第37話 事象を発生させてみよう
さて、レイブラン達が見せてくれたようにエネルギーの事象には法則がある事が分かった。
法則があるという事は、それを踏まえて適切な形にエネルギーを操作して、必要なエネルギーを注いでやれば、誰でも同じ事象を発生させることが出来るという事か。
いや、全く同じという事は無いんだろうな。
エネルギーには量だけでなく密度や色がある。私に仕えてくれた子達にもエネルギーの色が複数見て取れたのだが、この色の数によっても威力に差が出るようだ。フレミーやホーディは三色の色が視えたが、他の子達は二色だった。
ラビックとホーディに稽古を着けていて分かった事だが、どうも二体の攻撃の威力に差があるのは、身体能力や体格の違いだけではないらしい。というのも、ラビックの繰り出す技の威力ですら、私が最初に検証していた時の拳の威力に迫るほどだったのだ。
ラビックの身体能力だけでそこまでの威力が出るとは思えない。そして、ホーディの繰り出す技の威力は、ラビックのそれをさらに上回る威力だった。
込められていたエネルギー量は二体ともあまり変わらなかったし、密度でいえばラビックの方が大きかったのだ。後で確認を取ってみようと思うが、おそらくはエネルギーの色が多いほど、効果や威力が上昇するのだろう。
ならば、私がレイブラン達と同じ図形で、同じエネルギー量使用した場合、かなり威力に差が出るのではないだろうか。
「ねぇ、レイブラン、ヤタール。私が君達と全く同じ『空刃』を使用した場合、どの程度の威力になりそうだと思う。」
〈どんなことになるか想像がつかないわ!密度も桁違いだし数も沢山なのよ!〉〈絶対に森に向けて撃っちゃだめよ!?森の木が沢山切り裂かれてしまうわ!〉
二羽が驚愕した表情でこちらを見て、慌てて私を止める。
まぁ、そうなるよな。それでは、森に被害を出さないためにも上に向けてやってみるとしようか。
空を見上げれば、いい天気だ。雲一つない、というわけではないが、白くて大きな雲が景観に深みを与えている。
確か、ヤタール曰く、扱うモノ、大きさ、量、勢い、向きを意味する形があって、それを綺麗に組み立てる、だったな。
うん。これ、他にも色々と"意味を持った形"が大量にあるな。もしかしたら、それすらも何らかの法則性を持って存在しているのかもしれない。
いや、余計なことを考えるのは後にしよう。今は『空刃』の図形を私が作る事だ。
彼女達の描いた図形の形状は覚えている。私が一呼吸するくらいの早さで完成させていたが、それは彼女達が何度も『空刃』を使い続け、研鑽を重ね続けてきたからだろう。エネルギーで意味を持つ形を作ること自体、なかなかに手間がかかる。
これは、日課の訓練に追加しておこう。いや、ここまでくると最早修行だな。
エネルギーで形を作ったら、今度はこれらを綺麗に組み立てる、と。
何がどうなると綺麗なのかは、いまいち分からないが、今は見せてもらった図形の通りに組み立てよう。これも、なかなか手間が掛かる。
図形を組み立て終わったので、エネルギーを図形に注いでいく。私のエネルギー量だとあっという間だな。一瞬で図形にエネルギーが満たされた。
最後に図形の中心にエネルギーをぶつけてやれば、『空刃』が発動する、というわけだ。改めて図形を見て思ったのだが、発動するためにエネルギーをぶつける部分が、意味を持った形になっているんじゃないだろうか。差し詰め、『発動』を意味する形といった所か。
知ってか知らずか、レイブランとヤタールは綺麗に意味を持った形を組み立ててその過程で、中心にこの『発動』の形が出来るように組み立てているのだろう。見事なものだ。
さて、それではエネルギーを図形の中心にぶつけてみようか。かなり少量のエネルギーで発動が可能だったので、可能な限りエネルギー量を絞って中心に放つ。
白くて大きな雲に、縦の線が入った。
・・・・・・レイブラン達の『空刃』と比べて射程も範囲も勢いも、上がりすぎじゃあないだろうか。
〈雲まで届いちゃったわ!?やっぱりノア様って規格外ね!〉〈雲が縦に割れたわ!?威力が雲まで届く距離になっても減衰していないのよ!〉
このままでは碌に森で『空刃』を放つ事は出来ないな。私が気兼ねなく使うには、威力を落とした図形を作る必要があるか。それに、訓練用に周囲に被害が出ないような図形も欲しい。二羽は何か知らないかな。
