第3話 秋風に零れた少年


 伯父さんの語り草によると、銀鏡では南北朝時代に南朝方の、後醍醐天皇の皇子であられた懐良親王の御子、爵松丸、とその末代まで忠節に従えられた武将が動乱から逃れられ、この米良のかの地で骨を休まれたという。


 銀鏡神社には磐長姫と同じく、悲運の皇子でいらっしゃる、懐良親王も祀られているのだ、と伯父さんは厳然と語り継いでいた。


 実際に中世の息吹がまだ銀鏡は残っているんだ、と僕はその悠久の歴史の重みに敬いながらその伝承にしっかりと耳を傾けた。


『桃と桜』は京都で生まれ育った、南朝方のお姫さまとその侍女たちが舞い、その悲愁を謡い続けて伝わってきた悲劇の舞踊なのだ。君が舞う桜花の刹那を僕は早く拝みたいと心から願った。



「古事記の神話を題材にはするのだが、脚本がまだ完全には出来ていないんだよ。先生たちも前々から構想はしていたんだが、まだあとちょっとのところが不完全でね、そこで辰一君に手伝ってほしいんだよ。もちろん、清羅さんや螢さんにも案を出してほしい。今からみんなが来るから考えておくように」


 長友先生の一言を終え、先輩たちが教室に入室したとき、秋風に零れた僕は思わず、自分の目なんて見えないのに目を驚かせた。


 


 先輩が先日行われた、神楽習いが開かれたとき、僕はこっぴどく駄目出しをもらった。


 この手の定位置がまるで違う、腰の屈み方が浅すぎる、手がハンガーのように曲がっている、足腰の筋肉が脆弱な生木のように弱すぎる、神楽に打ち込む真剣さが全然足りない、など逐一、諸々を指摘されて思わず、全身から震えるように萎縮した。


 なるほど、地獄級と言い得て妙の手厳しい指導だ。


 終盤になると両足もふらふらと落ち込み、何日も臀部や脹脛、弁慶の泣き所が激しい筋肉痛に悩まされるんだ。



「銀鏡を舞台にした演劇だ。主人公が磐長姫で、現代と時空を駆け巡る話。語り手の少女は中学生で、陰の主人公に爵松丸と瓊瓊杵尊が登場する。これで五人は必要だ。あと、村人たちや家来、米良の殿さまの役も必要だな。銀鏡中には八人しかいないからほぼ、みんな参加だ」


 長友先生が小中学生に向かって意気揚々と澱みなく説明した。

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