第52話 怨霊3
僕が動揺で少し止まっている瞬間、異形の生物の姿が消えた。
「貴様、後ろだ。」
そのバレットさんの声が聞こえるころには僕は拳の一撃を食らって、吹き飛んだ。
『うああああ』
何か叫んだ声が聞こえた気がした。
テレポートしている系の能力か。ふう、落ち着け僕。一度体制を立て直して、次の攻撃に備えた。僕が飛ばされている間にバレットさんが異形の生物に一太刀入れようとしたが、異形の生物が再び別の場所に移って避けられていた。
次の瞬間、異形の生物は僕の後ろに現れた。
流石に予想できた。僕は振り返り防御の姿勢を取った。
「…………」
すると異形の生物は別の場所に移った。
「何をしている、貴様。今、攻撃のスキがあっただろう。」
バレットさんの言う通りだった。さっき僕には攻撃する隙があった。でも出来なかった。
「…………」
僕は、何も言い返すことが出来なかった。怖いのだ、知り合いだったら、怖いのだ。再び攻撃に備えていると異形の生物の動きは止まり、声が聞こえた。この異形の生物は、たまたま似ているだけど、僕のクラスメイトも委員長のやつも関係ない、関係ない、関係ない、そう思いたかった。
「テラサカ………」
その痛みを伴った叫びの声で誰かは特定出来なかったが、でも僕のことを知っているのだから、僕のクラスメイトである可能性が高かった。
「喋った?寺坂、貴様、この生物と知り合いなのか?」
そうバレットさんが叫んだ。
「知り合い、知り合いだったか人間の死体。なんで、ここに、」
それに意識があるのか?どうして?確か前に出会った月野の方は意志なんて残ってなかったのに………
「貴様、何を言っている。つまりこいつは人間でどうにかすれば助かるってことか?それなら、捕獲をするか?」
そうバレットさんが呟いたが、それは多分。
「それは多分無理です。僕の知っている人に…………僕の敵に死体を改造して操るスキルを持っている人がいて、たぶん。」
でも、もしかしたら…………
「テラサカ…………トオル。」
その苦痛に歪んだ声が耳に頭の中に響いた。手が震えた。身勝手なものである、ダンジョンで魔物を容赦なく殺していた僕が。知り合いで人間だったら殺すことを躊躇うなんて、本当に身勝手である。それに、もしかしたら助けられるかも知れないそんな小さな希望にすがりたい気持ちもある。
「…………君は死んでいるのか?」
「シンダ。シンダハズノ、オレガ、ナゼシャベレテルカワカラナイ。」
「…………何があったんですか?」
そう僕が尋ねるとその異形の形になってしまったクラスメイトは
「イインチョウガ、オカシクナッタ。オマエガ、ユクエフメイニ、ナッタアト、イインチョウガ、『テラサカ トオルヲ、ツクル』イッテ、タクサンノ、クラスメイト、コロシタ。スベテ、オマエノセイダ。」
そうカタコトな言葉で叫んだ。僕のせいか…………いや、全く僕に責任がないとは言えないが、悪いのは僕ではなく委員長だろ。でも…………
「もう助からないなら、それなら私が殺してやろう。貴様は下がっていろ。貴様も自分の手でおかしくなってしまった。知り合いの死体を斬るのは心苦しいだろう。」
それは、優しさである、僕に対しても、目の前のクラスメイトに対しても、でも………
「僕の知り合いの問題です。そこから始めったので、しっかりと責任を持って、僕も戦います。覚悟は決まりました。決意もしました。だから、大丈夫です。一人でどうにか出来るほど甘くないので、それに時間をかけすぎるわけにも、いかないので。」
僕の目的として委員長を止めることが付け加わった。
「分かった、貴様、油断するなよ。」
バレットさんは良い人である。口調とかはあれだけど。
『ユルサナイ………ユルサナイ…………タスケテ』
そんなクラスメイトの叫びと共に、再び動き出したクラスメイトだったものは、すぐに姿を消した。死体人形にされた人物は身体能力やスキルが多分強くなるとかであると思うが、もちろん完全に分かるわけではないが、知能は下がる。だから、次に来るのは、僕かバレットさんの死角。
それを対処するには、死角に咄嗟に反応するか。もしくは、二人で戦う。
つまり、バレットさんに背中をあずければ良いのだ。
それをバレットさんも分かっているのか、何も言うことなく背中合わせになった。
『ギャアアアァァ』
完全に正気を失い、怪物になってしまったクラスメイトの叫びが聞こえたと同時に僕の目の前に現れた。手が震えた。その震えを抑えながら、剣を振るった。
振るった剣は直撃したが、軽い傷しか付けることが出来なかった。
「貴様、本気で剣を降ったか?いやむしろ今は本気で剣を振っていないで欲しい。」
そうバレットさんが叫んだ。手が多少震えたがそれなりに力を込めて剣を振るった、振るったつもりだ。これは、まずい、負けることはないが、勝てない気がする。時間も無限にあるわけではない。背中合わせで、待って戦うのでは時間がいくらあっても足りない。
「バレットさん…………」
視界に敵が映った。最悪である。僕はクロモヤの本体を見たことがなかったが、黒色の何かに包まれた騎士のような人物がクロモヤの本体であることが分かった。
「貴様、私がクロモヤの本体を足止めする。その間に、クラスメイトとかいうのをどうにかしろ。覚悟を決めたのなら、その貴様の覚悟信じる。」
バレットさんはそういうとクロモヤの本体に剣を構えて向かっていった。
僕も目の前のクラスメイトに啖呵をきることにした。
言葉の通じなくなってしまった、死んだクラスメイトに啖呵を切る意味などないかもしれないけど。
「僕のせいのみで君が、死んだとは思わないけど、ちゃんと責任は取らせてもらう。」
そう言って両手で剣を握りしめた。
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