第72話 錯乱エリィ
鑑定士の部屋から出て、エリィの元まで向かう。受付広間には、わらわらと依頼を終わらせた冒険者達が報告に戻ってきているようだ。エリィも他の冒険者達の相手をしている。
さっきの今で一気に来たな。五つ目の鐘が鳴ったのだろうか。
他の受付カウンターも大体同じようなものだ。なら、エリィのいるカウンターに並ぶとしよう。
エリィはどの冒険者が相手でも、表情をしかめるような事はしていない。彼女の表情には常に愛嬌がある。対応されている冒険者も機嫌が良さそうだ。
器量が良いからだろうな。今の所両手で数える程度しか見ていないが、彼女が対応している冒険者は、ほとんどが男性だ。私が見る限りでは、冒険者達の半数以上は彼女に対して恋慕に近い感情を抱いている。
あれだけの人数から恋慕の感情を向けられて、良くああも隔てなく、そして愛想良く対応できているものだ。
と言うよりも、それが出来なければ受付嬢という職は、円滑にこなせないのかもしれないな。素直に感心する。
しばらくして、私の番が来た。
「ノアさん、お待たせしました。ギルド証の提示をお願いします。」
「貴女の仕事ぶりを見ていたら、時間など直ぐ過ぎていたよ。冒険者達への対応、見事なものだった。」
「よ、よしてくださいよ。私がやっている事なんて、先輩方の見様見真似なんですから。先輩達なら、もっとスムーズにできますって。」
ギルド証を渡しながらエリィの仕事ぶりを褒めたのだが、どうも謙遜しているように見える。
真偽を確かめるために、近くの受付嬢を見れば、呆れた表情で首や手を横に振っている。つまり、彼女は同僚が認めるほどに優秀だという事だ。
おそらく、それをエリィに指摘したところで余計に謙遜してしまうだけだろう。
彼女は自分の事をただの受付、と称する事が何度かあったが、もしかしたら自己評価が低いのかもしれないな。
この分だと、異性から向けられている恋慕の感情も、自分に向けられる筈が無い、と思っているんじゃないだろうか?
まぁ、今は不都合をしているわけでは無いし、エリィがこの事で悩み、私に助けを求めるような事が無い限り、私が口を出すような事でも無いだろう。
エリィに恋慕を抱く男性陣よ。彼女を振り向かせるのは難しそうだぞ?
「これで依頼は完了です。それでは、こちら報酬と、更新されたギルド証です。早速"
「ありがとう。今から明日の分の依頼を受注する事は出来るかな?」
「残念ですが、依頼を斡旋できる時間は午後の鐘が五つ鳴るまででして・・・。また明日以降お尋ねください。夕食にはもう少し時間がありますけど、いかがいたしますか?」
「ん、そうだねぇ。今からだと図書館へ行ってもあまり本が読め無さそうだからね。宿でのんびりとしながら夕食を待つとするよ。そうして食事が終わったら、閉館時間まで図書館で読書、と言ったところかな。」
「何とも優雅な事ですねぇ。それはもう、ほとんど"
「そうなのかい?なら、私はそんな感じの生活をしていれば良いという事か。ああ、そうだ。聞きたい事があったんだった。」
「えぇ・・・まぁ、はい、それでいいです。それで、聞きたい事と言うのは何でしょうか?」
「常設依頼についてだね。報酬が通常の依頼よりも少ないという話だったけれど、達成回数に関しても通常よりも少ない扱いにされるのかな?」
常設依頼にもランクがあったからな。通常よりも報酬が少ないと言うのであれば、需要も多いのだろうし、入手難易度も同ランクとして考えるならば、そう高くは無いのだろう。
だとするなら、達成回数にも影響が出て来るんじゃないだろうか?
同じ扱いだった場合、常設依頼用の品を予め大量に所持しておいてから、同ランクになった際に一気に納品してしまえば直ぐにランクアップできてしまう。
尤も、そんな事が出来るなのら、冒険者では無く商人にでもなれば良いと思うが。
「あああっ!?すみません!説明していませんでしたっ!」
「良いよ。ふと気になっただけだしね。やるかどうかも分からないんだ。」
「そういうわけにはいきませんよ!ううぅっ、受付失格ですぅ・・・。ですがっ!まずは説明ですよねっ!?」
「あ、あぁ・・・頼むよ。」
説明し忘れていた事が余程ショックだったのか、私がたじろいでしまうほどエリィの様子が妙な事になってしまっている。大丈夫か?
