第175話 オリヴィエの夢

 小さなベルの中央に触れてみるとベルの音が鳴りやんだ。料理が出来た事を知らせたからと言って、ベルが鳴り続けたら煩わしいだろうからな。嬉しい機能だ。


 「昼食の準備が出来たみたいだし、ひとまず下に降りようか。」

 「はい・・・。」


 オリヴィエが見た異形と言うのは、彼女に相当なトラウマを与えたみたいだな。まだかすかにふるえてしまっている。

 宿の男性にこんなところを見せて不審に思われる訳にもいかないし、下に降りる前に彼女を宥めて安心させよう。


 両腕を広げてオリヴィエに声を掛ける。


 「リビア、おいで。」

 「・・・へっ?」

 「今の貴女はとても怯えているよ?そんな状態でさっきの男性の元に顔を出したら、きっと心配されてしまう。下に降りる前に落ち着こう。おいで。抱きしめて頭を撫でよう。」

 「ノ、ノア様、流石に恥ずかしいのですが・・・。」

 「恥ずかしがる事は無いよ。リビアはもっと、親しい人に甘えて良いと思うんだ。そして私は貴女を甘やかせるだけの余裕がある。遠慮する事は無いよ。」


 オリヴィエは少し顔を赤らめて戸惑っている。まさか感づかれたか!?

 いや、まぁ、確かに彼女の頭を撫でる時に、彼女のフワフワな耳に触れたらいいなぁ、とか、そう言う下心が無いわけでは無いが、それでも彼女を安心させたい気持ちに嘘偽りはない。

 警戒されているわけでは無く、単純に恥ずかしがっているだけだと思いたい。


 と思っていたら、オリヴィエの方から確認を取るように訊ねてきた。


 「う、うぅ・・・っ、よろしいのですね?甘えますよ?」

 「勿論だとも。人は抱きしめられたり撫でられたりすると、気持ちが癒されて落ち着くと聞いているからね。存分に甘えて癒されると良い。」

 「それでは・・・し、失礼します!」


 そう言うやいなや、オリヴィエは抱きつきながら私の胸に顔を埋めてきた。

 そのまま抱きついて来るかと思っていたのでやや意外ではあったが、まぁ問題無い。むしろ頭が撫でやすくて好都合だ。

 優しく抱きしめて、ゆっくりと頭を撫でてあげよう。シンシアやエリィを恍惚とさせた私の撫でテク、存分に堪能すると良い!


