森に来る者達

第34話 塩を求めて

 ゴドファンスが私に仕えてから五日が経った。あれからすぐさまフレミーがプレゼントしてくれた布を用いて全員分の寝床を制作した。

 そう。全員分だ。ホーディやゴドファンスのように私の身体よりも大きくて寝床が使用できない子達用だったのだけれど、ウルミラから自分の分も欲しいとせがまれたのだ。

 ならば、という事で全員分の寝床を作る事となった。布の量は潤沢で、全員分作り終わった後でもまだ、私の服を二、三着作れるほどの量が残っている。

 フレミーは今後も布を作ってくれるそうなので、必要に応じて有り難く使わせてもらおう。


 この五日間、何も寝床を作っていただけ、というわけではない。

 というか、寝床自体はたとえ全員分とは言え、一番大変な布づくりが終わっているのだ。寝床を創り終えるのは一日も掛からなかった。布を縫い合わせる糸はフレミーが用意してくれたし、糸を通すための針は"光の剣"の応用で作り出すことが出来た。

 私の身体から離れても、"光の剣"にエネルギーを込めることが出来るのだ。"光の剣"を私から離しても維持できるように意識してみた所、問題無く成功した。

 おかげで寝具の完成までの時間が大幅に短縮できた。少し寂しかったが、その日は全員自分ので寝床で就寝する事になった。


 話を戻すが、初めて意識を覚醒させてから二日目以降、何かと日を跨いで作業をしていたり、朝目を覚ましてから直ぐに勧誘に向かったりとで、全くやってなかった力のコントロールの訓練を、この五日間朝目覚めた時に行っていた。

 レイブラン、ヤタール、ウルミラからは遊んでいるように見られていたのが、少し釈然としなかった。これは君達と触れ合うためには必要なことなんだよ?


 その他にも、ラビックとホーディに稽古をつけてもいる。言い始めたのはラビックからだったが、それを見ていたホーディが自分にも稽古をつけてほしいと言い出したのだ。

 まとめて相手取っても構わなかったのだが、如何せん彼らの対格差は大きい。

 互いに手合わせする中ではあったが、連携という意味では経験が無い、と言って良いだろう。そのため一体ずつ稽古をつけている。

 私が稽古をつけていない時は、二体で手合わせをしているようだ。

 そう。このラビックとホーディ、やはりかなり親しい関係だったようだ。ラビックが挑んでいたのも、殺し合いではなく、強さの競い合いといった所だろう。

 彼らがお互いの動きを知り、連携が取れるようになったのなら、二体を同時に相手取っても良いだろう。尤も、それが出来るようになるまでには、まだ時間が掛かりそうではあるが。


 他の子達はというと、レイブランとヤタールは気ままに森の空を飛びまわっているようだ。

 あの娘達が言うには日課だそうだ。特に強いエネルギーの所有者だったり、珍しい相手には積極的に襲い掛かっているらしい。

 珍しい相手について詳しく聞いてみると、そのほとんどが森の外から中に入ってくる二本足で行動する生き物、とのことだったのでおそらく人間か、それに近い種族が森の恵みを享受しに来たのだろう。


 この森は広い。多少外から来た者達が森から素材を調達したところでこれといって問題は無いだろう。問題があるのならその都度対処しよう。聞いた限りではあまり関心が沸いてこない。

 そういえば魚を凍らせる際に、ヤタールが意志の力だけで事象を発生させすぎだ、と言っていたな。

 他に事象を発生させる方法があるのだろうか。あの娘達の使っている空気の刃は違うのだろうか。時間があったら聞いてみよう。


 ウルミラはウルミラで気ままに広場を走り回っている。

 彼女が言うには、平らな場所を思いっ切り走り回れる事が楽しくて仕方ない、との事だ。。気持ちは分かるけれども、飽きてこないのだろうか。

 そういえばウルミラは私が訓練に用いている果実のオブジェクトを見て、遊んでいると思っていたな。今度、ウルミラに木か石で球体でも作って渡してみよう。走る以外の遊び道具になってくれるといいな。


