第24話 レシピ作り
ミーヤはがっくりとうなだれていた。もうさっきから何度も同じことの繰り返しでうんざりだ。
「さあもう一度だ。うまく行ったら今後アンタたちには宿も飲み食いもタダにするからさ。
頼むよ、頑張っておくれってば」
「はあ、でも少し休ませてください。
そのレシピ化というのはどれくらい難しいものなんですか?」
「連続で作って半分くらい成功すれば出来るようになるって話さ。
うちには目玉商品がないからさ、絶対に覚えたいんだよ。
頼むから協力してくれよお」
「でもそれって、私ここに必要ですか?
分量はもうわかってるしいなくても作れますよね?」
「きちんと出来ているかどうかがわからないじゃないか。
アンタが作ったもんと同じにならないとレシピ化できないんだからさ」
まったく意味が分からないが、どうやら最初に作り出した人の物を再現する必要があるらしい。でもミーヤが作った時は分量が適当だったから、はっきり言って同じマヨネーズができるかどうかは運の要素が強すぎる。
「わかりました、では作っていてください。
私は別のものを作りますからね
ああそうだ、玉子に塩とレモンを入れてからオリーブオイルを足していますよね?
その時に少しずつ入れるようにしてください。
もちろん混ぜる手は止めないで下さいよ?」
「分かったよ、まったく難しいものだねえ。
なかなかうまくできなくて参っちまうよ」
おばちゃんが調理場から動かないので、ホールにはおじさんが出ることになり、作っては運んでを繰り返している。きっと参っているのはおじさんのほうだろう。
とりあえず調理しているところをずっと見ていることからは解放された。しかしさっきから卵を消費し続けているが、それがミーヤの買ってきたものだと言うことをわかってくれているのだろうか。
やれやれと首を振りながら、ミーヤは残された卵白の使い道について考える。そこそこ高価だったので景気よく使いたくはないが、砂糖の手持ちがあるのでメレンゲを作りお菓子かケーキを焼こうか。
でもケーキは生クリームもないとおいしくない。カステラならいけるかもしれないが面白みがない。と言うことで作るのが簡単なアレにしよう! 日持ちもするから旅にも持って行ける!
作るものを決めたミーヤは、砂糖を取り出して卵白に加えた。そしてまたハンドミキサーでひたすら混ぜる。結構早くもったりしてきて、角が立つまではもう少しだろう。直火オーブンの温度がわからないが、焼けば何とかなると思うしかない。
まったく、おばちゃんもハンドミキサーを使えばいいのにレシピ化なるものは、使った道具は次も必要になってしまうので手持ちの器具で作ると言ってきかない。木のスプーンで混ぜるのはかなり大変だろう。
とにかく気のすむまでやらせておくしかなく、ミーヤはおばちゃんを気にせずメレンゲを作った。それをオーブン皿に乗せて…… いやオーブン皿なんてなかった…… 仕方ないのでフライパンへバターを…… バターも持ってないので仕方なくオリーブオイルを塗る。
オーブンシートがあればいいけど、紙が無いのだからオーブンシートがあるはずもない。絞り袋ももちろんないのでフライパンへスプーンで垂らしていく。大きさは飴玉くらいでいいかな、と大体等間隔になるように敷き詰めたら焼くだけだ。
忙しそうにしているおじさんへ頼むのは本当に申し訳ないが、オーブンで焼いてもらうことにする。以前作った時は確か低温で一時間くらいかけた気がするが、直火なので短くていいだろうか。まあどうせおばちゃんを待っていないといけないので、焼き加減を見ながら待ってみることにした。
その間もおばちゃんは失敗し続けている。やはりスプーンで混ぜるのは無理がある。他に何か使えるものがないか見回してみると、バーベキュー用の串に似た物が目に入った。
「おばちゃん? スプーンよりもこっちで混ぜてみて?
木のボウルじゃなく鉄の鍋で試してみてよ」
そういって金属の串を数本束ねて、ねじれている持ち手を下にして広げれば、泡だて器のように使えそうである。おばちゃんは不服そうな顔をしているが、ミーヤが強く言ったのでしぶしぶと試してくれた。
卵黄と塩、レモン汁を良く混ぜて、そこへオリーブオイルを注いていく。するとクリーム状になり段々とねっとりとしてきた。音はかなりうるさいけど仕方ない。
それにしても以前作った時もさっきも思ったが、マヨネーズの成分の半分以上が油なのが恐ろしい。せめてもの抵抗でオリーブオイルを使って作ったのを思い出して再現してみたが、それでも油は油だ。やはり体に悪いもののほどおいしいと言うのは真理なのかもしれない。
そんなことを考えていると、今回は混ぜていても消失することなく色が変わっていく。固さも大分いい感じだし、スプーンを刺しても倒れない。こうやってしっかりとしたクリーム状の物質が出来上がった。
味見をしてみるとちゃんとマヨネーズになっている! 成功だ! 同じ手順を繰り返して大量のマヨネーズを作り終えたのを確認し、これでやっと解放されると喜んでいると、おばちゃんが悲しそうにつぶやいた。
「啓示が無いんだよ…… なんでだろうかねえ。
これでちゃんとできているんだろ?
まだなにか足りないのかい?」
「うーん、あえて言うならもっと酸味があってもいいけど……
でも失敗ならさっきまでみたいに消えてなくなるんでしょ?」
「酸味が足りない? つまり黄色の実を絞ればいいのかねえ?
少し足してみるか……」
レモン汁を少し垂らしてからスプーンで混ぜているのを眺めていると、おばちゃんが突然叫んだ。
「おおおお!! 来たよ! これでアタシのレシピになったんだよおお!
ありがとうね、ホントにありがとさん!
もうこれからはうちの子と一緒さ、今後は宿も飲み食いも代金はいらないからね!」
「勝手にそんなこと決めていいの?
おじさんが怒るんじゃない?」
「問題ないさ、このマヨネーズでアタシはジスコ中の客を独り占めさね。
これから忙しくなるよー
後生だから他の料理人へ作り方を言いふらさないでおくれよ?」
「うんうん、わかったわ、だからあんまり揺らさないで。
目が回りそうよ……」
よくわからないが、異常なほどに喜んでいる。オリジナルレシピメニューはそれほどまでに人気が出るのだろうか。でも他の人だって真似して作ったらレシピ習得できるということだし、いつまでも独占できるはずもない。
その時が来ても宿や飲食をミーヤ達へ無料で提供してくれるとは思えないが、それまでは甘えることにしよう。そんなことよりも、ようやく解放されると言う安堵感が最高だと感じるミーヤだった。
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