 「ふぉおっ!?は、はふぅ・・・。こ、これ、凄・・・っあふぅ・・・。」


 オリヴィエはやや体を震わせながら快楽に身を委ねているようだ。

 そして、私の体臭を嗅いでいるような気がしないでも無いが、それで落ち着くというのなら存分に匂いを嗅ぐと良い。

 尤も、私は老廃物を出さないから、体臭と言っても石鹸の臭いぐらいしか分からないかもしれないが。


 私は私でオリヴィエの耳の触り心地を堪能させてもらっているのでお互いさまだ。

 うん。やはり良い触り心地だ。とは言え、昨日まで家の皆の毛並みを存分に堪能したため、以前のように理性が危うくなるような事は無い。


 彼女が落ち着くまで、このままゆっくりと頭を撫で続けさせてもらうとしよう。

 あまりロビーの男性を待たせるわけにもいかないから、私も彼女を落ち着かせるためにやや真剣である。



 3分ほどしてオリヴィエは落ち着きを取り戻したようだ。抱きつく力が弱まり、私から離れようとしたため、素直に私も腕を開放して彼女を自由にさせる。


 「落ち着いたみたいだね。」

 「はい・・・。ありがとうございました・・・。その・・・ノア様が許していただけるなら、今後も・・・。」

 「良いよ。しばらくは一緒に行動するんだ。遠慮せずに甘えると良い。」


 オリヴィエは顔を赤くしながらも私に願いを伝えてくる。

 嬉しいな。こうまで頼りにされるというのは。彼女は顔を赤くしているが、それは恋慕の感情と言うわけでは無く、単純に羞恥の感情が出ているようだ。


 とりあえず、好評を得たようでなによりだ。オリヴィエは甘える事を知らなかったようだし、今後も甘やかしてしまいそうだ。

 私に対して甘え癖が付いてしまうかもしれないが、まぁいいか。存分に甘えればいい。私はオリヴィエを気に入ってしまっているからな。盛大に甘やかすとも。


 さて、いい加減下に降りよう。折角料理を作ってくれたというのに、あまり待たせてしまったら申し訳が無いからな。


 「さ、下に降りて昼食をいただこう。期待して良いんだよね?」

 「ええ。朝食、昼食、夕食、どれもとても美味しかったですから、是非堪能して下さい。きっと喜んでいただけると思いますよ!」


 そう答えるオリヴィエの表情はとても明るい。

 調子が戻って良かったとは思うのだが、この国やオリヴィエの現状を再び聞く事になった際に再び彼女の表情が曇ってしまうと考えると、少々心苦しいな。


 だが、避けられない事だし、だからと言って感情を操作するような方法も取りたくはない。

 腹を括ろう。そしてオリヴィエが再び表情を曇らせてしまったら、その都度私が彼女の心のケアをしよう。



 一階まで降りて来てまずは手続きをしてくれた男性に一言謝っておく。


 「済まない。待たせてしまったね。」

 「滅相もありませんっ!どうか、謝らないでくださいっ!お客様にはお客様の都合があるのですからっ!それを私達がどうこう言うつもりは御座いませんっ!」

 「そう言ってくれて助かるよ。席は何処に座っても良いのかな?」

 「はい!お好きな席へどうぞ!料理をお持ちします!」


 宿側としてはあくまでも客側を優先させるスタンスのようだ。まぁ、だからと言ってそれを良い事に横暴な振る舞いなどするわけにはいかないだろうがな。

 礼節をもった相手にだからこそ、こういった態度を取っているのだろう。もしかしたら、そういった相手でなければ客として扱う事すらしないのかもしれない。



 適当な席に二人で腰かければ、すぐさま暖かい料理が運ばれてきた。

 オリヴィエ曰く、運ばれてきた料理はリゾットと言う、この国では一般的な料理の一つらしい。


 炒めた米にスープを加えて煮たものを言うそうなのだが、この料理には更にチーズが加えられている。きっととても蕩けるような食感なのだろう。

 香りも見事だ。チーズ、バター、キノコ、野菜、魚の香りが見事に調和して、私の鼻孔を刺激する。匂いを嗅ぐだけで涎が溢れてきてしまうな。


 「これは実に美味そうだ。早速いただこう。」

 「はい!いただきます!」


 スプーンで掬ってみれば、蕩けたチーズが糸を引き、その光景を見ただけでも思わず笑みがこぼれてしまう。

 口の中にスプーンを入れれば、旨味を大量に含んだスープを目一杯吸った米と蕩けたチーズが口の中で蕩け合い、非常に濃厚な味わいを与えてくれる。


 文句無しに美味い!

 以前食べた焼飯同様、人間にとってはとても熱い料理らしく、オリヴィエは息を吹きかけてある程度冷ましてからスプーンを口に運んでいる。

 彼女もこのリゾットの味に満足したのか、可愛らしく表情をほころばせている。


 「この宿の昼食は毎日この料理なのかな?」

 「いえ、以前私が口にしたのは同じく米を使った料理でしたが、マコト様が用意して下さったような丼料理でした。ですがあの時の料理もまた、とても味わい深いものでした・・・。」


 そう言われてしまうと、その料理も食べたくなってしまうな。

 オリヴィエ曰く、他の街でも食べられる料理との事なので、別の町へ行った際の楽しみとしておこう。


 出来る事なら、食事中は明るい話をしたい。この際だから対応してくれた男性の事を聞いておいた。


 彼、ジャックはやはり従軍経験があった。怪我を理由に退役したそうだが、今は完治しているとの事。昔から宿を経営したかったのだそうだ。つまり、彼はこの宿の主人という事だな。