しかし、説明をし忘れたと言うだけで、随分な反応だな。彼女はこの仕事に対して誇りを持っているのだろうな。
私は、彼女のこういった部分に好感を抱いているのかもしれない。
「常設依頼にもランク分けはされていますが、正直なところ、同ランク体の物と比べると常設依頼の納品物と言うのは、難易度が低いとされていまス。その理由はズバリッ!、需要の多さ故にこなす者が大勢いて、入手方法も確立されてているからですっ!ね!」
「皆が必要としているのならば、当然入手は容易な方が良いだろうからね。私が先程行ってきた森なんかはその最たるものじゃないか?」
「ええ!あの森こそ、まさしく理想的な採取場です!尤も!安全かつ容易に採取できるため"
「そうなると、当然常設依頼の達成回数は、通常の依頼の達成回数とは同等とは扱えない事になるね。」
「はい!一つ上のランクであっても3回達成して一回分、同ランクの場合は、10回こなしてようやく1回分となります!さらにっ!一つ下はっ!なんとっ!一回分の達成回数を得るのにっ!30回も達成する必要があるんですっ!!」
これはまた、同ランク帯の依頼と比べて難易度が低いとはいえ、随分と低く見積もられているな。感覚としては二つ分ランクが下がるような扱いか。
徹底して、楽をしてランクを上げさせない、と言う冒険者ギルド側からの、強い意思を感じられる。
ところでエリィは大丈夫なのか、妙にテンションが高くなってないか?
一応、意志の疎通は出来ているから、今は様子を見ておこう。
それよりも、気になる事が更に出てきたんだ。
「ちなみに、自分のランクを二つ以上外れた常設依頼はどうなるのかな?ざっと目を通したら星の印が付いた常設依頼もあったようだけれど。」
「ええ!気になりますよねっ!ノアさんなら"星付き"の常設依頼も余裕でこなせてしまうでしょうからねっ!モチロン!説明させていただきますよっ!」
さっきからやっぱりエリィの様子がおかしいぞ。そんなに説明し忘れていた事がショックだったのか?
とにかく、彼女に対して周りの者達にヘンな印象を与えてしまわない内に、彼女を一旦落ち着かせよう。
「エリィ、一旦ストップだ。落ち着こう。今の貴女は普段とはまるで別人だよ?」
「ノアさんっ!やっと私の事を名前で呼んでくれたんですねっ!?いつも貴女、としか呼ばれなかったから、実際には好かれていないんじゃないかって心配してたんですよっ!?」
「済まない。あくまで周りがそう呼んでいたのを耳にしただけだったから、実際にその名前で呼んで良いか分からなかったんだ。基本的に自分から名乗る、もしくは私を含めた複数人で会話をしている最中に名前が判明していなければ、相手の名前を呼ぶ事は無いよ。」
「ああああっ!?!?そういえば名前を教えてなかったああああっ!!何やってるのおおおおっ!?!?」
いかん、エリィを落ち着かせるために、つい名前で呼んでしまったら余計に取り乱されてしまった。
彼女は名前を呼ばれた事に歓喜しているようだが、名前を呼ばれなかった理由が自分が名前を教えていなかった事だと分かると、いよいよ錯乱してしまった。
両手で頭を抱えて天を仰いで叫んでいる。
ギルド内に入って来る冒険者達も増えてきているのだ。目立つなんてものじゃないぞ、この状況。
仕方が無い、こういう時は奥の手だ。
「エリィ、過ぎた事を気にしていてもどうしようもないよ?普段の貴女に戻ってくれないか?普段の落ち着きながらも愛嬌のある対応をしてくれる、そんな貴女の方が私は好きだ。」
「ほあぁっ!?!?すっすっ、好きぃっ!?!?あっあっあっ、あぁぁぁ・・・、これ、しゅきぃ・・・・・・。」
少しカウンターへ身を乗り出して、エリィの頭を優しく撫でながら、普段の状態に戻って欲しい、と声色を優しくして伝えたのだが、今度は顔を真っ赤にさせて、別方向に取り乱してしまった。
その上、私が今の発言を彼女にした途端、周りにいた冒険者達が一斉に私とエリィに視線を集中させたのだ。何事だ?
