第001話「ゾンビパニック!」

 温泉地で有名なその街は所々に湯気が立ち、川沿いには温泉旅館が立ち並ぶ。メインストリートには土産屋が並び、行楽シーズンともなれば全国より多くの観光客が訪れていた。

 晴天の青空。雲一つなく流れる風はそろそろ温かさが含まれ始める季節。

 街からは喧騒が消えていた。

 そろそろ花見客で賑わうはずの大通り、昼時にもかかわらず車の通りはない。信号はむなしい点滅を繰り返すばかりで役目を果たすことはなかった。

 大通りを人影がよぎった。正確にはふらふらとした足取りで通りを横切る。

 その歩行者の目には生気がなかった。血の気はなく瞬きも書く白く濁った瞳には何も映っていない。ゆっくりとした足取りで歩む姿は映画に登場する【ゾンビ】を連想させた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


『そっち、ニ体向かったよ』


 インカムから流れてくる声に真弓は小さく頷いた。彼女は小さな身体を迷彩服に包み、頭には少し大きめな【安全第一】と書かれた黄色いヘルメット。そして体全体を葉っぱでカモフラージュした網で覆っている。本人はカモフラージュしているつもりだろうが一般家庭の庭先ではその効果がいかほどのものかその真偽は定かではない。


(……来た!)


 小さく呟く。

 それは二人の成人男性だった。

 しかし、その瞳は虚ろで焦点は定まっていない。

 ふらふらとした足取りで家先の通りを歩いている。

 普段であれば朝は通学路、昼には車の通るごく普通の通り。

 男たちは真弓に気づかず目の前を通り過ぎる。

 

(今!)


 手に持つ紐を引く。


 カランカラン!


 彼らの前方、カーブミラーにぶら下げられた空き缶が乾いた音を立てる。

 男たちがそこに気を取られた瞬間、背後から弓を構えた真弓がゆっくりと姿を現す。

 しっかりと狙いを定め一射。

 矢は寸分たがわず男の胸に突き刺さる。

 男は崩れるようにして倒れ、その男の様子を窺う男の胸にも矢が突き刺さった。


 バタリ。


 倒れた二人の男。

 真弓はしばらく二人の様子を観察し、動かないことを確認する。

 これで任務完了だ。


『任務完了。回収急いで』


 短めに指示を飛ばす。

 一人や二人なら問題ないが人数が増えると厄介だ。

 囲まれたらまずい。脱出もだが、もし彼らにかまれたりしたなら彼らの仲間になってしまう。


(それだけは回避しないと……もう、私たちしかいないんだから)

 

 世界を救えるのはこの世に三人しかいないのだから―― 

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