 退役したのはオリヴィエが産まれる前なのだそうだが、軍人気質なのは昔から変わらないらしく、横暴を働く客は客として扱わず店から叩き出した事も少なくないのだとか。


 宿を経営したかったのは間違いないが、軍に入ったのも自ら志願しての事だったらしい。

 愛国心が非常に強く、オリヴィエだけでなく王族皆に敬愛の念を強く抱いているとの事で、街の者達からは有名らしい。


 オリヴィエが詳しい事に関心をしたのだが、彼女が以前この宿に宿泊した際に他の客が食事の際に教えてくれたのだ。

 今にして思えば、言及こそされなかったが、ジャックの事を教えてくれた他の宿泊客も、彼女の事に気が付いていたのだろう、と少し気を落としてしまっていた。

 服装だけ変えて後はまんま本人なのだから、気付かれない方がおかしいのだ。


 気落ちするオリヴィエを宥めながらリゾットを平らげる事にした。とりあえず、これならば夕食も期待が出来そうだ。



 食事を平らげ、ジャックに礼を告げた後、私達は再び部屋へと戻りオリヴィエから話の続きを聞かせてもらう事にした。


 「さて、リビア。悪いけれど、この国の話の続きをお願いできるかな?」

 「はい・・・それで、その、ノア様。お、お願いがあるのですが・・・。」

 「ん?何かな?言ってごらん?」


 恥ずかしそうにしながら、オリヴィエが訊ねてくる。彼女は私に何かを要求したいようだ。

 今更彼女が私に対して無茶な要求をしてくるわけでも無いだろうし、なんとなく彼女の要求は察せられる。


 「その、ノア様の、と、隣につかせていただいても良いでしょうか・・・?」

 「勿論。おいで。辛くなったらまた頭を撫でようか?」

 「お、お願いします・・・。」


 うんうん。良い傾向だ。その調子でドンドン甘えると良い。それはきっと、彼女の鉄面皮を剥がす要因になる筈だ。

 自分の感情を押しとどめずに表に出せるようになれば、きっと私以外の人々にも自然と笑顔を振りまけるようになるさ。


 オリヴィエは私の隣に座ると体を傾け、私の体に密着してきた。やはり体を密着させる行為と言うのは、心を落ち着かせる効果があるのだろう。彼女の表情が安らいでいるのが良く分かる。


 「私は、この国の地下に、御伽話の魔物が実在していると考えています。」

 「悍ましい異形を見たというけれど、それはどういう方法で?リビアには何か特別な魔法のような力が使えるのかな?」


 オリヴィエが私に打ち明けてくれた話は、おそらく他の誰にも知られていない事だと思う。

 それは、彼女が私に思いを打ち明けるまで、魔物の話をしていた時の深刻な表情からもうかがえる。


 彼女だけが知り得る事が出来た理由。考えられるのは、やはり魔法だ。


 「はい。魔法かどうかわかりませんが、私には夢と言う形で、時折自分が知らない筈の情報が見えるのです。」

 「具体的に教えてもらえる?」

 「例えばお姉様が産まれた時の映像だったり、お父様の失せ物が失われる瞬間であったり、成長した弟や妹の姿であったり、です。」


 なかなか興味深い内容だな。オリヴィエが挙げてくれた例は、その殆どが明るい内容のものではあるが、決してそれだけでは無い筈だ。そうでなければ彼女が怯えてしまうような異形の姿など、見える筈も無いからな。


