第7話 僕は誰にも愛されてなかった

空我はきっと合格するだろうと思い、満面の笑みで秋を迎えようと待ち構えていた。

空我の言う通り、秋は笑ってこちらに向かってくる。

秋は大きな口を精一杯開いて言った。

『空我さん、僕...合格というか見習いになりました。サーカス団の見習いに。それで、今日でここを離れることになったんです。空我さんにお礼が言いたくて...空我さん、僕をここに連れてきてくれてありがとうございます』

空我は泣きそうになっている秋を見て、空我も泣きそうになりながら言った。

『私があなたの人生を変えてしまいました。最後にここを離れて違う場所に行く前に、あなたは父親と母親に会いたいですか?どちらかに会いたいなら手配しますが...』

空我には秋が何を思っているか表情がよく見えなかった。

秋は口を開いていった。

『空我さん、もういいんです。僕は母にとっても父にとっても必要のない子でしたから。ただひとつだけ父に伝えたいことがあります。それだけ、手配してくれますか?』

空我は分かりましたと言い、どこから出したか分からないスマホを出して言った。

『これは、今あなたの自宅に繋がっています。どうぞお話し下さい。あなたにだけ、特別ですよ』

そう言ってスマホを渡した。

スマホを耳に当てると『もしもし』と父の声が聞こえてきた。

久しぶりに聞く、父の声は懐かしかった。

僕は『もしもし』と言った。

父は『秋か⁈』と驚いていた。

そんな父に僕は伝えた。

『父さん、僕は今あの世にいるんだ。つまりは、父さんが生きてるこの世ではもう僕は死んでるってことになってる。父さんにとって、僕は大切だった?よく言う目に入れても痛くないくらい愛おしかった?多分違うでしょ。父さんが大事なのは今の母さんだけでしょ。僕、あの世で母さんに会ったんだ。母さんにも僕より大切な人がいたんだ。僕を今まで11年間育ててくれたことは感謝してる。でも、もう僕は十分1人で生きていけるから。心配しないで。あの世で働く場所も見つけたから。さよなら...』

秋の父に有無も言わさず、秋は電話を切ったのだった。

彼は父が今現在の母とうまくいってることも知ってた。

僕なんて要らない方がマシなんだ。

電話を切り、空我にスマホを渡した。

空我は大丈夫ですか?と秋に言うと秋は涙を堪えてグッと歯を噛み締めて言った。

『空我さん、久しぶりに父さんの声を聞いて、父さんに言いたいこと言って切っちゃいました。でも、これで良かったんですよね』

空我は言った。

『良いんですよ。もし、また親に話したくなったらまたツアーでここに回ってきた時にでも会いましょう。私はすぐそばに住んでいるので』

そんな話をしていた時、秋は後ろから玉田さんに呼ばれたのだった。

玉田は秋にそろそろ行くぞと言われた。

秋は空我にありがとうございますと言い、玉田の後を追った。

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