錦秋劇場、春は来ぬ 星の神話に星の演劇。

詩歩子

第1話 色無き風、夜長月少年


 神楽月に行われる文化祭の劇について話し合いがあった長月の候、その初秋の日中は見事な秋晴れで、色無き風がとても清々しく、まるで、澄明な鏡を愛でるように瑞々しい午後の盛りだった。


 


 銀鏡の至る所の夏枯れした畦道や黄金の稲穂の夢の跡である稲架、清泉が滾々と途切れなく湧く水辺、妖しい秋日影に揺れた稲荷神社の山際には紅蓮の大火のように赤々と燃えた彼岸花が咲き乱れた。


 もうすぐ行われる秋の行事の期待感から学校中、曇りのない焦燥感に駆られていた。


 


 銀鏡中では体育祭も小学校と合同で行われる。地区の婦人会の皆さんや神職関係者の皆さんと一緒に山間の小さな運動会を鰯雲が蒼穹に飛ぶ、秋空の下で疾走するのだ。


 東京の学校では運動会なんて出番が一回か、二回あればいいほうだったけれども、銀鏡中ではほぼ出番があるのよ、と君が懇切に教えてくれた。


 


 その体育祭の後日に行われる、秋祭りの一環である、学芸会も兼ねた、文化祭では演劇と合唱を行う。


 演劇は三十分ほど学生劇にしては長丁場でやるらしく、早期に練習しないといけないからこの時季から演劇の練習に励むのだった。


 演劇の内容は一学期から小耳に挟んでいたけれども、少人数でどうやってやるか、簡潔には想像はできなかった。



「辰一君は演劇をやるのは初めてか?」


 秋場の棚引く遮光が差し込む教室で僕ははい、と長友先生から緊張しながら返事をした。


「辰一君はどんな役をするんだろうね。どんな劇をやるかにもよるよね」


 僕を含めて全校生徒は八人。


 どんな内容の劇になるのだろう。


「文化祭の劇は日向神話を題材にしたものにします」


 長友先生は爽秋の教室の教卓の前に立った。


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