第十二話 『五年前』

 家同士が遠縁らしい、だとか。

 宗家と分家の間柄だとか。

 詳しい話は知らないが、晴は物心ついた頃から鳴と共にいた。


 彼らの出会いは今から二十二年前。当時晴は六歳、鳴は七歳だった。同世代の親戚が少なかったこともあってか、晴と鳴はすぐに打ち解け合った。

 彼らは宗家や分家という家同士のつながりなど関係なく、幼馴染として共に育ち互いに護衛官としての力を高め合った。


 晴と鳴が高校生に上がった頃、彼らに護衛官としての初任務が入った。

 何もかもが初めての経験であり、いくらシミュレーションをしてきたとしても、その日は失敗続きであった。二人は自分の不甲斐なさに気を落としたが、その日『御神送り』を行った梅雨を告げる竜神が「とても快適な旅であった」と二人に深く礼を言った。晴と鳴は天へと滝のぼっていく竜神を見送ると、この『失敗』は『失礼』ではなかったのだと盛大に安堵したのだった。


 それからも二人は学校のない休日や、夏休みなどの長期休暇を『御神送り』の時間に費やした。彼岸屋を利用した神様たちの力になりたいと、この時から彼らには護衛官としての自覚が芽生え始めていた。


 月日が経ち、二人は大学生となった。

 相も変わらず彼らはずっと一緒に行動をしていた。そんなにも四六時中一緒にいて辛くないのかと友人に訊かれたことがあったが、晴も鳴も、共にいることがもはや当たり前となっていたので「特には?」と同じように首を傾げたのは、大学内では有名な話だった。

 大学生活も平穏に終わり、彼らは現役で卒業した。晴と鳴はここで初めて別々の進路へ歩むこととなった。鳴は家業である彼岸屋を継ぎ、晴はこれからも鳴の側で護衛官として彼を支えていく為に必要なスキルを身に付けるため、祖父の代からのある警察官となった。

 晴は行実家の次男であったため、家督を継ぎ鳴の従者となるのは長子である兄だということは掟上、重々承知していた。

 だが晴は彼のもとへ戻ることを諦めてはいなかった。

 彼岸屋での仕事は晴にとってこの頃からすでに副業と化していたが、いつか鳴のもとに戻った時に恥ずかしくないよう、今はただ警察官として勤めることを決めていたのだ。


 二人が社会に就職してから二年が経った、十二月一日のことである。

 この日は鳴の二十四歳の誕生日だった。


 晴はこの日運良く担当していた殺人事件が一つ区切りがついたので、定時で帰ることができた。ふとカレンダーを確認した際、今日が鳴の誕生日であることを思い出した。久し振りに彼岸屋へ顔を出そうか。そんなことを考えながら帰路につく。

 警察官になってから二年。鳴は晴に気を遣ってか、あまり『御神送り』に呼ぶことがなくなった。個人的に連絡を取り合ってはいたが、実際に会うのは親戚同士の集まりがあった正月以来だった。


 約一年ぶりに会うことに妙に緊張が走る。彼岸屋へ向かう道すがら見つけた洋菓子屋に何となく立ち寄り、誕生日の定番であるショートケーキを一つ購入した。店を出て腕時計を確認すれば、職場を出発する際に伝えていた時刻が差し迫っていたので、晴は足早に彼岸屋へと向かった。


 ——幸せな、誕生日になるはずだった。

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