とは言え、周りの連中の反応はともかく、エリィを落ち着かせる事自体は成功したようだな。
一時は取り乱していたが、撫でられている感触が心地いいのか、顔を恍惚とした表情をしている。
私の撫で加減もなかなかのものだろう。シンシアやクミィを蕩けさせた私の手腕、存分に堪能してもらおう。
・・・・・・で、さっきから何やら周りが騒がしいな。相変わらず視線は私達に集中しているし、本当に何事だ?
「美女に撫でられて蕩けた表情をする美少女・・・イイ・・・。」
「尊みしか感じない・・・。」
「大変良い物を見せて頂きました・・・・・・。」
「エリィちゃんの蕩け顔・・・。ありがとうございますっ!」
あの連中からすると、今のこの状態は大変目の保養になるらしい。
どうもあの連中の話を聞いていると、同性同士でかつ恋慕に近い感情で親密な状態になっている絵面が、彼等の心にとても感銘を受けるらしい。何とも複雑怪奇な需要な事だ。
だが、そうなってくると、エリィが私の[好き]という言葉に対して顔を赤くしたのは、そういう意味で捉えられてしまったという事になる。
それはよろしくないな。話も進まなくなるし、誤解は解いておこう。
「エリィ、落ち着いて。分かっているかもしれないが、私が貴女を好きだと言ったのは、好感が持てるという意味であって、恋慕的な者では無いよ?」
「はへぇぇええ・・・・・・っえあっ!?あっへっそっ、そうですよね!?ええ、そうですよねぇ!?」
「同性では生物的に子を残せないのだから、親愛の感情ならばともかく恋慕の感情を抱きようも無いと思うのだけれど、人間社会では違うのかい?」
「えっ?あ、ああ・・・・・・そうでした。ノアさん、碌に人の社会について知らないんでしたよね?ええ、まぁ、同性でそういった関係になる方もいると耳にする事はありますよ?」
なんとまぁ、自由な価値観な事だ。子孫繁栄的な意味で余裕があるからそういった感情が生まれるのだろうか?今の私にはどうやっても理解できそうにないな。
図書館の本にはそれらについて理解できる内容の本があるのだろうか?
とにかく、エリィも平静を取り戻した事だし、そろそろ話を戻してもらおうか。
「それでエリィ、そろそろ話を戻してもらって良いかな?」
「あっ、はい。ええっと、自分のランクから大きく外れている常設依頼に関しては、原則として受注が出来ないものとなっていますので、納品物は買い取りと言う形で処理されます。つまり、報酬は得られても依頼の達成とはみなされない、という事ですね。」
ようやく知りたい情報を知る事が出来たな。何だかえらく時間が掛かった気がする。エリィに説明を聞くときは聞き忘れが無いかをちゃんと確認しておこう。
しかし、大きく下回るランクはともかく、上回るランクの常設依頼でも依頼達成とは認められないのか。まぁ、理由を聞けば一応は納得できるが。
となると、無理に常設依頼をやる必要はなさそうだな。
他に聞きたい事は今の所は無いし、このぐらいで良いかな?それでは、宿に戻るとしようか。
エリィに別れを告げて"囁き鳥の止まり木亭"に戻ると、既にシンシアとジェシカが仕事着に着替えて食堂の掃除をしていた。
シンシアは机を濡れた布巾で綺麗に拭いて、ジェシカはモップで床を磨いている。進捗状況は大体七割と言ったところか。
時間としては、六つ目の鐘が鳴るまでに後30分以上はある。拭き終わった席に腰かけて、夕食までのんびりとしていよう。
「あっ!ノア姉チャン!お帰りーっ!依頼は片付いた!?」
「コラッ!シンシアッ!お話をするなら仕事を終わらせてからにしなさいっ!ノアさんも、シンシアが机を拭き終わるまでは構わないでやってね?」
「「はぁーい。」」