 「予知夢、という奴なのかな?」

 「分かりません。何せ、周囲の状況が明確に分かる時もあれば、人の姿しか見えない時もあるので。」

 「効果が不安定、という事か。ちなみに、そういった力は貴女の他に誰か持っていたりはするのかな?」


 果たしてこの力は魔法なのだろうか?今のところ、私は夢というものを見た事が無いため、何とも言えない。

 もしかしたら眠っている最中に見た事があるかもしれないが、目が覚めた時に覚えていないようでは、見ていないのと変わらない。


 オリヴィエと同じ事が出来る者が居れば良いのだが・・・。


 「母方の遠いご先祖様がそう言った力に長けており、人々から敬われていた、と小さい頃にお母様から聞いた事があります。ですが、お母様はもう・・・。」

 「亡くなっているの?」


 静かに、首が縦に動く。オリヴィエの力のルーツを知るには、母親について少し調べる必要がありそうだな。


 それはそれとして、オリヴィエが見たそう言った夢は使いようによってはかなり有用なものだが、周りの評価はどういったものなのだろう?

 特に彼女の肉親の反応が気になる。


 「リビアのその力は、親、国王や兄弟からはどう思われているのかな?と言うか、貴女の肉親は、貴女のその夢の力を知っているのかな?」

 「・・・・・・いいえ。この力を知っていたのは、お母様だけです。お母様からは、この力の事は秘密にしているようにと言われていて・・・。」


 何となくだが、理由が分からないでもない。本来なら知り得る事など出来ない情報を知る事が出来る力など、権力者ならば欲しがるのは当然だからな。

 過去の事も、未来の事も、政治的にいくらでも利用が出来そうだ。


 「ノア様は、私の家族をどの程度ご存じでしょうか?」

 「国王のレオナルド=ウィグ=ファングダム、王妃のレーネリア、それと王太子で第一王子のレオンハルト、ニスマ王国に嫁ぐ予定の第一王女のリナーシェぐらいは知っているよ。」


 王妃以下、王子と王女を呼ぶときに名前だけにしたのは、二人が正妻であるレーネリアの子であり、ミドルネームもファミリーネームも国王と変化が無いからだ。

 彼等は四人共、獅子の因子を持った獣人ビースターである。

 オリヴィエの因子は狐。つまり、彼女の母親は側室である。


 「私がまだ幼い頃、夢の力の信憑性を理解していた私は、先程話したお父様の失せ物の事をすぐに伝えて、実際に失せ物を見つけられた事でお父様には大変喜んでいただけたのですが・・・。」


 オリヴィエのがここで言い澱む。つまり、彼女にとってあまり喜ばしくない話という事だろう。

 そうなると、以前私が彼女に対して無理に好かれる必要が無いと言った事と、関係がありそうだな。


 「他の人からはあまりいい反応を得られなかったのかな?」

 「失せ物の時は問題無かったのですが・・・。お兄様の婚約者の方についてお話しした時に・・・。」


 王族の婚約者の話ともなれば、確実に面倒ごとになるだろうな。

 おそらくは、夢でレオンハルトの婚約者の本質を知ってしまったのだろう。そしてそれをそのまま彼に伝えてしまった、と言ったところか。


 「当時、お兄様と婚約者の方の関係はとても良好でした。ですが、あの方が本当に愛する人は別にいて、お兄様とは上辺だけの付き合いだったのです。」

 「それを、レオンハルトに伝えたんだね?」


 静かに頷き、言葉を続ける。


 「あの時の私は幼く、きっとまた喜んでもらえると信じて、お兄様に婚約者の方の真実を伝えてしまいました。」

 「良い反応は得られなさそうだね。」

 「根拠のない妄言ですもの。ですが、その時は流石に、兄を取られまいと駄々をこねる妹と思われただけでした。」


 と、言う事はその後が問題だったという事か。子供と言うのは純粋だ。自分の力に自信があるのならば、それを証明しようと躍起になってもおかしくは無い。

 オリヴィエは優秀な娘だ。ひょっとして婚約者の浮気の証拠でもつかんだのか?


