第135話 ノアの稽古・午後の部

 「すみません・・・見苦しい所を・・・。」

 「気にしていないよ。泣いていいと言ったのは私なんだ。それで、少しはスッキリしたかな?」

 「はいっ、おかげさまで・・・。ありがとうございました。」


 落ち着きを取り戻し泣き止んだオリヴィエは、自分が押さえ込んでいた感情を僅かとはいえ吐き出す事が出来たからか、今朝声を掛けた時のように晴れやかなものだ。多少の気は晴れたのだろう。


 このまますぐにでも彼女の力になってやりたくもあるが、それはまだ少し待ってもらう事になる。まずは私が引き受けた事を終わらせなければ。


 「ここまでしておいてすぐに事情を聞けない事を許して欲しい。問題をいくつも抱えるつもりは無いんだ。」

 「勿論、承知しています。その・・・。」


 何かを言いたげだったが、それを遮る。彼女なりの礼儀として何か伝えたい事があったのかもしれないが、残念ながらその話を聞いている時間が私には無いのだ。


 「少し不安かもしれないけど、今は、互いに何も言わないでおこう。かなり複雑な事情だろうし、とても長い話になるだろうからね。」

 「あっ!そろそろお昼が終わってしまいますね・・・!ええ、分かりました。ノア様。おかげさまで大分気持ちが楽になりました。改めて、本当にありがとうございました。午後も頑張ってくださいね!」

 「オリヴィエ、少し待って。」

 「ノア様?どうなさいました?」


 オリヴィエは笑いながら見送ろうとしてくれているが、彼女を引き止める。

 先程まで盛大に泣いていたのだ。目元が赤くなっている。顔も大事な商売道具であろう受付嬢で、コレは良くないだろう。確実に何かあったと思われてしまう。


 軽くオリヴィエの顔に触れて目元を少し冷やしながら微弱な治癒魔術を施す。


 これで良し。彼女の顔は食事の前と何ら変わらない状態になっている。これで憂いなく午後も活動できるというものだ。


 「ん・・・。何だか、目元が気持ち良いですね・・・。」

 「うん、これで良いよ。午後も頑張ろうか。」

 「はいっ!お互い頑張りましょうっ!」


 本当に良い表情で笑うようになったな、オリヴィエ。願わくば、その笑顔を誰にでも隔てなく向ける事が出来るようになって欲しい。

 そのために貴女が抱えている問題を解決する必要があるというのなら、私は惜しみなく自らの力を振るうとしよう。

 当然、影響が出すぎないように自重はするがな。




 午後1時。オリヴィエと別れを済ませて現在地は再び訓練場だ。午後の稽古を受けるために冒険者達も集まって来てくれている。その数は午前中の時よりも多い。一行パーティの数は12だ。


 そして全員やる気は十分である。


 少し意外だったのは、午前中に稽古を受けていた者達が全員、午後の稽古にも参加してくれた事だ。

 かなり体力を消耗したはずなのだが、大丈夫なのだろうか?


 召喚する魔物は、稽古を受ける者と同ランクの魔物を召喚するから、全力での戦闘が想定されるのだが・・・。


 「良く来てくれたな。午前、午後問わず私の稽古に受けに来てくれたという事は、強くなりたいと切に願っていると受け取ろう。だが、まさか午前に稽古を受けてくれた者達が全員午後の稽古を受けてくれるとは思っていなかったよ。かなり消耗した筈だけど、良いのか?」

