第10話 二人で街をぶらぶらと
裁縫屋を出た二人が続いて立ち寄った武具屋では、レナージュが弓の弦を購入していた。探していたような外套は無かったが、肩のしたくらいまでしかないマントが気に入ったようだ。
「ミーヤ、これどうかな?
面白いデザインだから気になったんだけど、後ろから見たら変かしらね?」
「そんなことないよ、深緑で今着ているのとあっているしいいんじゃないかな?
私も同じの買おうかしら」
「それいいわね! お揃いにしましょうよ。
ミーヤの革鎧なら何色でもあるけど、スカートとシャツに合わせるなら山吹色に近い方がいいわね。
この濃い橙色がいいんじゃない?」
「レナージュが選んでくれたのならなんでもいいよ。
ふふ、お揃いだねー」
こうして二人でお揃いのマントを購入し店を出た。レナージュは弦と一緒に打撃用の矢も購入しており、この間のような対人戦では刺さらないものが使いやすいからね、と聞いてもいないのに衝動買いの言い訳をしていた。
さて次は冒険者組合だ。場所は武具屋のすぐ近くで、飾り気は無いがなかなか立派な建物である。中へ入ると数名の冒険者が掲示板らしきものを見ながら首をかしげていた。
「いらしゃいませ、そちらは初めての冒険者さんかな?
それとも依頼をしにいらしたの?」
「いい依頼がないか見に来たんだけど、あの様子じゃ大した依頼はなさそうね。
来たついでだしこれをお願いしてもいいかしら?」
レナージュはポケットから革袋を出すと、中から半透明の石をいくつか取り出した。どうやらこれが魔獣から獲れる魔鉱と言うものらしい。燃料として使用するほかに、魔力を込めたアイテムを作成する材料にもなるとのことだ。
「魔鉱の売却ね、ちょっと待ってくれる?」
受付の女性はそういうと天秤をカウンターの上に乗せ重さを量っているようだ。そして何か金属片のようなものをいくつかと小豆大の魔鉱を二つトレイに乗せた。レナージュはお礼を言いながらそれを受け取ったが、あれは貨幣なのだろうか?
この世界ではスマメでお金のやり取りが完結しているから、現実の貨幣はないと聞いていたのだが、例外もあるらしい。そう思っていた矢先、不思議そうにしているミーヤの表情を察知したのかレナージュが仕組みを説明してくれた。
「魔鉱はね、重量で買い取り価格が決まるの。大きさとかは関係なく。
それをまずはこの金属片、景品って呼んでるんだけど、これに変えてもらうの。
さっき受け取った小さい魔鉱は端数ね。
次に景品を街の換金所へ持って行って現金に換えてもらうって流れよ。
これが三点方式ってやつなんだけど、仕組みはどの街でも同じね。
冒険者の稼ぎのほとんどは、魔鉱の売却代金なんだからちゃんと覚えておくのよ?」
「なんだか面倒だけど、そんな手間をかける必要あるの?
魔鉱を直接現金で買い取ればいいだけだと思うんだけど」
「そうするには受付の彼女が大金を持っていないといけないでしょ?
魔鉱は色々なものの材料になるけど、一次加工は錬金術なの。
だから、錬金術師を抱えた商人が換金するのが通例ね。
そうすることで、換金する商人がその街の魔鉱を独占しやすくなるってこと。
まあ利権ってやつ?」
「はあ、商魂たくましいと言うかズルいと言うか、さすが商人ね。
商人長もいい人ではあったけど、お金には細かかった印象だし」
そんな会話をして二人で笑っていると受付の女性がミーヤに話しかけてきた。
「その額の宝石…… もしかしてあなたって神人様なの?
私、神人様にお会いするの初めてよ!」
「やっぱりこれ目立つわよね……
帽子か何かで隠しておこうかなあ」
「別に恥ずかしがることないじゃない?
みんな神人様の加護にあやかりたいものなのよ。
でも目立ちすぎてもいいこと無いか」
レナージュは冷やかし気味にそう言った。そんなことはお構いなしに受付女性はさらに畳み掛けてくる。
「私の名はモーチア、見ての通り冒険者組合で受付をやっているの。
神人様はなにかお困りのことは無い? なんでも聞いてくださいな」
やはり、神人への絶対的な尊敬の念みたいなものを真っ直ぐぶつけられるのは気恥ずかしい。バンダナ化髪飾りか何かで隠しておかないと、どこへ行ってもすぐに騒ぎになってしまうだろう。
「私はミーヤ・ハーベス、神人と言ってもまだ産まれたてで何も知らないのよ。
だから気楽にミーヤって呼んでくれて構わないわ」
「ミーヤ様ですね! はあ幸せ……
ちなみにここへ来たということは冒険者なんですか?」
「そういうわけじゃないけど、ちょっと修行の旅に出たってとこかな。
そうだ、楽器と白紙の巻物に術式ペンを売っている場所を知りませんか?」
ミーヤはリグマがコラク村へ帰る前に教えてくれた、演奏スキルを上げるための楽器、術書や呪文を転写するための巻物とペンについて尋ねることにした。するとモーチアは快く教えてくれた。
「楽器なら西通りの神柱そばに楽器屋があります。
白紙の巻物と術式ペンはとなりの農工組合支部で売ってるはずですよ。
もし神術の術書と呪文でよければ私のを転写してください!
向こうで書き物しているクリオルソンは魔術使いですからアレも使っちゃいましょう!」
「それは助かるわ!
さっそく隣に行って買って来るわね」
ミーヤは大急ぎで農工組合へ向かった。
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