第8話 告白
「大人たちが秘密にしていることが絶対あるんだ。僕たちがアクセスできないサイトがいくつかあるだろう。」
一真の言うように18才にならないとアクセスできないサイトやここからは18才以上でないと見れない設定になっている部分はいくつもあった。子供が見れないのは、酒、タバコが禁止されているのと同じだとぐらいに僕はしか考えていなかった。
「大人しか見れないサイトを僕は見たことがあるんだ。」
「母がいなくなってから、僕は1人で家にいることが多かった。そのころから親父の部屋に入るようになったのさ。誰もいない時にこっそり部屋に忍び込むんだ。」
「まあ、独りでいるのがつらかったのかもな。ぼくも似たようなものさ。」
広い家のメンテナンスをするため、僕の家にも週4回家政婦が来ていた。門を入った右側に庭師兼雑用係の使用人ごんぞうの家がある。週に4回来る家政婦はごんぞうの妻だった。僕は彼女の事をおばちゃんと呼んでいた。おばちゃんは庭で遊び疲れた僕の手足を洗ったり、汗を拭いたりしてくれた。時には「奥様に内緒ですよ。」と言いながら、冷たいジュースや御菓子を出してくれた。
ごんぞうは浅黒くがっちりした大柄の男で僕が庭で遊ぶときは必ず一緒にいてくれた。年齢は50歳を過ぎたくらいだろう。僕にとって祖父の様なぬくもりを感じる存在だった。庭は雑木林や大きな池もあって幼い子供が遊ぶには広すぎた。ごんぞうは外で遊ぶ僕をいつも見守ってくれた。
僕は、雑多に物が置かれたごんぞうの家の居間が居心地よくて始終入り浸っては、母に叱られた。家のそばには農機具などをおいた大きな小屋と乗馬が趣味の父の為の馬小屋がある。馬は3匹いて面倒はごんぞう夫婦がみていた。馬に乗るという希望がかなったのは12歳になった時だった。それまでは馬に触らせてもらう事もなかったが、母に何度も頼んで12歳の誕生日に馬に乗ることがやっと許された。乗馬の練習もごんぞうが付き合ってくれた。ごんぞう夫婦と過ごしている時間が1番やすらかで心地よかった。
料理好きの母は毎日料理を用意してくれたが、僕はいつも一人で食事をとった。母は父と一緒に食事をとっているようだった。家にいてもいつも母が僕のそばにいるというわけではなかった。
僕の家は、だだ広く全体が白い壁とガラスの入ったドアで区切られていて、一真の家に比べて冷たい感じがした。冷たさを補うようにそこかしこに置かれたカサブランカやバラの強い香りが僕は苦手だった。そして僕は今も白い自分の部屋が嫌いだ。部屋の広さもいやだった。一真の部屋の倍くらいで、広すぎて落ち着かないのだ。幼い頃は4畳程度のクローゼットの一角を区切って秘密基地のようにして閉じこもっていた。一真と同じで家の中では僕も独りでいることが多かった。
父母がいない時、学校に行く年齢になるまでは秘書の佐藤が僕のそばにいた。佐藤もいない時だけベビーシッターがきていた。僕は佐藤にもなついた。成長するにしたがってベビーシッターを呼ぶことは次第になくなっていった。佐藤はやせぎすで、背の高い色白の男だ。眼鏡の奥の鋭い目が僕を見るとき、時折悲しげに光るような気がしていた。僕は彼の骨ばった手で高く抱き上げられるのが好きだった。佐藤は本当の父より僕にとって身近な存在となっていった。それほど、僕と父は一緒に過ごす時間がなかった。
幼い頃の一真は父親の部屋で過ごすことで父と一緒にいるような一人ではないような気持ちになっていたのかもしれない。
僕も一真も寂しさを感じる時間があって似たような境遇なのかもしれなかった。
「その内、親父の端末を開いて見るようになったのさ。」
親子でも個人の端末を開いてみることは禁止されている。法律に触れる行為だ。
「バレたら、大変だぞ。」
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