壱師の花紅

KaoLi

第一章【師走の朔】

第一話 宵明けの狼煙

 空を見上げれば、白銀の華が煌々と舞っている。


 宵闇に溺れ切った世界に降り始めた雪は、まるで暗闇に差し込んだ一筋の光のように道をしるす。夜明け前、宵闇と同色のスリーピーススーツを身に纏った青年、行実ゆきざねはるは、降り始めた雪を虚しく眺めていた。


 オールバックで固めた黒髪に、全身が黒一色で揃えられたスリーピーススーツ。そして、昼間に彼の姿を目撃した者は大層驚くであろう、現代では似つかわしくない真剣の日本刀が彼の腰元に帯刀されている。

 この闇の中であれば、この姿は完全にまぎれて人々の目には触れることがない。その寝静まった時間を狙ってか、普段より晴は日中に行動することを控えていた。

 視線を前へ戻せばそこはとある神社の境内であった。時刻は深夜三時を回ろうとしていた。彼が物思いに更けた時間はこの神社に着いてから五分もなかったが、しかし晴にとっては一時間にも感じられる長い体感時間が経過していた。


 帰ろう。晴は境内を抜け、立派な鳥居をくぐり、振り向いて神殿へと向けて一礼する。こうして、今日の彼の仕事は全てのだった。

 一つ、強い風が晴の目の前を吹き抜ける。風の吹いた方角を向けば、日が昇り始めており、朝日が世界に差し込み始めている。

 その光を、少し苦しげな表情で見つめながら、胸ポケットに仕舞っていた煙草を一本取り出してライターで火を点ける。

 ひと吸いして吐いた煙は、朝焼けの空へと溶けていった。

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