14-2 冒険者




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 上杉『こんばんは』


 今井『こんばんは』




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 即刻、返信がきた。

 スマートフォンのキーボードをタップした。




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 上杉『休日は、なにをしていますか?』 


 今井『息をしています』


 上杉『あたりまえです。

    どう過ごしていますか?』


 今井『秘密です。

    あなたは、なにをしていますか?』


 上杉『自宅で読書か勉強です』


 今井『孤独を愛する、自分がかっこいいとか。

    イケてるとか。キマッているとか。

    自分に酔っていませんか?』


 上杉『いません。君はなにをしていますか?』


 今井『はい。秘密という秘密です』


 上杉『まあ君のことだから、休みの日も、

    暗黒の力と戦っているのか?』


 今井『なんで知っている? 

    人の心を読む、魔法がつかえるのか?』


 上杉『つかえない。モンスターが襲来する! 

    とかが、君の口癖だから』


 今井『正体がバレていたか……。

    毎日、魔法剣士となり活躍しておる』



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 夏休み中、

 内申同盟のメールのやり取りを思い出した。



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 上杉『そういえば、まえに言っていたゲーム、

   「リアル・ファンタジー・ワールド」

    続けているのか?』


 今井『そうさ。

    暗黒の力から世界を救うため、

    冒険をしておる』


 上杉『暗黒の力。それ、なんだっけ?』


 今井『暗黒竜王のことだ。

    99階にいる、悪い奴なのよ』


 上杉『ゲームもいいですが、

    明日は土曜日なので、

    どこか、遊びに行きませんか?』




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 メールなので

 大胆なメッセージを送ってしまった。

 沈黙の時間が数秒つづいた。




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 今井『遊んでいるヒマなどない。

    我は、世界平和のために戦う、

    冒険者である!』


 上杉『ゲームの平和が、そんなに大事ですか?』


 今井『愚問だな。オオーッ!

    C級モンスターだ! 

   「呪いのわら人形」に囲まれた!』


 上杉『ゲームの世界の、どこにいるのですか?』


 今井『バベルの塔、35階だ。

    戦闘体制、

    絶対零度の剣舞を披露したる!

    我は前線に復帰する、

    通信を断つ、またな、同志よ!』




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 メールを強制的に終了させられた。

 長方形の画面に、ため息をかけた。

 事実上、あっさりとデートを断られた。


「世界平和のために戦う、冒険者か……」


 ゲームをしたいのもわかるけど、

 なんだか腑に落ちず気持ちがくすぶってくる。

 嫉妬した。

 何かがある。

 ゲームの世界には。

 ぼくよりも優先したい何かが。

 今井を夢中にしている理由を知りたかった。

 スマートフォンの画面をスライドして、

 ゲームのアプリを探した。

 夏休みが始まった頃に、

 ダウンロードしたままだ。


「あった」 


 剣で十字架を模したデザイン、

 アプリをタップし、起動した。

 画面に通知が表示された。




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 《4ヶ月ぶりですね。ログインして、

  はやく冒険をスタートしましょう!》




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 リアル・ファンタジー・ワールド。

 ありふれた、

 王道RPGのソーシャルゲームだ。

 たしか物語の設定はシンプル。

 暗黒竜王という悪のボスが、

 塔の99階にいる。

 そいつを倒して、

 世界を平和にすることが目標だ。

 クリアしたら、数千万円の賞金がもらえる。

 プロゲーマーが何億も稼ぐ時代に、

 決して高い賞金額とはいえない。


 解説ページを読み込んでいくと、

 人気の事情がわかってきた。

 仮想空間上に、

 超大型のショッピングモールもあるのだ。

 アバターのための洋服やアイテムの店、

 映画館やスポーツ観戦など、

 娯楽施設がひしめいている。

 すべてデジタルで架空の物だが、

 土地や家までも販売していた。

 仮想現実で自分のアバターを作成し、

 生活を楽しめる社会が構築されているのだ。



 今井は、バーチャル・リアリティの社会に、

 ハマっているのか。

 そんなことを考えながら、情報を収集していた。

 ふと、ある解説ページの単語が気になった。




。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。




 《本格派プレイヤーの方へ》


〈1〉VRコントローラーの装備のススメ →

〈2〉VRボックスでのプレイのススメ  →




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