第3話 異世界王宮生活の始まり2

訓練はグループごとに教えてくれる人がつくらしく。僕らを教えてくれるのは30代後半ぐらいの筋肉質の普通の、わりとどこか探せばいそうなおじさんだった。訓練の方法はそれぞれのグループに委ねられているらしくグループのクラスメイトとはほとんどしゃべることなく、場所を移した。



「君たちを教える騎士団 第二大隊 隊長アルベルトだよろしく頼む。」

そうアルベルトさんは真面目な顔で言うと少し表情を崩して


「これは、失礼した。いつもの部隊の感じが出てしまった。先にいくつか君たち4人に言っておくべきことがある。私は君たちのような何も関係のない子供が命をかけて魔王軍と戦うことはしなくてもよいと考えている。」


そんな意外な言葉が出た。僕の勝手な予想では、昨日は第一皇女が自分たちの意思で選んでよいって言っていたけど、あれは建前で結局反強制的に戦いに参加させられるものだと思っていた。アルベルトさんは更に話を続けた。


「私は、この国を子供の未来を夢を自由を守るために騎士になった、だから魔王軍と対峙するのは騎士団の役目で、君たちの役目じゃない。君たちが命を無理に懸けることではない。だから、もし魔王軍と戦うとしても、そうでないとしても、何があっても生きることを考えて動いてほしい。今から、そのための最低限の剣術と体力づくりをしてもらう。よろしく頼むよ。」

その言葉を聞いて僕は少し評価を改めた。僕らを指導してくれる人は、優しく正義感がある筋肉質のおじさんだ。


だから自然と

「「「「よろしくお願いします。」」」」

そんな風に心からの言葉が出た。


「良い返事だな。ではとりあえず君たちの体力を確認するために走ってもらおうか。」

アルベルトさんはそうにっこり笑顔で言った。なるほど、つまり今からマラソンとかの練習の体育が始まるということか。地獄だな。


「なんか体育の授業みたいだね。」

「さて、俺の本気を見せる時が来たな。」

そんな風になぜか相川さんと優斗はテンションが上がっていた。おいおいマジかよ。


「「脳筋」」

そんな様子を見て僕と辻堂さんの言葉が重なった。どうやら気が合うらしい。


そんな会話ののちにマラソンが始まった。まあ正確に言えばシャトルラン。無限シャトルランが始まった。


「はぁは、はぁ、ごほん。ふう、死にそう。」

シャトルランから二番目に脱落した僕は未だ走り続ける相川さんと優斗をみながらそう言った。その近くでは僕よりも死にそうな辻堂さんが倒れていた。

「しんどいですね。」

そう振り絞って辻堂さんは言った後でもう何も言葉を発することはなくなった。


やばいなきつい、普通にきつい。なにこれ思ってた数倍、数十倍きつい。大体こういうのは、なんかわちゃわちゃしてたら強くなりましたってノリじゃないの?いや、まあ違うのはわかってるけど、でもきつい。

それから30分以上二人は走れていた。体力おかしいだろ。


やっと二人が力尽きて倒れたところで

「さっきまで走っていた二人は一時休憩してもらうことにして、とりあえず比較的元気なった君たちにどのような訓練をするか話そうか。」

そう言って話始めた。


ちなみに今日はもう訓練はしないらしい。いきなり無理にきつい運動をさせても多分体がついてこないだろうかららしい。まあ、これ以上動ける気なんてしなかったからすごくありがたかった。

これからの訓練は、初めに体力づくりと素振りを行い、十分にそれが出来るようになった人から竹刀を用いた実戦形式の稽古をするらしい。スキルは、人によって変わるから各自で訓練することを勧める。そんなようなことを言って、アルベルトさんは明日の集合時間を言い残して去っていった。


しばらくして倒れたまま相川さんが

「はぁあ、はぁあ、今から、王宮を麗ちゃんと二人で回ろうって思っているんだけど優斗くんと寺坂くんはどうする。」


それに、同じくらい走っていたのに既に少し元気を取り戻した優斗が

「今回は遠慮しておくよな徹」

そんな風に答えており、優斗の体力の多さに軽くドン引きした。


そんなことで誘いを断った僕と優斗は、彼の部屋で少し情報を共有することにした。そのために彼の部屋に向かうはずだった。


「なんで自分の部屋に戻るのに迷子になってるの?優斗。」

今日二回目の迷子だった。まるで誰かの陰謀が働いているみたいである。


「おかしいな、まあいいだろ、どうせ時間はあるんだから。時間は無限にあるから、まあ焦るなって徹」

優斗は迷子になっているのに無駄に落ち着いていた。


「でも人生は有限だ。」


「まあ、そうだけど、徹……」

そう優斗が言葉を途中でやめた。まあその理由は前からやってきたクラスメイト数人があまり会いたくない人たちだったからである。僕も優斗もクラスメイトとの関係は良好な方だったが、でも人間だから、苦手な人や嫌いな人は数人はいた。そして厄介なことにその人たちは、めちゃくちゃこちらに絡んでくるのだ。


