第5話 サダミツ、「改革隊」の裏事情を探る
懲戒房からサダミツが解放されて二日経つ。今や「改革隊」の一員となったサダミツはレーザー銃を腰に付け、改革隊の一員であることを示す赤い腕章を腕に付けていた。
「エラミス副長、食料と水の在庫チェック終わりました。二週間分は確保できています」
「分かりました。後は人質の分を振り分けといてください」
敬礼をするサダミツにローラ・エラミスは微笑んだ。火星基地では主にデータの解析を行っていたサダミツにとっては慣れない仕事だが、「改革隊」でナンバー2の地位にあるエラミスから助手として直々の指名を受けたのだ。サダミツはエラミスの仕事をこなしながら、「改革隊」内部の観察をすることにした。
(逆らって目を付けられてはまずい。まずは「改革隊」の内部情報を調べて人質解放の足がかりを掴もう。うまくやればトキヒコを通して人質側と連携がとれるしな)
現在、人質はハジャが乗って戻ってきたシャトルに閉じ込められている。トキヒコはケルブに監視されながらドックに詰め、人質に最低限の水や食料、医療品を配っていた。あまり会話は出来ないが、配給の物資量からサダミツは人質は16人いると把握していた。どうやら自分たちのようにパトロール中に「改革隊」蜂起の報を受け基地に戻らなかった哨戒艇もいるようで、人質の正確なメンバーは把握できていない。
「良かったら私たちも食事にしましょう」
エラミスがサダミツに携帯食料を差し出した。サダミツは食料を受け取ると総務室の事務椅子に腰掛ける。
「お疲れ様。今日は特別にワインを用意したのよ。キョウゴク隊員もいかが」
エラミスはどこに隠し持っていたのか、携帯用のパックに入った赤ワインを取り出した。グラスにワインを注ぐとサダミツに差し出す。
「いえ、何が起こるか分かりませんし、私は遠慮します」
サダミツは自分のミネラルウォーターを取り出した。
「相変わらず堅いのね。私があなたたちを同志にするようハジャに口添えしたのよ。感謝の意を見せてくれてもいいんじゃない」
エラミスはワインを一口飲むと、上目遣いにサダミツを見つめる。
(参ったな、まだ俺のこと諦めてないのか?)
サダミツは額に指を当てるのを必死にこらえながらエラミスに釈明した。
「いくら人質がいるとは言え、本部や月基地の動きが分からない以上、いつ攻撃されるか分かりませんからね。食料や水の補給も必要ですし」
「大丈夫よ。今回の蜂起には父の会社が援助しているの。物資の補給船が明後日来る予定よ」
「火星の『エラミスグループ』ですか。クーデターの援助なんかして大丈夫なんですか」
『エラミスグループ』は火星の大企業で、軍需産業や宇宙船開発を主に行っている。エラミスは更にワインを飲むと話し続けた。
「『地球の言いなりになっていてはいつまで経っても火星は発展できない』というのが父の持論だったわ。私は父とハジャ副司令の間を取り持って『改革隊』を密かに支援していたんだけど、本部に感づかれたみたいでハジャに出頭命令が下ったの。その命令を受け取った私がハジャに連絡してシャトルに同士を潜ませ、前倒しで蜂起したのよ」
エラミスは酔いが回ってきたようだ。顔が赤らんでいる。サダミツは前から聞きたかった疑問を口にした。
「教えてください、カサトキン隊員も『改革隊』の同志だったのですか」
「火星基地が占拠された時、真っ先に降伏して同志になったの。宇宙船の事故で家族を失っているから、艦船の更新をしない本部に不満を持っていたみたいよ」
サダミツはいつも『タイタン』の機器をメンテナンスしたり、不良部品を交換したりしているケルブを思い出していた。整備が終わった際、サダミツにウインクをするモスグリーンの瞳と、『改革隊』の一員として銃を構える瞳の色は全く違って見えた。
(ケルブ、トキヒコに辛く当たってなければいいんだが)
サダミツの思いはエラミスの甘い声によって遮られた。
「ねえ、このまま私の部下になってくれたら、パトロールなんて退屈な任務じゃなく、研究室で最新の化学兵器研究をさせてあげるわ。彼女は地球にいるんだし、ちょっとくらいほっといてもいいでしょ」
「彼女」という単語を聞き、サダミツはヨシコ・ノウノ(能野淑子)からのメールを思い出した。スペースネットワーク所属の記者として働いているヨシコは火星の『エラミスグループ』を取材したいと書いていたのだ。
(もしかしたら、あいつも何か感づいてたのかもしれないな)
サダミツはヨシコに『改革隊』について伝えようと思ったが、エラミスが外部へのメールを見ていると分かった以上、うかつな動きは出来ない。
(何にせよ、明後日の補給船搬入が最大のチャンスだ。トキヒコに連絡して、人質を脱出させられないか考えよう。そのためにもここは我慢だ)
サダミツはエラミスを見つめると肩に手を置いた。
「分かりました。今後ともよろしくお願いするよ、ローラ」
「こちらこそよろしくね、サダミツ」
上機嫌のエラミスは、サダミツの肩にもたれかかった。
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