第13話 野分の夜の高波


 また、いつもの定形的な空耳だ。


 聞こえないふりをしてはいけない。


 おーい、おーい。


 寸詰まりの声はさらに大きくなる。


 


 僕はしまいには適度な緊張感の閾値を超え、オルゴールの螺子が壊れたように震え出した。


 狭苦しい肩が震え上がり、激烈な悪寒が止まらない。


 ダメだ、ちゃんと最後まで演じないといけない。


 僕は全身の力を振り絞って演じ切った。



「父上! 父上! 私に分かりませぬ!」


 寂しさを焦がした声も枯れていく。


 ここまで、野分の夜の高波のように己を奮い立たせる衝動性は一体何なのか。



「父上! 私は耐えられません。斯様な移ろう世に生きるのが、どれほどだけ苦衷に満ち足りたものなのか」


 観客がざわめき始めた。


 こんな素っ頓狂で、あまりにも不可思議な台詞はない。


 僕もこの台詞を叫んだのはこれが初めてだ。


 


 おーい、おーい。


 ああ、僕を木枯らしが呼んでいるのか。


 おーい、おーい。


 ここだよ、ここが君の。


 


 高止まりした声は常に憂鬱が堂々巡りの僕を襲った。


「銀鏡が私の居場所なのです」


 

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