第3話 五月晴れ


入学して一月たった。

6人が学校で集まる機会は日ごとに増えた。一真とあかり、さくらとは今まで通りオンラインで話すことがあったが、美咲と丈は学校で会うだけだ。

気難しいさくらは丈に一目ぼれしたらしく毎日上機嫌だ。丈はさくらをうまくなだめてくれるから、僕と一真は密かに彼に感謝していた。

そんな時ちょっとしたトラブルが起きた。

下校しようとした時さくらが急に週末に6人で彼女の別荘に行こうと思い立ったのだ。その時、美由紀と丈はもう寮に戻っていた。

「さっきまでいたんだから、寮に行ってみない。」

とさくらが、言い出した。

「ラインで良いんじゃか。」と言いながら、僕はさくらと同じことを考えていた。

「彼らのいる3階の寮ってどんな感じなんだろう。ちょっと見てみたいな。」

「そうだな。行ってみるか。」

僕もさっき別れたばかりなのに美由紀に会いたかった。そして僕たちは3階の寮に向かった。


思えば同じビルなのに3階に行くのは初めてだった。エレベーターを出るとホテルのロビーのような吹き抜けの広間がある。そこには4~5人ずつ談笑できるようなセットになった心地の良さそうなソファとテーブルが置かれていた。木を植えたぽってり丸みを帯びた大きな素焼きの植木鉢があちこちにあった。木々は高さや葉の色、形などが異なっていたが、実にバランスよく配置されていた。ソファとテーブルはテーブルの上の小さなガラスの花瓶にはバラやカスミソウなどがごく小さな花束のように入れてあった。全部で3~40人は座ることができそうだったが、人はまばらで5~6人しかいなかった。3階はどうやら2層の構造になっているらしい。だったら3階と4階とすればいいのにと僕はちょっと思った。

クロークには女性が2人と男性が一人いる。ここは寮と病院の受付を兼ねているらしい。

僕らが美由紀と丈に会いたいと申し出ると、男がソファに案内した。

「しばらくお待ちください。」

「しばらくってどのくらいなの。」

3階に来ればすぐ、丈とあえると思っていたから、さくらは早くもイライラしているようだ。

「支配人に聞いてまいります。」

5分ほどすると別の男が来た。支配人という男は目つきの鋭い痩せた背の高い男だった。

「30分程お待ちいただけますでしょうか。お茶などお持ち致しますので。」

「何故、30分も待たされるの。」

さくらは完全にきれていた。

「突然きた僕たちが悪いんだから、待ってみようよ。コーヒーが飲みたくなったし。」

僕はコーヒーの香りのするこのフロアに来た時から、少し酸味のあるキリマンジャロを飲みたくなっていた。さくらも案内される途中で女性が食べている大きなパフェをチラッと見ていた。

「それでは、何かお持ちしましょうか。」

すぐ、さくらには特大の苺パフェ、僕にはコーヒーとバスク風チーズケーキが運ばれて来た。チーズケーキはコーヒーの風味を格段とあげてくれるから、僕の好きな組み合わせだ。

「さくらは意外とおこちゃまだな。」

しまった、地雷を踏んだなと思った時には遅かった。

さくらの眉がつり上がった。これからが大変だと思った時、さくらの手がパフェに伸びた。

「新たこそ、チーズケーキにブラックコーヒーなんて、カッコつけたわね…」

もうすぐ、丈が来るからだな。全くあいつのおかげでこの程度ですんでよかった。僕は胸をなでおろした。

今まではさくらの前では余計な事を言わないように常に気を遣ってきた。丈が現れてからその必要がなくなってつい口が滑ったと気づいた時、丈の存在のありがたさにあらためて感謝した。

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