第5話 大都会ジスコ!

 予定より一日遅れで最後の野営地についた一行は、この日も穏やかな夜を過ごすことが出来た。初日は色々あったけど、それ以降は平和すぎて退屈な毎日だった。


 朝になって馬車が走り始めた後も寝足りないらしいミーヤは、あまりに退屈でやることもないのでレナージュへもたれかかってうとうとしていた。


「ねえミーヤ?

 どちらかと言うと私があなたへもたれかかりたい気分なんだけど?」


「えっ? どうして?

 私の方が年下なんだから甘えてもいいじゃないの」


「でもね、ミーヤに埋もれた方が気持ちよさそうじゃない?

 だってほら、こんなに……」


 そう言いながらミーヤの胸を下から持ち上げて揺らしている。ミーヤはレナージュの手をピチッとはたいて制止し、今度は自分から押し付けるようにしてレナージュの元へ飛び込んだ。それを見て、連れの冒険者がこちらを一瞥した後すぐに寝たふりをする。


「もう、人目もあるんだからあんまりじゃれつかないのよ?

 ミーヤは本当に甘えん坊さんね」


「先にそういうことしたのはレナージュじゃないの。

 だからお返しよーだ」


 カナイ村を出るときにはすでに仲良くなっていたが、盗賊を倒した一件が二人の絆をよりいっそう深めたことは間違いない。これから一緒に旅をすることになっているので、さらに親密な関係になれるだろうと予感めいたことが頭に浮かぶミーヤだった。


「そう言えば他にはどんなスキル持ってるの?

 なにか戦闘に役立つのがあればいいんだけど」


 レナージュが今後のために確認しておきたいと言うが、いちいち口で説明するのも面倒なので、ミーヤはスマメのステータス欄を見せた。きっとレナージュがなにかいい助言をくれるだろうと期待していたのだが、彼女は黙ったままである。


「どうしたの? なにかおかしなところあった?

 まったく成長していないスキルがあるけど、それには事情があるから……」


「いいえ、そんなことはどうでもいいの。

 それよりもこれで本当にレベル1のスキルだなんて驚きよだわ

 しかも体術なんてもうエキスパートクラスじゃないの!

 ホントビックリよ! さすが神人様ね!」


「そうなの? 私は他の人のを見たことがないから違いが判らないわ。

 良かったらあなたのも見せてもらえる?」


 そういうとレナージュは快く見せてくれた。そこには弓術がエキスパート以上、つまり60以上と突出しており、その他は武芸と召喚術に自然治癒が35程度、基礎生産20ほどで他には何も載っていなかった。しかもレベルは7なのでミーヤと比べたらはるかに上なのに、だ。


 ミーヤには最初から七つのスキルと熟練度40が与えられているのを考えると、スキル全体が低く感じるが、冒険者として戦闘に明け暮れてきたレナージュだからこそ、ここまでの熟練度が有り、のんびり狩りだけやっているような過ごし方であれば戦闘系が年齢の倍程度、その他は年齢と同じくらいが相場らしい。


「ハッキリ言ってスキルの組み合わせは意味不明だけど、熟練度の高さは凄いわ

 単純な強さだけで言ったら私とそう変わらないかも。

 でも体術使いは接近戦しかできないから、レベルが低いうちの無茶は禁物よ?」


「そう言えばレベルはステータス、熟練度はテクニックみたいなことを聞いた気がするわね。

 あのさ?…… レナージュは私のステータス見て嫌な気持ちにならない?

 その…… ズルいとか、妬ましいとか…… そういうの」


「まあ私が何年かかけて築いて来た場所へ、その年ですでに手をかけているのを見るのは複雑な心境ね。

 でもそれを妬んだりなんてしないわ、だってそれは人それぞれ違うものだしね。

 それに数値では測れない力だってあるのよ?」


「そんなのもあるの? なにかしら……」


「それは経験と頭脳よ。

 色々なことを経験していけば、同じスキルでも使い方に幅が出せるわ。

 その場のひらめきや、作戦を立てたり予測して行動するなんてこともスキルとは無関係でしょ?」


「なるほどねえ、確かにその通りだね。

 こないだの精霊晶をうまく使うのだって経験あればこそってことよね」


「その通り! そして経験があれば教えてあげることもできちゃうでしょ?

 そうすると、仲間が強くなるのが早くなって、自分も安全で楽になれるって寸法よ」


 本当の気持ちまではわかりかねるが、レナージュが気にしていないと明るく言ってくれたので、ミーアの心は穏やかになった。人は、他人が自分より優れていることを羨み妬むものだとの考えは、必ずしも当てはまらないものだと考えを改めるべきかもしれない。


 こうして二人が(男性冒険者曰く)イチャイチャしているうちにジスコの南門へと到着した。想像していたよりも素朴な雰囲気なのは、大都市らしからぬ丸太造りの外壁だか城壁だかのせいだろう。


 カナイ村の建物も木造ばかりだったし、これまで通って来た道も平原ばかりなので石造りは困難なのかもしれない。日本のお城のようにお堀があるわけでもなく、壁も門もすべて木造なので火災には弱そうである。


「ジスコの南門まではついたけどここからが長いのよねえ。

 この並びようじゃ数時間はかかるから覚悟しておきなさい?」


「えー、そんなにかかるの?

 もしかして街へ入る一人一人を全員確認してるわけ?

 凄い手間がかかるでしょうね」


「商人だけじゃなく、そもそも人の出入りが多いから仕方ないんだけどね。

 それにミーヤは初めて街へ入るから身分登録が必要になるわね。

 多分商人長が保証人になってくれると思うんだけど、何か言ってなかった?」


「えー、そんなのもあるの?

 何も聞いてないから不安になってきたよ……」


 今まで何日もかけてたどり着いたのに、門の外で何時間も待たされるなんて勘弁したい。でも防犯のためにやっている事だろうから従うしかないし、もし勝手に忍び込もうなんてしたらもうお天道様の下は歩けなくなってしまう。


「そういえばミーヤさ、昨日の晩に馬の手入れをするブラシで体をとかしてたでしょ。

 あれはみっともないからやめなさい、見てて悲しくなってしまったわ。

 一緒に買いに行ってあげるから、ちゃんとしたものを買うのよ?

 それと宿へ行ったら水浴びもしましょう、大分臭ってきてるもの」


「水浴びなんてできるんだ!?

 今まで一度もしたことないよ。

 村には井戸しかなかったし、誰もしてる様子無かったな」


「まあ田舎はそんなものよ。

 せいぜい布を濡らして体を拭くくらいかしら。

 でも頭から水を浴びるのは気持ちいいわよ」


「そうだよね! 楽しみだなー

 他にジスコならでは、みたいなものなにかある?」


「そうねえ、中央に市場があって買い物出来たり、その場で何か食べたりできるよ。

 そこには甘いものもあるんだから!

 もちろん衣類を売っている店もあるわよ。

 盗賊を捕まえた報奨金が入るから豪遊できそうね!」


「それは楽しみだね!

 ひらひらした感じの服があるといいなあ。

 ほかには! ほかには!」


「あとは組合かな、冒険者組合とか生産組合とかそう言うやつね。

 もしかしたら良さげな依頼があるかもしれないから覗きに行きましょう」


 そうか、その冒険者組合で見つけた仕事が、今回のカナイ村へのキャラバン隊を護衛する依頼と言うわけだ。そんな偶然が重なって産まれた出会いに、ミーヤは深く感謝するのだった。

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