「やあやあ、優斗くんとその金魚フンではないか。こんなところで何をしている。」

そう少しイケメンなうざい男が数人を引き連れてこちらにやってきてそう話しかけてきた。毎回、毎回マジでなんなのだろうこの人は、本当になんなんだろう、この人は。


「えっと、成瀬さん。とりあえず、徹に謝ってくれませんか?」

優斗はそういった。僕が女の子だったら惚れていたかもしれない。


「はぁあ、なんで俺が謝るのだ?意味が分からない。ちょうどよかった、神崎優斗、俺はこの世界を救って英雄になることにした。俺がこのクラスで一番すごいんだよ。だから俺が貰ったスキルは勇者だ。とりあえず、俺らが通るからそこをどけ道を開けろ。」

会話が成立している気がしなかった。てか普通に互いに避ければ普通に通れるだろこの道。優斗と僕はゆっくり目を合わせて意思疎通をした。こういう時は不思議とできるのだ意思疎通が。それで無視することに決めた。


「何か言えよ。お前ら。」

そんな声を無視してとりあえず迷子だがまっすぐ進むことにした。何を言っても無駄な人に何かをいうことが無駄だったのだ。



まあそんな不幸を乗り越えたおかげか適当に歩いてていたのに優斗の部屋についた。



「結果オーライだな優斗。」


「結果オーライだよ本当に。それにあいつ自慢げに勇者と言ってたけど、俺も勇者のスキル持ってるんだよ。」


「マジで……僕のスキルは絶対に聞かないで」


「…………じゃあ、聞かない。」

そう優斗が軽く笑いながらドアを開けると僕の部屋とほとんど同じ光景が広がっていた。


「優斗様、お帰りなさいませ。」

違ったのは、まじめでしっかりしていそうなメイドがいたことぐらいである。


「そんな言わなくてもいいですよ。」

優斗はそんな風に言いながら僕を席に着くように促すと、メイドさんに申し訳なさそうに席を外すようにお願いしていた。


それで、僕の分の紅茶を持ってきて

「熱いけど、まあしかたないよな。それで分かったことって」

そう言ってゆっくり座った。


「僕さ、昨日二冊の本を読んだんだよ。まあ大体2冊か。それがこの世界の神話だったのだけど。その2冊善悪が真逆だったんだよ。」


僕が読んだのは「創世神話」と「予言の書」の二冊。それらに共通している点は出てくる人物も行われた出来事もほぼ同じだ。このころから魔族と人間は揉めていたらしい。最後の一文も同じである「遠い未来この戦いを正しく決着をつける人物が異世界からやって来る」


でも本における善悪の書かれ方は違った。

 創世神話では、暴走してしまった世界の神が魔族に力を与えて世界を世界樹の精霊を滅ぼそうとして、それらを守るために天使が裏切り戦う話。結局決着はつかなかったが、世界は特殊な結界で守られてしばらくの平穏を得たという話。


予言の書では、世界樹の精霊にそそのかされて天使が裏切り、魔族に力を与えて世界を支配して、神になろうとしたところを世界の神が止める物語。結局決着はつかなかったが、世界は特殊な結界で守られてしばらくの平穏を得たという話。


多分どちらかが嘘だ。これが正しい意味で正しい勢力によって転移させられていたらいいが……逆だったらまずい。


「もしこれが事実で、『遠い未来この戦いを正しく決着をつける人物が異世界からやって来る』が俺らのことを指していたらってことか。それなら俺も一つ分かることがあるぞ。というか俺もその本は知っている。内容は初めて知ったけど。俺の知っている情報はというか聞いた情報はこの世界の宗教についてなんだけど……」

そういって優斗は話し始めた。


どうやらこの世界には、ルルシア教、アン教、エル教の3つの宗教があるらしく。

それぞれ経典を創生神話、予言書、契約書としといて、この国ではエル教を多くの人が信仰しているらしい。つまりどちらでもないのだ。


「なるほど、余計に意味が分からなくなったな。優斗、まあつまりとりあえず迂闊にこの国を信用できる状況でないことは確かだな。」


「ああ、まあ、契約書っていうのを読んでみないとな。まあ、それを手に入れるためには,入信しないといけないらしいし、他人にその内容を教えることもできないらしいから。結構どうしようもないがな。」

優斗がそう言って笑ったが、マジですごくこの国が胡散臭く思えて仕方なかった。全員が悪ではなくとも何かもしかしたら黒幕的な人がいるかもしれない。これは流石に本の読みすぎか?でもどうにかしてこの国を脱出する手立ても考えておいたほうがよいかもしれない。


「とりあえず、もっといろいろ調べてから、逃げる準備でもしないといけないかな?」


「そうだな、徹。その時までにどうやってクラス全員で逃げるか考えないだな。」

そう優斗が言ったところを見て、自分の周りの人と逃げると想定していた僕は、ああ絶対にこいつにはかなわないなそう思うのであった。


「じゃあ、僕は自分の部屋に戻るは」

そう言って優斗の部屋を出た。なんとなく人としての器の違いを感じてしまったのだ。


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