第008話「明日の光」
ゾンビたちから逃れ、真弓たちは山奥の温泉施設へと向かう。
山道を進むことしばし、目的の施設が見えてきた。
途中で動けるようになった玄太郎に運転を代わってもらい真弓、銃夢、刀子の三人は荷台で反省会を行っていた。
「本当にごめんなさい」
「それはもういいって、真弓の無茶ぶりは今に始まったことじゃないし」
「……諦めは大事」
「刀子ちゃん、それってフォローになってない」
「行動する時はホウ・レン・ソウだよ」
「はい。分かりました」
「よろしい」
銃夢は真弓を抱きしめる。刀子も加わり三人で抱き合った。
反省会終了。
「着いたぞ」
玄太郎の声に三人は前方を見る。
湿った空気、霧が満ち始めた。
吉田の提案で温泉施設の周囲には常に霧状にした【三渓の湯】が散布されている。
これによってゾンビたちは施設に近づくことができない。
「まずは温泉につかって、それから吉田さんに報告だね」
◆ ◆ ◆ ◆
「――以上が今回の活動報告です」
一日の報告を終え、吉田は「ごくろうさま」と三人にねぎらいの言葉をかける。
「まあ、今回の回収はニ体だけだったけど、逃げる時に三体は撃ったから明日には回収できるかも」
と、銃夢。
「私は……四体斬った」
と、誇らしげに刀子。隣で銃夢が少しむっとした表情をしている。
言っている内容は殺伐としているが三人共温泉上がりのパジャマ姿だった。手に持っているのは牛乳瓶。
ぱっと見、湯治に来ている観光客だ。
その三人が世界を救うための要であることをいったい誰が想像できるだろう。
「三人共、もう休んでいいよ。明日からまた忙しくなるからね」
世界を救う仕事。ゾンビを人間に戻す仕事。
「「「は――い」」」
報告を終えて三人は事務所を後にした。
「おや、今日も遅くまでごくろうさんだねぇ」
施設を出ると広場で焚火を囲んでいた大人たちが三人の元に集まってきた。
「真弓ちゃんたちにばっかり無理させちゃって」
「いえいえそんな……」
それは無理のないことだ。彼女たち以外にこの仕事をすることはできない。
「スープができたから食べていきなよ」
お椀に盛られたスープを手渡される。
今、【蘇生】された者は三十人ほど、蘇生中の者を含めれば八十人程になる予定だ。
町を巡回しながら食料品を確保しているがそれもすぐに限界がくる。食料施設の拡充、インフラの整備とこれからやるべきことは多い。
【蘇生者】の身体的特徴として肉体能力の強化が上げられる。杖をついていた老人が【蘇生】後に走れるほどにまで体力がアップしたり、障害を持っていた者がそれを克服し今では元気に畑仕事をしたりなど、そのお効果は目を見張るものがあった。
「もしかしたら、ゾンビ化は人類を守るための対抗手段として何者かの意図でもたらされたものかもしれません」
これは吉田の意見だ。
「最近の研究では、数年以内に地球に隕石が衝突するという仮説があります」
もし仮説が正しいとするならば、ゾンビ化をもたらした何者かは人類を守るために人類をゾンビ化させたことになる。
外の空気を吸おうと吉田は施設から外へと出る。
「よーし、明日から頑張るぞ!」
銃夢の声が響く。
大人たちに囲まれ笑い合う三人。
「世界を頼みますよ」
吉田の言葉は吹く風と共に静かに流れていった。
三人の少女たちの戦いはまだ、始まったばかりなのだ。
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