ID hekkushiから始まる恋愛について

とろにか

第1話 ID hekkushiさんについて

「陸斗、今から撮るからそのまま動かないで」


俺こと滝川陸斗(たきがわりくと)は携帯のカメラを背にして自分の席に座っている。


突然だが、fokfokというアプリをご存知だろうか?


休み時間になるとリア充たちが暇潰しに動画撮影をし、それをSNSにアップして「いいね」を稼ぐ。


俺自身がどう「映えて」いるか気にする暇がないぐらい、ショートムービーがたくさん量産され、ネット上に上げられていく。


どうやらこのfokfok、めちゃくちゃ流行っていて、高2でクラス替えして友人関係がリセットされた今も、こいつらは飽きずにクラスメイトを勝手に映してやっているのだ。


俺にできることと言えば、教室の風景の一部でいることでしかない。


今この瞬間のように。


「〜♪」


教室に音楽が流れたら動画撮影してると思ったほうがいい。人に曲を聞かせるならイヤホン片耳に突っ込んでやるだけで十分だし。


「終わったー。上手く撮れたよー」


そうやって動画を見せてくれたのが俺の友人である藍田(あいだ)ソアラである。


自分で作った動画は自己紹介の時のアイコンになる。

「自分、fokfokでこんだけいいねもらってます」


もはや、俺たちの中では fokfok内で連絡を取り合うことなんて当たり前だし、簡単に自己PRできる時代だ。


「ほれ、見ろ。うちの、勇姿を!」


ソアラは得意げに銀髪をなびかせる。こいつはイギリス人の父ちゃんがいるらしい。あと、ポテチばっかり食ってる。


「俺が見てどうする」


「ついでにりっくんの微動だにしない後頭部でも見る?」


「いや、自分の後頭部なんかに興味あるか?」


「エフェクトでハゲカツラつけてあげる」


「やめい」


こうやって撮ったやつを見せてくれたり、加工して誰だかわからなくしてくれてるやつはまだいいが・・・・・・人の寝顔映して勝手に上げたりするやつもいる。そういうやつはうんこ入りの雪玉でもぶつかれば良いと思う。


「そんで?朝撮ったツバメの雛のやつはバフった?」


「いや、バフっとらん。デバフかかってる」


「まじかー!ぜっったいバフると思ってたのにー!」


「これがフォロワー一桁、最下層の人間の実力だ」


改めて、自分が上げた今朝の動画を見てみた。俺がツバメの雛を拾い上げて巣に返す動画である。雛がめっちゃふわっふわで可愛かったな。


このツバメの雛の動画、閲覧数15、いいねが7、コメントが1。あまりにもショボい反応である。


「ま、こんなもんか」


そう言ってなんとなくコメントを確認する。


ID hekkushi : かわいい!このツバメの巣、どこにあるん?


なんとなく、同県にいそうな人からのコメントだと察した。


「なにー?コメント来てんの?めずらしーね」


「絶対この人名古屋住みっぽい」


「そうなの?この『あるん』で?でもさ、関西でもそういう風に言う人、『おらん』?」


「あー、確かに!」


「いきなり同県だと思うのはちょーっとりっくん先走りすぎかもよ」


「そうかなー」


「反応あって嬉しいのはわかったからさー。それよりもこのわたしの動画の、おっさんコメントだらけの地獄絵図見て現実見なー?」


「分かったら見せんな吐き気する」


このコメントだけで同県だと思うには無理があったか・・・・・・。


『名古屋住みですか?城北高校の近くなんですけど』


これくらいなら情報明かしてもいいだろう。


俺は少しだけウキウキしながら午後の授業を頑張った。




ーーーーーー


こんにちは、作者です。


高校時代の適当にメールアドレス送っちゃった話(マジ話)を今風に書いてます笑


面白そうだなと思ったらコメントお願いします!


なお、当時の記憶を元に書いているので、訛りが当たってるのか間違っているのかはわかりません。それだけは宜しくお願い致します。
















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