第11話 約束
「ああ、また会おう。今は早くもどれ。僕に会ったのことは絶対言うなよ。」
「わかった。僕は新。君の名前を教えてくれるかな。」
「僕は陸。新、君に会えてよかった。ありがとう。」
「陸、きっと、また会おう。約束だ。」
彼に急かされて僕はメラニーを連れて馬小屋に向かった。ごんぞうの家は静かだった。
僕は馬小屋にドラゴンとメラニーをつないで家に戻った。
視線を感じて見上げると、父の部屋のカーテンが閉まった。
「しまった。家に戻るところを父に見られた。」しかし、見られたことはどうしようもないと僕は開き直った。
部屋に戻ると僕はフィギア作成を始めた。
ほどなく激しい雨が降り始めた。雨で僕たちの足跡や臭いが消えていく。陸と僕にとっては恵みの雨だ。
フィギアに触れていても僕は上の空だった。陸は寒くないだろうか。食物はあるだろうか。
雨が小降りになったら、様子を見に行こう。
時刻は午前9時になっていた。朝起きてから、4時間程たっている。陸といた時間は1時間ちょっとだろうか。
そう考えている時だった。外が急に騒がしくなってきた。
ノックの音がした。ドアを開けると、母が立っていた。
「ずっとここにいたの?」ちょっと安心した様に母が言った。
「いや、ちょっと遠乗りしてきたよ。」
馬に乗ったことはバレるに違いなかった。だから始めから言っておこうととっさに僕は判断した。
「何か見なかった?」母は疑わしそうに聞いた。僕はなるべく何でもないように答えた。
「何かあったの。なんだか騒がしくない?」
「お父様の会社の人が来たのよ。」
「へえ、そうなんだ。ところで、今日のブランチは何?」
「ええと、何がいいかしら?」
「和食かな。出来れば炊き込みご飯なんかいいなあ。」
「1時間くらいかかるけどいい?」
「あ、おむすびもいいな。久し振りに馬に乗ったからか、とてもお腹がすいてるんだ。」
僕は内心ドキドキしながら平然を装った。
食事をしていると、男が2人やってきた。僕を見るとちょっと驚いたようだったが、慇懃に挨拶をした。嵐の夜にいた連中に違いない。母が彼らを父の部屋に案内した。父の声がしたと思うとドアが閉じられた。ドアを閉じた音が重く響いた。
その日はどう過ごしたか覚えていない。結局、陸の様子を見に外に出ることはできなかった。僕は朝の出来事はなかったと自分をだまして過ごした。だから、母にはいつもと同じように過ごしているように見えたに違いない。
とにかく一真と話したかった。ただ、こんな出来事があった日に一真と連絡を取るのは危険すぎると思った。今朝の出来事を一真に話せないことがもどかしかったが、早く登校日の明日にならないかとそればかり思って一日を過ごした。
そして夜になっても陸の事が心配で仕方なかった。
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