチョークで

書き殴る先生の字をただ眺めていた。


「であるからしてこの命題は——」


「あれそれとこれそれが反応するので——」


 なんの取り止めもない言葉の羅列。それなのに、なぜこんなにも理解に苦しんでしまうのだろうか。


「この時、A君はどう思ったでしょうか?」


 そんなの分かるわけがない、本文を見てもそこには黒い壁が並んでいるだけ、頭には常に黒いもやがかかっている。


 そもそもなぜなんて本人にしか分かるわけがないじゃないか、他人の中身に近づけるのは、あくまで推測の域を越えないだろ。


 まあ俺の場合、ただ"ことば"と心が結びつかないだけなんだろう。人の顔を見れば、痛いほどに伝わってくるというのに。

 

 怒りや蔑み、劣等感や優越感、遠慮や気遣い、イライラや憂鬱感、意味の無い愛。

 

「お前はなんなんだ」


 ええっと好きな食べ物はラーメンで飲み物はコーヒー、緑色が好———


「お前は何者なんだ」


 一番の友達は、好きな芸能人は、スポーツは、アーティストは、例えばどんなゲーム?


「お前はこれで満足か、偽ることしかできないのか」


 ——うるさい。


 俺だって、必死にやってるんだよ。


 日々試行錯誤を重ねて、どうやれば良くなれるのか、でもそんなことを考えている時点で何かがおかしい。やっぱり何かが違う。


 大人になったら、どうなるんだろう。

 

 ”自分”は一体何者なんだ、漠然とした不確かな自分という像。


 いつもと同じ学校の帰り道、一人でそんなことを考えながら下を向いて歩く。


 誰とも目を合わせず何も見ようとしない。


 そんな少し人とは違った思考回路の下で、俺は生きていた。


 ——すると。


 帰り道だったはずの景色は急に眩い光を上げ、俺の身体ごと飲み込んだ。


 目を開けると景色は一変する。そこは、見たこともない街の真ん中であった。


 近くに蕎麦屋があった、気づいたらその店の中に入っていたんだ。


「ざるそば一つで」


 更には席について麺を口にしていた、その麺はずるずるといい音で鳴った。


(なんかここ、”魔法少女ロゼリアル”の五人がよく来ていた蕎麦屋に似てる気が……)


 そんなことを思いながら、麺をずるずるとすする音は響く。


「ええええええぇぇぇ!?」


 用を足すためにトイレに行くと、洗面所の鏡に映っていたのは、丸顔で輪郭や骨格も丸っぽい顔に、大きな蒼色の瞳。


「間違いない、これは……」


 完全に”ロゼリアル”の作画になっていた、声も少し高い気がする。


(どういうことだ……もしかして俺、ロゼリアルの世界に転移でもしたのか!?)


 その瞬間、頭の中に電気が走った。


 この身体の持ち主は空木蒼うつろぎそらという”少年”であるという事、蒼の両親は他界している事。


 なぜか、その二つを瞬時に理解した。

 

「そうか。ここはやっぱり、“魔法少女ロゼリアル”の世界なんだな……!」


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