 「はいっ!ガッツリ休みましたんで、午後もよろしくお願いしますっ!」


 一人が代表として答えたようだが、他の者達も気持ちは変わらないようだ。

 よろしい。では、午後もしっかりと鍛えて行こうじゃないか。


 午前中と同様に『地動アースウェイク』を用いて地面を盛り上げて、一行の数と同数の円形の舞台を、私を中心に円状に出現させる。

 広さは直径20メートル、高さは30センチ程度だ。


 「こっ、これはっ!?」

 「しょっぱなから大規模魔術かっ!?」

 「午前中に聞いたが、コレ、中級魔術の『地動』なんだってよ。」

 「うっそだろっ!?『地動』って部屋一つ分の広さを動かすだけでもかなり大変なんだぞっ!?」

 「それを平然とやってのけちまうのが、姐さんなんだよなぁ・・・。」

 「俺達ゃその事を午前中にたっぷりと思い知らされたぜっ!」

 「す、凄ぇ・・・。」

 「三日前のアレがマジでヤバかったから規格外なのは分かっていたが、ホントにどんだけ魔力が有り余ってるんだ・・・。」


 午後から稽古を受けに来た者達が訓練場全域に効果を及ぼせる規模の魔術を中級魔術で使用した事に驚き、それを午前中に稽古を受けていた者達が得意になって説明している。

 自分達の方が優位に立てていると思っているようだが、たった一日稽古をしただけで劇的に変化出来たら、苦労は無い。


 私とて、人間はおろか"楽園"の皆と比べても初めから強大な力を所持していたが、それでも最初は魔力のまの字も知らなかったし、力の加減もまるっきりで出来ていなかった。


 それでも、日々訓練や修行を欠かさず続けていたからこそ、緻密な魔力操作が行えるようになったし、まだ人間達の前で披露するつもりは無いが、空だって自在に飛べるようになったのだ。


 そのおかげか、私が意識を覚醒させた頃と今を比べると、明らかに自分の持つ魔力量や密度が大きくなっている事が分かるのだ。

 家の皆が言うには私の上達速度は異常だ、との事なので、人間達では尚更求める強さを手に入れるには時間が掛かる事だろう。


 何が言いたいかと言うと、理想の強さは一日にしてならず、という事だ。

 私ですらまだ自分の理想に届いていないのだからな。稽古を受けに来てくれた冒険者諸君には、是非とも初心を忘れずに真剣に稽古に励んでもらいたい。


 「それじゃあ皆。一行の分だけ場所を取ったから、それぞれの舞台へ行き上がってくれ。そこにそれぞれの一行のランクに応じた魔物を召喚する。」

 「「「「「ハイッ!!」」」」」


 元気よく返事をして舞台の方へと移動して行く。さて、私の方も用意しようか。


 一行の数と同じ量、という事は生憎とまだ出来ないため、3つの魔術を同時に発動させる。


 稽古中、もっと効率よく周囲に対応できるようにするためにはどうすればいいか?

 午前の稽古が終わり、依頼を片付けている最中に考えていたのだ。


 彼等の様子は『広域ウィディア探知サーチェクション』を使用する事によって、訓練場内のどこにいようとも問題無く状況を把握する事が出来るのだが、何かあった時に対応をする場合、一々彼等の元まで移動する必要がある。

 それ自体は別に問題は無いのだが、時を同じくして別の場所で問題が起きた時に手間なのだ。


 そこで私は、『幻影ファンタム』を応用してみる事にした。あの魔術、幻にも視覚や聴覚、嗅覚を共有する事が出来るわけだが、それだけでなく、幻にも周囲に物理的な干渉が出来るようにならないか試行錯誤を重ねていたのだ。

 つまり、『幻影』に質量を持たせたのだ。更に『幻影』から声も出せて魔術も遠隔で発動出来るようにしてみた。

 尚、『幻影』を基にしているため、当然『入れ替えリィプレスム』と併用可能である。


 流石に時間が掛かったが、何とか午後の稽古までに間に合わせる事が出来た。


 この魔術、安直かもしれないが『幻実影ファンタマイマス』と名付けた。非常に便利ではあるが、まだまだ改善の余地がある。

 共有しているのは視覚、聴覚、味覚の三つだけなのでこの魔術で食べ物を味わったりモフモフを堪能する事は出来ないのだ。

 それに触覚が無いので、この魔術で対象に触れようとした場合、力加減にはかなり気を付ける必要がある。

 特に今回の場合、冒険者達に触れようとして誤って怪我をしてしまう可能性もあるため、もしもそういった機会がある場合は細心の注意が必要だ。要改善点だな。


 冒険者達が皆それぞれの舞台の上に上った事を確認したら、三つの舞台を視界に収められる位置に午前中に出現させた円柱を四つ出現させ、その天辺に『幻実影』を発動させ、一つには私も飛び乗る。


