振り返らざる逃亡者は最凶の名の下に
武論斗
愛狂死(あいくるしい)
壁に
質問は一つのみ。
「何故……なぜ、あのような
「――」
「……我々
「――――」
「……み、未開の、
「 」
「…………何卒、ご再考下されませ。姫様をお守りする覚悟は元より
「では、今ここで
「――な、なんと!?」
「命を賭すと申したであろう? ならば今、果ててみせよ。
「……」
額と背中を伝う汗がやけに冷たい。
老王の気迫は
王の無言が作り上げた
だがしかし、どうすれば良いのか答えが見えない。考えが
どうすれば――
「
団長様が肝を冷やしております故」
「――ラナか。このような
「わたくしの護衛を買って出て頂きました団長様に、ご挨拶が遅れたとあっては王族の名折れでしょう? 違いますか、御爺様」
「――まあ、良かろう。だが、
「あら、そうかしら? もし、お雇い遊ばされた御方と騎士様とで腕試しをなされ、騎士様がお勝ち召されましたらどうかしら?」
「――
―――――
城内に設けられた闘技の練習場と云える広間。普段は城詰めの騎士達の鍛錬の場になっており、外部の者の立入は許されない。
例外があるとすれば、王族が護身術を学ぶ際、外部の指導者を招き入れるくらい。
とは云え、現在の王族は老王と孫娘の二人だけ。王族に連なる身の上、
城詰め騎士は現在、白き盾と
ダンクーガ王はこれを不満としている。
それもその
始め、団長オニールフェガロ自らが腕試しに臨むつもりだった。
流石に団員に止められ、若いが筋の良さを買われていたゼルティエッガが挑む事になった。
連合王国に限らず、一般に騎士は“
並の兵士より三倍は強い、と云うのがその語源だが、実際の戦闘力は三倍どころの騒ぎではなく、騎士一人で百名の兵士を制圧できる程。
入団二年目の若手騎士ゼルティエッガが選ばれたのは、腕試し相手への騎士団なりの温情であった。
そして、間もなく後悔した。
――
高身長だが青年と呼ぶには幼さが残る、そんな印象。凡そ、ラナとそれ程変わらない年頃、それでいて妙に落ち着いて見える。冷静と云うよりは冷徹、そんな
一切無駄のない筋肉質なその
この辺りでは見られない黒髪に黒い瞳は、
貧民や奴隷と
悪く云えば――屍体のよう。
神々しいのではない。
兎も角、普通とは決して云えない違和感を禁じ得ない。それだけ、妙に
「
余の召喚せし、
老王の弁に奇妙な熱っぽさ。期待が
臣下とは云え、どうにも
特に、まだ若く評価を得たいゼルティエッガにしてみれば鼻持ちならない。
――片腕くらい斬り落としても差し支えあるまい……
彼の脳裏にそう
予め、団長からはチラリと耳打ちされている。殺してはいけない、と。
分かっているさ。国王の呼び寄せた姫君の護衛役、そう内定された
分かってはいるが、素性も得体も知れない異国の
殺しはしない……只、腕や足の一本や二本は覚悟して貰おう――
奴に
取るに足らん――
若騎士は剣を
ゼルティエッガの特技は、
貴人に
だが、果たして騎士以外の者がこれを知っているのだろうか?
お前はどうだ、野蛮人?
「ゼルティエッガ、
吐き出すように一言吠え、若騎士が正に今、一歩踏み出そうとした
「待ちなよ、あンた」
予想だにしない宗教者の言葉に機先を制され踏み留まったゼルティエッガ。
「な、なにかね?」
「俺の紹介が、
「……失礼。おっしゃる通り、です――お名前、伺っても宜しいでしょうか?」
「――
まずい――
オニールフェガロ、青ざめる。
聞いた事がある。
帝国の隠密組織に属する
弔とか云う
そんな馬鹿げた習わしに従ってきた者が初見相手に名乗るとは。
――
ドムッ!
鈍い破裂音が
――なんだコレは?
黒みを帯びた赤い霧が練騎場を覆い尽くし、視界を閉ざす。
生臭さが
生臭い?
いや、これは鉄臭さ。
血……ああ、これは
晴れる、霧が。
そして、曇る、表情が。
若騎士の首!
ゼルティエッガの生首を、その髪を左手に握り締め、老王に、いや、団長に向ける。
首を斬り落とした……のではない。首下には脊髄が丸ごと残っている。
バカな――
一体、何をした!?
怒りより先に驚愕と疑問が団長の脳裏を
――これは一体……
「
な、なんだコレは――
ジクウと名乗った若者はゼルティエッガの生首を握った
そして、左手を掲げ、
なんなのだ、この光景は!
これが人のする事か!?
――く、狂ってる!!!
「見事だ、ジクウ! 余の想った通りだ!! 我が愛しの孫娘ラナは貴様に預けるぞ、ジクウ! 見事、余のラナを護ってみせよ!!!」
――狂っている……
野蛮な
我がお慕い申す、我等が偉大なる陛下がッ!!
陛下は既に、お狂い召されていたのだ、この
陛下の、一歩後ろに控える
冷めている、異様な程。
姫様! 貴女は、良いのですか、こんな事で! このような者を!?
暗く沈んだ姫の瞳の奥に何が見えているのか、オニールフェガロには見当も付かなかった。
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