「便利なものだとは思うけれど、私が使うには威力がありすぎるね。何かこう、狭い範囲で風を起こすような周囲に被害が出ない図形は無いのかい?」
〈良いのがあるわ!急に止まったりするのに使うのよ!〉〈あるのよ!姿勢を整えるのに使ったりするのよ!〉
それは朗報だ。早速教えてもらうとしよう。聞くに、彼女達の機動力を裏付けする要因の一つなのだろう。
教えてもらった図形の効果は、端的に言えば、指向性を持った空気の爆発である。
私が空中で移動する際に行った空気の破裂に指向性を持たせたものと似ている。指向性を持っている分、ただ空気を爆発させるよりも、無駄なく勢いを得ることが出来るだろう。
これは良い。相変わらず、威力が大きいが、そこは"意味を持った形"を精査して、威力を抑えた図形を作れるようにしよう。しっかりと使えるようなれば、今後の移動に大いに役立ってくれるだろう。
「ところでこれ、威力や規模の大きさは、どうやって変更するんだい?適切な意味を持つ形が必要になったりするのかな?」
〈そうなのよ!いろんな形があるの!〉〈変な形にすると事象が起きなくなるのよ!〉
ということは、使われている図形の一部は数字を意味する形になるのか。それはつまり、この図形は何らかの文字によって作られている、という事か。
そうなると、この"意味を持った形"、つまりはこの文字に疑問が出てくるな。
文字、というからには自然に出来たものでは無いはずだ。方法は分からないが、何者か起こしたものであることは間違いないだろう。
それがいったい何者なのか、何故こういった文字を作り上げたのか。そもそも、今もまだ存命しているのか。疑問は尽きない。もしも存命しているというのなら、会って話を聞いてみるのも面白いかもしれないな。
それはさておき、だ。今は出来る事をやろう。レイブランとヤタールが知る限りの"意味を持った形"を教えてもらうとしよう。
日が沈んで、皆が家の中に帰ってきたところで、皆が使用する図形の確認を取ってみることにしよう。
ちなみに、彼らは自分の食事は基本的に自分達で調達して必要な分食べている。
というのも、私は食事の必要が無いため、食事以上に興味のあるものを見つけてしまうと、食事を蔑ろにしてしまうからだ。
彼らと一緒に美味いものを食べたいし、食べる様を眺めたいのも事実ではあるのだ。その辺り、しっかりと折り合いをつけていかないとな。
「今日は一日レイブランとヤタールに頼んでみんなが事象を発生させる方法を教えてもらっていたんだ。もしよければ、皆の知っている"意味を持つ形"や、それを用いた図形を教えてほしいんだ。」
〈勿論、構いませんぞ。儂が知る全ての形をお教えいたします。〉
〈私も構いません。皆の知識を共有する事で、新しい形の使い方が分かるかもしれません。〉
〈教え合う、というのは良いな。我らはこの森でも強者ではあるが、少なくとも我は、今が頂点だと考えたことは無い。より上を目指せる機会だ。喜んで教えよう。〉
〈私も知ってはいるけれど、あまり数は多くないよ。私の力の使い方は、どちらかというとノア様のものに近いからね。〉
〈ご主人、形を作らなくてもボク達よりいろいろな事ができるのに、それでも知りたいの?〉
皆が私の要望に肯定的である中、ウルミラが疑問の声を出した。私には図形を用いて事象を発生させずとも、十分な事が出来るからだろう。それは分かる。しかしだ。
「この方法でないと出来ない事もあるだろうし、出来る事は増やしていきたいからね。何より、私だけ使えないのは、仲間外れみたいで嫌だからね。ウルミラ、教えてもらえないかい?」
〈否定してるわけじゃないの。ただ、ご主人って勤勉だなぁって思ってさ。ボクは自分の今できる事が上手に出来るようになれば、それでいいと思ってたからさ。〉
そう言って、ウルミラも形を教えてくれる事に異存はない事を伝えてくれた。全員の意見が一致したみたいで良かった。それでは、今日はもう寝るとしよう。
「そうと決まれば、今日はもう寝よう。明日は皆で勉強会だ。レイブラン、ヤタール。明日はちょっと早めに起こしてほしい。」
〈最早自分で起きる気は無いのね。ノア様。〉〈なんだか締まらないわ。〉
既に自力での起床を諦め、二羽に頼り切っている私の態度に、彼女達は私に殺されると思っていた時以来、少しも見せていなかった気落ちした様子になっていた。
そこまで落胆することかい?
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