 「いいっ!?さらに柱がっ!?」

 「もうその辺は深く考えない方が良さそうだよ・・・。」

 「えっ?待って!柱のてっぺん!」

 「えっ・・・・・・。」

 「「「「これなら対応もしやすいだろう。存分に魔物と戦うと良い。」」」」

 「「「「「ふっ、増えたぁああああーーーっ!?!?」」」」」


 流石にとても驚いているな。多少の説明はしておかないと稽古の間、終始混乱してしまいかねないか。


 当たり前の話だが、この魔術は人間達に教える気は無い。極めて便利で強力なのは間違いないが、そもそもの話、人間には使えないのだ。


 まず、発動させるだけでも魔力が足りない。私が知る最も大量の魔力を所有する人物、エネミネアの全魔力ですら必要魔力の半分にも満たないのだ。


 そのうえ、そこから生み出した幻を操作し、あまつさえ魔術まで発動させるとなった場合、そこから更に十倍以上の魔力が必要になってくる。


 本来『幻影』を得意とするウルミラですら、常時使用出来ない消費量の魔術だ。


 使用できない理由はそれだけではない。そもそも、生み出した幻は自分で操作する必要があるのだ。例え一つの幻だけでもそれを同時に平然と操作するには、どれだけの並列処理能力が求められるか、考えるまでも無いだろう。


 まぁ、そんなわけで家の皆には望まれたら教えるが、人間達にこの魔術を教えるつもりは無い。

 それよりも、この魔術を使用した理由を未だ驚きから立ち直っていない冒険者達に説明しないと。


 「「「「この人数だからな。流石に一度に問題が起きた場合に対応しきれないかもしれないから、その対策だ。」」」」

 「つ、強さのスケールが、違い過ぎる・・・っ!」

 「この人に勝てる人っているのかなぁ・・・?」

 「も、もうちょい・・・っ!もうちょいで、見え・・・!」


 ようやく落ち着いて来たのは良いのだが、一部の冒険者達は私から視線を外そうとしない。ずっと首を上に向けたままだ。

 もう魔物を召喚するというのに、何か言いたい事があるのだろうか?


 「あ、あの・・・ノアさん?その服装でその位置にいると、その、見えちゃいますよ・・・?」


 ?見える・・・?何が?私の服装?