「ノアさん・・・、出来ればシンシアの口調に合わせないでもらえるかしら?調子が狂いそうよ。」
「同じ怒られた者同士で合わせてみたんだけど、似合わなかったかな?」
「ノアさんがもう少し幼い見た目をしてくれてたら違和感も無かったんでしょうけどね。落ち着いていながら苛烈さを醸し出してるノアさんには、合わないと思うわ。って、シンシアに怒った私がノアさんと話をしてたら駄目じゃない。悪いけどノアさん、おしゃべりするのはちょっと待っててもらうわよ。」
ジェシカはシンシアと比べてかなりしっかりしているな。
シンシアと同じ口調で返事をしたら苦言を返されたのだが、仕事中のためあまり会話は出来なかった。
だが、彼女達の今の掃除ペースならば、後10分もあれば清掃が終わるだろう。心の中で彼女達を応援して待つとしよう。
予測通り10分ほどで二人とも清掃を終えたようだ。シンシアが嬉しそうに私の元まで駆け寄ってくる。
それに対してジェシカは普段と変わらない足取りだ。シンシアも将来このぐらいの落ち着きを得られるのだろうか?ちょっと想像がつかない。
どれ、シンシアは冒険者の依頼の事で質問をしてくるだろうし、今日の出来事を軽く話すとしようか。
「そんなわけで、五つ目の鐘が鳴る前に街に着いたんだ。」
「「いや、早すぎない?一時間掛からなかったんでしょ?」」
おおぅ。シンシア、ジェシカ、君達までもか。
一度"新人"の依頼を片付けた後、四つ目の鐘が鳴った後に街を出て五つ目の鐘が鳴る前に採取を終えて帰ってきた事を二人に話したら、聞き慣れた感想が帰ってきた。
まさか五人に話しをして、五人ともほぼ同じ感想を聞かされる事になるとは。
これはもう、彼女達の感覚が一般的な者だと考えるしかないな。まぁ、これよりペースを落とすつもりは無いのだが。
「その感想を聞くのはこれで4回目だよ。皆同じ感想しか言わないんだ。しかも1回目と2回目は一字一句言葉が違わなかった。」
「当たり前じゃない。イスティエスタからあの森まで、どれだけの距離があると思ってるのよ?普通の人が行こうとしたら片道で3時間は掛かるわよ?」
「うん、それは門番からも聞いたね。なんでも、査定をした鑑定士が言うには私の実力は既に"
「初めての納品でいきなり指名依頼を出したい、なんて言われるぐらいなら、それぐらいの実力なんでしょうね。まったく、とんでもない人がウチに泊まりに来てくれたものだわ。」
「そういえばノア姉チャン、最初からウチを目指してたんだよな?どこでウチのこと知ったんだ?」
鑑定士の私に対する評価には、ジェシカも納得しているようだ。最上位の冒険者と同等の力量の物が自分達の宿に泊まっている事実に、何やら若干の呆れの感情が読み取れる。
そんなジェシカの発言にシンシアが素朴な疑問を口にする。そういえば、この宿を紹介してくれた門番は彼女達の身内だと言っていたな。今の所、宿で見かけてはいないが、此処で暮らしているわけでは無いのだろうか。
「あの日、東門の門番をしていた青年に勧められたんだ。自分の親戚がこの宿を経営していると教えられてね。話をしていた時は丁寧な言葉遣いだったけれど、素の口調はなかなか粗暴だったのが印象的だったから、よく覚えているよ。」
「ああ、トム兄チャンかっ!トム兄チャンってば、女の人にだけは優しいんだよなぁ~。でもさ、トム兄チャンオレの事は女扱いしないんだぜっ!?おかしくねっ!?」
「そう思うんだったら、せめて言葉遣いぐらい直しなさいよ・・・。変なとこばっかりお父さんに似ちゃってるんだから。」
「彼はトムと言うのか。この宿では見かけてはいないけれど、別の場所で暮らしているのかな?」
「ふふっ、違うわ、シンシアが紛らわしい事を言ったけど、従兄弟ってだけよ。お父さんの弟さんの息子なのよ。」
