第1章 電話ボックスの噂

第1話 母との思い出

母は僕が小さい頃から忙しそうだった。

いつも見ていたのは、母の後ろ姿だけだった。

彼女が死んだ時初めて母の顔をまじまじと見た気がする。

周りはみんな母のことを『良い人だった』『人当たりの良い人だった』と語っていた。

幼心に母は素敵な人だったんだろう感じた。

だけど、僕の父だけは違ったらしい。

父は母のことが心底嫌いだったみたいだ。

母は交通事故で死んだと聞かされていたが、親戚の噂によると母は不倫相手と歩いているところを父に見つかり、父は交通事故に見せかけて殺したらしい。

つまらない想像だと僕は思った。

だけど、母が亡くなり1年経った頃、母の一回忌で父は酒を飲み語ったそうだ。

『俺が殺した』ってね。

僕にとって母は忙しくも笑いあってくれる存在だった。

僕はその日母が死んだ日に流せなかった涙を今流した。

母が死んでから5年が経った頃、父は若い女性と再婚した。

僕は11歳になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る