 って、ああ、今の私の服装は厚手の長袖とロングスカートだ。この位置だとスカートの内側、"布のようなもの"が見えると言っているのか。


 それが何だというのだ。と、以前の私ならば一蹴していただろうが、本から人間の常識を学んだ今、ちゃんと彼等が戸惑っている理由も理解しているとも。


 下着、という概念だ。人間達にとっては局部を隠すために地肌に纏わせる衣類をそう呼んでいるのだ。

 で、それが見える事の何が問題か、という話だが、要はこの下着という物もまた裸ほどでは無いが他人に見せるものでは無いようなのだ。

 多分だが、下着という一枚の布の下に人間の局部があるという事実が、想像力を働かせ、性欲を掻き立てさせるのだろう。


 性欲という欲求を得た事が無い私にはまるで分らない話なのだが、とにかく人間は局部、というよりも性欲を刺激する内容にとことん敏感だ。

 私の下半身に視線を集中させている冒険者達も、きっとそう言う事なのだろう。


 「「「「気にする必要は無い。私も気にしていない。それより、もう魔物を召喚するよ?そんなものに気を取られていたら、すぐに怪我をしてしまうぞ?」」」」

 「いや、気にしないって・・・。」

 「お、男前が過ぎる・・・。」

 「ええぇ・・・これもう別の稽古になるんじゃないのか・・・?どれだけ気を逸らさずにいられるか、とかそういうタイプの・・・。」

 「姐さんが恥ずかしがっていないのは、良い事なのか、悪い事なのか・・・。」


 本当に分からないものだな。たかが局部を隠すための布に、何故そこまでこだわるというのか・・・。

 今夜読む本はその辺りの事を重点的に目を通してみるか。


 さて、そろそろ舞台に魔物を召喚しよう。時間は有限だからな。つまらない事で時間を浪費してしまっては、折角強くなりたいと願い集まってくれた冒険者達に申し訳ない。


 召喚魔術を使用して、それぞれのランクに応じた魔物を舞台に召喚させる。

 ちなみにこの魔術は私自身が行っている。『幻実影』からでも魔術は発動できるが、意味が無いからな。

 幻を介そうとも、同時に使用できる魔術の数は変わらないのだ。


 それに、『広域探知』で訓練場全域が把握できているから、訓練場内のどこにでも召喚魔術を使用できるので、態々幻を介する必要は無い。


 「うげぇっ!マジか・・・!アーマードウルフの群れかよっ!?」

 「一つの群を一体として召喚したのか!?そう言うのもアリなのか・・・!」

 「感心してる場合か!?備えろっ!」

 「速くて硬いから、コイツ等嫌いなんだが・・・。」

 「だからこそ克服する必要があるんだろうが。他のところでも召喚したのは同ランク帯の魔物でも厄介なものを中心に召喚している。」


 「げぇーーーっ!?血頭小鬼ブラッディゴブリンーーー!?!?」

 「しかも三体かよっ!?これ、イケるかぁ・・・?」

 「あ、姐さんっ!?大丈夫なんですよねっ!?ヤバかったら、止めてくれるんですよねっ!?」

 「大丈夫だ・・・。俺達はあの地獄を乗り切ったんだ・・・!やれる!やれるんだ俺達は・・・っ!!」

 「本当に拙い状況ならちゃんと止めるから安心しろ。ただし、多少の負傷は戦闘が終わるまでは私からは治療しない。全力で挑め。」


 「あ、あの、ノアさん・・・?ロプスフォルミガンは俺達まだ戦いたくなかったんですけど・・・。」

 「ま、またベタベタが・・・。」

 「ビビってんじゃねぇぞお前等っ!装備だって一新しただろうがっ!?対策だってあれから話し合ったんだ!前と同じ失敗をしてたまるかよっ!」

 「ノ、ノアさーんっ!こ、コイツ等が放ったビートルシロップって、戦闘が終わったら無くなりますよねっ!?そうすよねーっ!?」

 「斃したら素材も含めて全て消えてしまうからね。当然浴びせられたピートルシロップも消えるよ。その点は安心すると良い。」


 「ゴ、小鬼ゴブリンかぁ・・・。初めて見たけど、結構怖い顔してるな・・・。」

 「やれるさっ!だって、俺達ならエビルプランタンだって斃せるって、ノアさんが言ってくれたじゃないかっ!」

 「そうだ!必要以上に怖がる必要は無いんだ!」

 「役割分担だ!あの時と同じように攻撃、防御、補助の役割分担をしっかりと守って堅実に戦おう!」

 「それでいい。基本に忠実。経験が少ない内は、無難である事が一番大事だ。本来なら、大きな怪我をしてしまったら働けなくなってしまうのだからね。」


 召喚された魔物に対して皆難色を示すような反応をしてくれている。

 "初級ルーキー"になったばかりの冒険者達はともかく、"中級インター"以上の冒険者達は同ランク帯の中でも強い部類の魔物とはあまり戦っていないようだからな。その点は厳しくいかせてもらおう。


 集まってくれた者達の中でも特に実力がありそうだった者達には"上級ベテラン"の中でも特に強力な血頭小鬼を複数体あてがわせてもらった。厳しい戦いになるだろうが、問題無く対処できるようになれば"星付きスター"も目前だ。頑張りなさい。


 「「「「良し、全員準備は良いな?先にも言った通り命に関わるほど危険な場合は止めるし、戦いが終わったら完全に治療もする。余計な事は考えずにまずは全力で戦って見せろ。それでは、始めっ!」」」」

