辿り着けない家

連喜

第1話 誤配

 俺は一戸建てに一人で住んでいる。ちょっと特殊かもしれないが、俺の家は、隣の家と同じ住所らしい。隣の人と会ったことがないのでよくわからないが、ちょっと前に、封筒に俺の家の住所が書いてあるのに、別の女性宛ての郵便がまとめて届いたことがある。俺はそれに誤配と書いてポストに投函した。その後は、その女性の名前で郵便が来ることはなくなったが、隣の人には会ったことがない。女の人が住んでいるらしいが、誰なのかわからない。一人暮らしだから用心してるのか、引っ越しの挨拶にも来なかった。隣の家は、俺の家建った後にできたのだけど、もう何年も経っているのに、一度も顔を会わせたことがない。玄関の鍵を開ける所や、後ろ姿しか見たことがない。服や髪の感じからして、多分、60くらいの年齢のようだ。


 俺は先日、夕飯用にデリバリーを頼んだ。するといくら待っても届かない。クレジット払いしたのに、おかしいと思って電話したら、家がどこかわからなくて、聞こうと思って電話したが、俺が出なかったとぬかしやがった。住所を聞かれて、合ってると答えたが、そこは女の人が住んでて、宅配は頼んでいないと言われたということだった。


 多分、隣の家に行ったんだと言ったら、両隣も尋ねたけど、違うと言われたそうだ。

「どうしても、たどり着けないので、お支払いはキャンセル処理させていただきます。申し訳ございませんでした」

 俺は腹が立ったが、今更冷めた料理を持って来てもらっても食う気がしないから、それでいいと答えた。


 ふと気味が悪くなる。俺の住所には家が1軒しかなくて、世間の人は女性の一人暮らしだと思っている。俺は同じ住所に家が2軒あると言っている。大勢対一人での主張の食い違い。どちらが正しいのだろう。俺は自身の認知能力を信じるしかないのか。俺の家は確かにあるし、そこに住んでいる。


 でも、誰もたどり着けない。そんなことってあるだろうか。俺は毎朝会社に行き、外で給料を稼いでくる。帰りにスーパーに行き、食材を買って、家で料理を作って一人で食べている。何も疑う理由はない。俺の頭がおかしいわけじゃない。


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