第8話:日曜日の過ごし方
毎週、日曜日という厄介な来客がある。毎月三千円のお小遣いだけで財政管理する高校生には、扱いの難しい問題だ。
七の付く日ならドラッグストアに行く手もあるのだけど、今は買うべき物がなかった。
中学校までの友達と遊ぶ選択肢もアリ。でも、どこで? という問題が次に控える。
ただ話すだけでも私はいいけれど、現実には近所の公園でブランコの軋む音を楽しみながらとはいかないだろう。
コンビニで飲み物とお菓子くらい買おうとなって、「私は水飲み場で大丈夫。あなたは好きな物を買って」と言える図太さを私は持たない。
後田さんと遊べたら楽しいと想像はする。ただ彼女の住む辺りまで、往復のバス代が八百円強。
文房具も服もお小遣いからの都合上、おいそれと支払えない額だ。
「あんたまさか、ずっと家に居る気?」
前触れもなく扉が開き、しゃきんと髪を跳ねさせた母が覗く。
パジャマのままベッドに転がった娘を、汚物のごとく蔑んで睨む。
「近所の人、意外とよそのこと見てるんだから。あそこの子は引き篭もりだ、とか。やめてよ恥ずかしい」
「もう少ししたら出かけるから」
いつも通勤で着ている緩いパンツ。どうやら今日もパートらしい。
「あ、そ。変なことしないでね」
と返事を待たず、家を出ていった。
今日は掃除の日、とかあってもいいと思うのだけど。私が家に居るのを母は嫌う。もちろん出かけて帰ってくれば、それはそれで文句を言うけれども。
「さて、ほんとにどうしよ」
確認してはないが、もう父も居ないはずだ。たいてい日曜日は休みだけど、釣りだキャンプだと言ってじっとしていない。
だから最悪、母の帰ってくる直前になって出かける手もある。三十分ほども散歩をして戻ってくれば良く、実際そうすることも少なくない。
暇に飽かして念入りに掃除したりして、嘘のバレることも。
都合良く、どこか新店オープンとかしないかな。リニューアルでもいいけど。
新しくできたホームセンターなど、お金を使わずに一日過ごせる。一縷の望みを託し、スマホを取って通知を調べた。
残念ながらどのお店のアプリにも、目新しい情報がない。
「んん?」
その代わり、馴染みのない表示がある。誰かがオンスタのメッセージ機能を使い、私に会話のリクエストをしていた。
「あれ、鷹守。なんで?」
クラスのグループチャットが作ってあって、発言があれば見るようにはしている。だけど自分から発言したことはなく、鷹守の名前を見た記憶もない。
グループメンバーの一覧に互いのアカウントが出ていると今さら気づき、私だけの部屋できょろきょろと周囲を見回した。
【どうしたの? 昨日はお邪魔しました】
彼からのメッセージは三十分くらい前、話せますかとだけ。話せないと答えたら、どうするんだろうと意地悪が思いつく。
まあ返事に気づくまで、少なくとも数分はかかるはず。着替えでもするかとスマホを手放したら、新しいメッセージの着信音がした。
【今日、忙しいですか? ちょっと高橋さんの家のほうに用があるんだけど、どうかなと思いました】
【なんで敬語?】
敬語と普通の話し方とが混ざっている。彼も慣れなくてなんとなく、と察しはしたがあえて聞いてみた。
【ええと、そうだね。変だったね】
【いいよ。いつ? どこ?】
昨日、話したのはさほどでないけど分かる。あははっと、彼は軽やかに笑って済ましているだろう。
面白くない。でも暇潰しを提供してくれるなら、悪い話でなかった。
【ちょうど今、バスに乗ってて。あと十分くらいで着くよ】
【十分で準備しろってこと?】
【あっ、ごめん。どうしよう】
バス停まで十分ちょっとかかるから、現実には猶予がゼロだ。
だけど沢木口さんみたいに、ばっちりメイクをするわけじゃない。どうにかしてやろうと思った。
【どうにかする。でも十分くらい待たせるかも】
【いいの? 分かった。ごめんね】
返事をたしかめ、スマホを枕に放り投げた。タオルを引っつかみ、保温ポットのお湯で蒸しタオルを作る。目覚ましと洗顔を同時に済ませ、母の化粧水を顔になすりつけた。
中でも地味な裏起毛のパーカーを選び、家を出たのは五分が経過した時。
「あと五分——!」
約束した相手を待たせてはいけない。昨日と違うナイケのスニーカーで走った。
鷹守に用事があって、どうかなって何が? と根本の疑問に首を傾げながら。
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