 「「「「「うぉおおおおっ!!!」」」」」


 開始の合図を言い放つと、冒険者達も召喚された魔物達もほぼ同時にお互いに向かって駆け寄っていった。


 まずは思いっきりやってみると良い。そうして、自分達の実力をしっかりと把握する事だ。それが強さに、生き残る事に繋がる。



 戦闘開始から20分。血頭小鬼4体をあてがった冒険者達以外は、全員戦闘を終えている。

 彼等は敗北判定を受けた者達以外は、次の戦闘に備えて休憩中だ。


 そこから更に5分後、最後まで残っていた一行も決着がついたようだ。堅実に攻めて着実に数を減らし、最後に残った血頭小鬼を斃して戦闘は終了した。


 何か所か負傷はしているが、装備の破損も無ければ、命に関わるほどの危険も無かった。


 「っしゃああああっ!!勝ぁてたああああっ!!」

 「ぜぇっ、はぁっ、お、俺達っ!、せぇっ、ブラッディっ、ぜぇっ、ゴブリンにっ、はぁっ・・・!」

 「ああ・・・!ギリギリだったが・・・!勝てた・・・ぜ!」


 正直、勝てるとは思っていなかったので、驚いている。現に、血頭小鬼三体をあてがった冒険者達は私が危険と判断して途中で敗北扱いにした。

 勝てたのは純粋に彼等が全力を出して頑張った結果だ。治療をするのは勿論だが、それはそれとして、しっかりと彼等を褒めるべきだな。


 「時間は掛かってしまったが、全員最後まで諦めずに良く頑張ったな。」

 「あ、姐さん・・・っ!」

 「あぁ、治癒魔術の光と相まってマジで姐さんが女神に見えてきた・・・。」

 「あ、あの・・・怪我を治療してくれるのはマジで嬉しいんスけど・・・前と違って、スタミナが回復してないんスけど・・・。」


 治療を受けている者の一人が、ふと気づいた事を私に訊ねる。


 今回の稽古で負傷した場合、怪我は直すが体力までは回復しない。それでは実戦形式とは呼べない。ただの戦闘訓練になってしまうからな。

 ちゃんと討伐依頼を想定した内容に近づける事に意味があると思うのだ。


 「実戦形式の稽古だと言っただろう?お前達の受ける討伐依頼は、片手で数える程度の討伐数で依頼が片付いてしまうのか?違うだろう?10分間休憩したら次を召喚するから、しっかりと体を休ませておくんだぞ?」

 「・・・マ・・・マジかぁ・・・・・・。」

 「優しいけど!確かにあの時より優しいけども・・・!」

 「姐さんの用意した稽古が、一回の戦闘だけで終わるような生易しい稽古の筈が無かった・・・!」

 「「「「「それな・・・。」」」」」


 当然だ。ロプスフォルミガンとの戦闘を数分前に終わらせたベアー達にも以前言ったが、人間達が簡単に強くなる方法を私は知らない。

 私が短期間で彼等をマコトが望む強さにまで鍛えるには、それなりに時間と過酷な内容が必要になる。

 その事を覚悟をしてきた者達もいれば、彼等のように連戦になるとは想定していなかった者達もいたようだ。


 「大体、午後の稽古も午前と同様3時間の時間を取っているんだ。たったの一戦で終わるわけが無いだろう?連戦となっても問題無く戦えるだけの体力を身に着けたければ、午前中の稽古も受けると良い。そっちは基礎的な身体能力を鍛える事をメインにしているからな。」

 「ウ、ウッス・・・。」

 「これ、午前か午後、どっちか受ければ良いってタイプじゃねぇな・・・。どっちもちゃんとこなせるようにならないと、強くなれねぇぞ・・・!」


 必ずそうとは言えないんだがな・・・。

 まぁ、ランクと比べて身体能力も技術も経験も足りていないのなら、今彼が言った通り午前午後、両方の稽古を受けるべきだな。

 ただし、そうなったらその日はまともに依頼を受ける事など出来なくなってしまうだろうがな。


 何、毎日やった方が効果はあるだろうが、そうでなくともしっかりと稽古の内容は身についているとも。そうなるようにしているからな。

 真剣に取り組んでいるのなら尚更だ。それは、今後の午後の稽古で十分に分かって来るさ。


 「「「さて、休憩が終わったところから随時新たに魔物を召喚していくぞ。先の戦闘で敗北扱いされた者達は分かっていると思うが、敗北した場合は敗因を説明した後、ペナルティとして最後の一行の戦闘が終わるまで午前中と同じ条件で素振りの稽古だ。尚、最後に残った一行が敗北判定を受けた場合は休憩後、次の戦闘が一通り終わるまで素振りだ。頑張りなさい。」」」

 「あ、アイツ等がいきなり汗だくになって素振りし始めたのって、そう言う事だったのかぁ~。」

 「こりゃ、負けるわけにはいかなくなったな。敗北扱いになったらその分、戦闘回数が減っちまう!」

 「素振りは素振りで、稽古になるんだろうが、なっ!」


 そう。血頭小鬼に敗北した冒険者達だけでなく、他にも少しの油断や私の方へと視線を向けた事が原因で敗北判定を受ける一行があったのだ。そういった者達は今私が説明した通り、素振りをさせている。

 ペナルティの意味もあるし、敗因の一つとして、単純に身体能力不足が原因というのもあるからだ。

 今回の稽古はこれを時間まで続ける。最終的には体力が持たなくなり全員素振りをする事になるだろうが、今後も回数を重ねて行けば、次第に素振りを行う回数も減っていく事だろう。

 彼等が素振りをする必要が無くなったら、別の稽古も用意しよう。




 そんなわけで、時刻は三時間後の午後3時50分。そこには私の想定通り、全員漏れなく素振りを続けて、汗まみれになった冒険者達の姿があった。

 例の飲料物を渡して『清浄ピュアリッシング』を掛けたら、今日の稽古は終了だ。


 文句を言う事も無く、本当によく頑張ったものだよ。しっかりと休むと良い。

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