第5話 夜長の一刻


 鈴虫や蟋蟀、松虫が蕭条と鳴く、永遠の秋の夜長、僕は自宅で待機しながら古びた机に座って台本を何度も読み返した。


 正直、つまびらかな台詞がかなり多く、今から練習しないと本番まで間に合わない、と焦らない気持ちもないわけではなかった。


 


 それと。


 この常世の万花の象徴である、木花開耶姫が有ろうことか、僕が密かに好いている君なんて、と讃すると僕はこの上なく、心中が晴れ渡った海に映えた夕凪と化した。


 君が木花開耶姫なんて、どんな大御所画家が描いた名画よりもすごく似合うと心が奪われる。


 ふふふ、その通りだ。


 


 台本と睨めっこすると、しばらく夜の一刻がたちまち、過ぎ去った。


 昼休みに図書室で郷土史の本をあさって銀鏡の伝説や歴史、天孫降臨を含む古事記並びに日向神話を改めて、調べるのが最近、いい意味で癖になっている。


 


 役作りまでは大げさには言えないけれども、演じるのには役には立つだろうと思い、学校側からの許可をもらって分厚い郷土史の本を借りてきた。


 曼珠沙華が咲き乱れる山村での、爽籟を浴びながら自転車で持って帰る、つづら折りの道中を駆けるのも一苦労だった。


 


 宿題も終え、ルーティンのように英語の予習も済ませてからの独りきりでの脚本との睨めっこ。


 第一部だけでも台詞が十二もあった。


 数えてみて合計で四十五だった。


 僕は元来、暗記が苦手じゃないし、とにかく千里の道も一歩より、やるしかない。


 秋風の部屋の電気を暗くしたまま、何度か、緊張感を保ったまま、滑らかに音読した。

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