 道具と言えば、食事関係の道具をいくつか作っていた。木製、石器両方、気分によって変えている。

 ゴドファンスが塩を持ってきてくれたおかげで、私達の食生活がかなり充実したものになった気がする。といっても、相変わらず食料は果実と魚だけなのだが。

 味覚に私と皆で大きく差があったのは意外だった。

 私にとってはちょうどいい塩加減の物を他の子達に食べてもらったら、漏れなく皆から味が濃すぎると言われてしまった。みんなに合わせて私も薄味の食事を取るべきだろうか。塩も限りがあるし、その方が良いかもしれない。


 さて、その塩だが今の所、ゴドファンスに任せっきりになってしまっている。私の手も空いたところだし、彼に塩の場所を案内してもらうのも良いかもしれない。


 ところで、私がエネルギーを操作できるようになってからというもの、たまに背中がむず痒くなって来たりしたのだが、最近はそれが特に如実に表れてきている。

 推定、私は自分の事をドラゴンだと考えているので、近いうちに翼でも生えてくるんじゃないかと予想している。恒例のなんとなく、というやつだ。



 そんなこんなで五日が経過していた。私の予定としては、レイブラン達に意思の力以外の事象の発生方法を尋ねるか、ゴドファンスと塩の回収に向かうかだが、どちらにしようか。

 塩、だな。他の皆がやりたい事をやっているというのに、ゴドファンスだけは私達のために岩塩を取りに行ってくれているのだ。

 私の手が空いた以上、彼を手伝って彼の自由時間を設けてやるべきだな。


 レイブラン達に起こされて家を出ると、ちょうど、ゴドファンスが今日も岩塩を採取しに向かおうとしていた所だった。


 「おはよう。ゴドファンス。今日も岩塩の採取かい?」

 〈お早う御座います、おひいさま。その予定に御座います。〉

 「良ければ私を岩塩の取れる場所に案内してもらえるかな?いつまでも君に採取を任せきりにするのが申し訳なくてね。」

 〈お心遣い、有難う御座います。ですが、これは儂が自ら望んで行っている事、おひいさまはどうぞ、お気になさらず御身がしたい事をなさって下され。〉


 なんだか、やんわりと断られてしまった。彼は、岩塩の採取を自分が望んでやっているといったが、私が加わると不都合があるのだろうか。

 ・・・もしかして、私が採取を手伝うことでゴドファンスの仕事を奪う、という形になってしまうのか。だとしたら、彼のみで採取に行ってもらうか。

 いや、ここは我儘にならせてもらおう。


 「ゴドファンス。君が岩塩の採取に責任と誇りを持ってくれていることを嬉しく思う。だが、今回は私の我儘を言わせてもらうよ。私も岩塩のある場所を見たいんだ。今、私がしたい事が岩塩のある場所に行く事なんだ。そういうわけだから、案内してほしい。」

 〈そう仰るのであれば、断る事など出来ますまい。然らばご案内いたしましょう。どうぞ、こちらへ。〉


 ゴドファンスが私に背を向けて歩き出す。その背中を見て、私の欲求が出てきてしまった。


 「ゴドファンス。案内するついでにお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかい?」

 〈もちろんに御座います。して、おひいさまの望みとは?〉

 「君の背中に乗せてもらいたいんだ。」

 〈勿論、ご自由にお乗りくださいませ。〉


 許可をもらったので、ゴドファンスの背中に横座りさせてもらう。

 彼の体毛は少しゴワついているものの、とてもフサフサだ。撫でてみるとやや硬い毛並みがゴドファンスのこれまでの生きた時間を感じさせる。

 彼は他の子達と比べて年老いてはいるが、それでもなお、みんなに引けを取らない力強さが伝わってくる。


 「ゴドファンスは、今日まで多くの戦いを生き延びてきたんだね。君の毛並みからは、頼もしさを感じるよ。」

 〈儂など、ただ運のよかった凡才に御座います。他の者よりも長く生きているだけにすぎませぬ。〉

 「そんな凡才が長く生きてきたからこそ、頼もしさがあるという事さ。」

 「お褒め頂き、恐悦至極に御座います。」


 ホーディに乗せてもらった時は、彼は終始二足歩行で移動していたようだが、四足歩行の乗り心地も良いものだ。岩塩の採取場所まで、退屈することは無いだろう。

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