第7話  監視

僕たちの生活は、いつも誰かに見られている。犯罪防止の為にいたるところに防犯カメラがつけられている。屋上での僕たちの会話も誰かに知られてはいないかが気になった。きっと一真も同じ心配をしているに違いないと思った。一真は話し終わると、唐突に動画の話を始めた。ちょうど、僕が見たのと似たようなシーンがあるやつだ。膨大なデータは犯罪の予兆がないかAI(人工知能)が処理する。僕の話が動画の話と思われるように一真は細工をしたわけだ。


うまく行ったかどうかわからないが、それから僕らは細心の注意をした。

まず話をする場所を探した。個人情報の保護と言って、家庭内にはカメラは設置できない。ただ、僕は家にいても監視されているような気がすることがあった。それに母が突然部屋に入ってくることも時々あったから、僕たちは一真の部屋で話をすることにした。

幼なじみなのに一真の家に来るのは初めてだ。僕たちは親しくなってもお互いの家を行き来したことが無い。学校で知り合った僕たちの家はそれほど離れていた。もちろん、移動手段はたくさんあったが、物理的な距離が心理的に邪魔をしていたのかもしれない。それにネットで繋がれるから、行き来する必要もなかった。

一真の家はちょっとレトロな感じで居心地が良かった。一階はキッチン、リビングに床の間のある畳の部屋があった。畳の部屋は僕にとって珍しくどこか懐かしい気がした。

「畳と障子、いいなあ。」と思わず口にすると、

「母の趣味だったんだ。」とぶっきらぼうな返事が返ってきた。

一真に案内されて2階に上がると右手が一真の部屋だった。反対側に並んだふたつのドアを僕が見ていると、「そっちは親父の仕事部屋と寝室さ。」と一真が言った。

一真の部屋は東向きで北側の壁にはフィギアが並んでいた。後はベットと机、居心地の良さそうなソファがあるだけだった。

一真の母は一真が7歳の時に亡くなっていた。

「親父さんと2人きりかい?家の事はだれがするんだ?」

「おふくろが死んでから、週に4回通いの家政婦が来ているんだ。」

「おふくろがいなくなってからは、手づくりの温かい料理が食べられるのは家政婦の来ている週4回だけさ。後はキットになった食事を温めるだけなんだ。」と一真は不満げに言った。

「その代わり、小さい頃から親父の仕事部屋には良く出入りしていたんだ。おもしろいぜ。」

そういって一真は目くばせした。

僕は1人で父の部屋に入ったことはなかった。父の部屋に入った時は母が一緒でそれも2回しかなかった。幼かった僕が父に会いたいと駄々をこねた時だ。母は部屋に父がいないことを見せて父親に会いたがる僕を納得させたのだ。父の部屋はいくつものモニターが並んでいた。そして父と家族の写真が並んでいた。ちょっとだけ見た父の部屋の印象はますます父を近寄りがたい存在にした。幼い頃の一真は父親の部屋で過ごすことで父と一緒にいるような一人ではないような気持ちになっていたのかもしれない。一真がこっそり父親のへやにはいっていると聞いた時、僕は口にはしなかったが一真も僕と同じように寂しい思いをしてきたと思った。

僕たちは、始めは一真のコレクションしているフィギュアを見に行くふりをし、その後はフィギュアの制作を一緒にするように装った。怪しまれない様に、僕も家でフィギアの収集と作製を始めた。こうして、一真と僕は大人に聞かれたくない話をする場所を確保した。それから、鉛の薄いシートを張った箱を作った。重要な話をするときは、筆談していたがタブレット、スマホのほか情報を取られそうな疑わしい電子機器をその箱に入れることにした。

疑われないように僕たちは細心の注意を払った。僕らは無邪気にフィギアの制作をしたり、お互いが作ったものを評価しているように見せかけた。僕が一真の部屋に行くだけでは不自然な気がしたから、時折僕の部屋にも集まった。その時母は必ず僕たちの様子を見に来た。何の気配もしないのに扉を開けると廊下を歩く母の後ろ姿を見ることもあった

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