 「私は、悔しかったんです。お母様に褒められた力を、お父様に喜んでいただけた力を否定され、まともに取り合ってくれなかった事が。だから、私の力を証明するためにも、婚約者の方の調査を行いました。」

 「無茶をするね。第一王子、それも王太子の婚約者ともなれば、それ相応に身分のある人物だったのだろう?」

 「ええ。遠く離れた国、アクレイン王国の第一王女でした。ですが、彼女は彼女の従兄弟の方と・・・その・・・。」


 少し顔を赤くして言い澱んでいる。オリヴィエは初心なところがあるからな。少し踏み入った話になると声に出し辛いのだろう。


 「なるほど。既に男女の関係だったという事か。」

 「・・・は、はい・・・。そして、その従兄弟の方なのですが、この方がアクレインに置いて数々の不正を行っていた方でして、匿名でその内容をアクレイン王国の国王陛下へと知らせたのです。あの方も、国で大きな不正が行われている事に気付いていらしたので・・・。」


 アクレイン王国は海に面した海洋国家だ。この大陸どころか他大陸とも貿易が盛んな国でもある。

 ただし、貿易相手が多い分、密輸も非常に多くなってしまっていたのだ。

 そして、その密輸の証拠を隠蔽するために数々の不正も横行していたのだ。

 不正の多さに国王は頭を悩ませていた事で有名な話となっていた。

 その悩みはある時を境にパタリと無くなってしまったのだが。


 「不正に気付いたのは、やはり夢の力?」

 「はい。その時ばかりは、なぜか都合よく知りたい事が知る事が出来たのです。尤も、それはきっかけに過ぎなかったのですが。」

 「と言うと?」

 「実際にアクレインに訪問させていただき、調査をさせていただきました。勿論、単独ではありません。お兄様が婚約者に会いにアクレインに向かう際に我儘を言って付いて行ったのです。」


 自分の力を証明したいからと言って、物凄い行動力だな。

 そして、そういった方面ではオリヴィエは子供の頃から非常に優秀だったようだ。天才と言って刺し違いないだろう。


 「証拠を掴み、国王陛下はすぐさま不正を働いていた件の方を捉えたのです。そして、副次的に、お兄様の婚約者とその方の関係が明るみに出たのです。」


 今更だが、第一王女の従兄弟ともなれば地位も当然高いだろう。何せ数々の不正を行えるような立場なのだからな。

 当然の事ながら、同じくアクレインに訪れていたレオンハルトにもその情報は入って来る訳だ。


 「従兄弟の方は厳重に罰せられ、今も王城の深くに幽閉されています。そして、お兄様の婚約者の方なのですが・・・。」


 従兄弟の事を純粋に愛していて、そんな人物が厳しく罰せられたとなれば、正気でいるのは難しいか。レオンハルトに構ってはいられなくなりそうだな。


 「その・・・ショックで気が触れてしまい、その場で・・・」

 「まさか、自決を・・・?」


 オリヴィエは静かに頷く。彼女はその光景を、その場で見てしまったのだろうか?だとしたら相当なトラウマになりそうだが・・・。


 「その、関係者という事もあって、お兄様はその場にいたのです・・・。自分が愛されていなかった事、裏切られ続けていた事、そして、目の前で死なれてしまった事。婚約者の方を本気で愛していたお兄様にショックを与えるのには、十分すぎたのです。」


 それはそうだろう。だが、レオンハルトは今もこの国の王太子として問題無く活動している。少なくとも、表面上は問題無い筈だ。


 「それ以降、お兄様は、私にだけは一切口をきいてくれなくなりました。きっと、婚約者が亡くなったのは、私が原因だと気付いているのでしょう。」


 それが、オリヴィエが思った事を口にしなくなった理由か。

 この場合、非があるのは間違いなくレオンハルトの婚約者とその従兄弟なわけだが、レオンハルトにそれを言っても無駄だろうな。彼が婚約者を愛していたのは変わらないのだから。


 「それ以降、私は夢で見た内容を誰かに伝える事が出来なくなりました。」


 つまり、魔物の事も伝えられていない、という事だな。


 これは、少々どころではなく厄介な事だぞ?


 何せ、オリヴィエがティゼム王国の真の財源を求める理由が、まだ説明されていないのだから。

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