なるほど、そう言う事か。合点が行った。
しかし、人間と言うのは身内と認識する範囲が広いんだな。野生の獣や魔獣達なんかは、生まれてからある程度育ったら後は散り散りに去ってしまうものだが、人間社会では血のつながった兄弟は末永く交流があるようだ。なかなかに面白い話だな。
それにしても、シンシアの言葉遣いは父親譲りなのか。この娘も人間の感覚で見れば、姉と同様異性から好意を寄せられやすい容姿になる。
シンシアの言葉遣いが男性的な事が、気にならないわけでは無かったのだ。
門番のトムがシンシアを女性扱いしないのは、もしかしたら彼女に言葉遣いを直してもらいたい気持ちの表れなのかもしれないな。
「ノア姉チャン、トム兄チャンの事はもういいだろ!?冒険者の話を聞かせてくれよぉ!?」
「ったく、この子は、全然言葉遣いを直そうとしないんだから・・・。」
「そうだね。と言っても、後は受付で依頼完了の報告を済ませて"初級"に昇格したぐらいだよ。斡旋してもらえる依頼があったら受けようかと思ったんだけどね。」
「冒険者ギルドの依頼の斡旋は、確か午後の鐘が五回鳴るまでだったわよね。」
「ああ、そういうわけだから、依頼を受けるのは明日の朝からになるね。シンシア、悪いのだけれど、指名依頼を片付けるまで、魔力についての話は保留にしてもらって良いかな?なるべく早くに終わらせるから。」
「モチロンだぜっ!あっでもそれなら、依頼の話もチャンと聞かせてくれよな!討伐以来の話とか聞きたいぜっ!」
「そうだね。そうしようか。それなら、沢山話が出来るように、出来るだけ多くの依頼を斡旋してもらうとしよう。」
シンシアの表情は満面の笑顔で期待に満ちている。他の子達も皆冒険者の話には興味があったようだし、エリィに頼んで子供が聞いて喜びそうな依頼を斡旋してもらえないか、ダメもとで頼んでみよう。
そう思っていた時、ジェシカが思い出したかのように私に礼を言ってきた。
「そうだわ。ノアさん、シンシアに魔力を知覚させてくれたんですって?ありがとうございます。」
「構わないさ、話の流れで自然にそうなったと言うだけだしね。」
「それはとてもありがたいのだけれど、本来ならこのくらいの子達に魔力を知覚させるのは貴族様がお金を払って、熟練の魔術師に依頼する話よ?お礼を受け取るつもりが無いって聞いたけど、本当に良いの?」
「勿論、構わないとも。私にとっては取るに足らない事だからね。気が向いたと言うだけの話さ。逆に言えば、例え金貨を積まれても気に入らない相手や気が乗らなければ、一切やる気が無いという事でもあるのだけどね。」
「流石、"一等星"と同格の実力って言われる訳ね。こう言っては何だけど、"一等星"の人達って変わり者が多くて、殆どの人が単純にお金を積むだけで依頼を受けてくれるような人達じゃないのよねぇ。」
そんな会話をしていると、夕食時を知らせる六回目の午後の鐘が鳴り始めた。これからこの宿の食堂にも人が次々と入り始めてに盛大に賑わう事だろう。おしゃべりの時間はここまでのようだ。
「鐘が鳴っちゃったわね。名残惜しいけど、おしゃべりの続きはまた今度にしましょ。ほら、シンシア、行くわよ!」
「わかったー。ノア姉チャン、またなー。」
「ああ、シンシア、待って。ついでだから、ハン・バガーセットを一つ注文させてくれるかい?」
「まいどっ!じゃ、すぐに持ってくるから、ちょっと待っててくれよな!」
六回目の鐘が鳴ったのならもう注文をしても良いだろう。シンシアにハン・バガーセットを注文して食事が来るのを待つとしよう。
十分に食事を堪能したら、次はお待ちかねの図書館だ!
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