第4話 プレゼンできるかな?
戦いの翌朝、日が昇ってくると皆がぞろぞろ起きてきた。思っていたよりもみんな早起きなので、いつも狩りの時間ぎりぎりまで寝ていたミーヤは、自分の怠惰な生活を振り返り少しだけ反省していた。
『こんな朝早く、まもなく出発するのかな?
早く馬車へ戻って一眠りしたい……』
反省をしたとしても眠気はまた別だ。ミーヤはこの晩最後の見張り係だったので、二時間ほど前から起きており、もういい加減眠くて仕方なかったのだ。
そこへフルルがやってきた。
「あら、ミーヤおはよう、よく眠れた?」
「フルル、おはよう、昨晩は大変だったのよ?
あなたったらずっと寝ていたの?」
「ええ、一回も目が覚めなかったわ、私は一回寝たらそうそう起きないのよ
でもどうやら盗賊が来たらしいわね。
あそこに転がってるの見て察したわ」
フルルが指さした方向には、板戸のようなものへ括り付けられ寝かされている盗賊たちの姿があった。どうやらあの状態で馬車へ括り付け引きずっていくらしい。
「車輪もない板でジスコまで連れて行かれるんだから盗賊も楽じゃないわね。
キャラバンの荷馬車には護衛がついてるし、都市近くなら警備団だっているんだから無理よ。
こんな事やっても割に合わないんだからやめればいいのに」
「フルルは怖くないの?
盗賊に襲われることが結構あったみたいな言い方だけど?」
「ほとんどの日を旅して過ごしてるからそりゃね。
今はずっとブッポムさまにお世話になってるから安心。
このキャラバンの人たちは強いし、護衛もいい条件で強い人たちへ依頼してるからね」
「へえ、商人長ってすごいんだね。
見た目は普通の小太りのおじさんって感じなのに」
「何言ってんのよ。
ブッポムさまはジスコ商人組合の組合長なのよ?
そりゃ偉いに決まってるわ」
「組合長自らキャラバンを率いていくものなのね。
なんだか危なそうにも感じるけど…… だから護衛にお金をかけるってことか」
フルルもあんまり詳しい事情は分からないらしく、そこまで興味もないようだった。もちろんミーヤも個人の地位や資産にあまり興味はない。だが、この繋がりは今後の助けになるかもしれないし、失礼のないようにはしておくつもりだった。
考えが横にそれてしまい危なく忘れるところだったが、カナイ村の村長とマールへメッセージを送る。要件はもちろんコラク村のエルフたちについてである。マールには朝の挨拶と、昨晩の捕り物について細かく伝え、味方が強いから心配しないようにと付け加えた。
それでもマールは心配していると返事が返ってきて、朝ごはんを運ぶ相手がいなくなって寂しいとも言ってきた。ああ、私も寂しい、マールに会いたい、とお思うが、まだ村を出てから一晩しかたっていない。これでは先が思いやられるなと、自分自身へはっぱをかけるミーヤだった。
マールとメッセージをやり取りしている間に村長からの返信があった。しかしその回答は芳しいものではなく、さすがに村全体で話し合いが必要とのことだ。まあ別の村から二十人ほどのエルフが来ると言ったら心配になるのも当然だ。その分の食い扶持はどうするのか、住まいはどうするか等、ミーヤであっても問題はいくらでも思いつく。
ミーヤは地面へ布を敷いて休息を取っているリグマ達のところへ行き、現在の状況を説明した。
「村長様の一存では決められないと? それは当然のことです。
私たちが加わることで村の人たちに悪影響があるかもしれませんからね。
でもきっとお役に立つことができると考えております」
「じゃあそれをもっと村長へ伝えようよ。
そうすれば話がいい方向へ進むかもしれない、いいえ、きっと大丈夫だよ!」
そうだ、これはプレゼンなのだ。リグマ達がいかに役に立つかを伝え、村にメリットがある人材なのだとアピールする。そんなことなら七海の頃に散々やってきた得意分野…… まてよ? よく考えると得意ではなかったかも…… ぜいぜい商品のコスパや商材としての価値をスライドにして並べていただけだったかもしれない……
いやいや、やる前からめげてどうする! ここが踏ん張りどころなのだ! ミーヤは自分へ向かって激を飛ばし、リグマからの聞き取りを始めた。
まとめていくと意外なことが判明した。ノームもエルフも農耕は苦手なので、普段の糧は主に狩猟で得ていたという。つまり狩りは十分できるし、木の実や果物採取はお手の物だそうだ。
牧羊が出来る者もいるし、裁縫スキル持ちで羊皮紙が作れる者までいるらしい。カナイ村には今までいなかった人材であればきっと村長も首を縦に振るだろう。問題は住居だろうが、これは移住してくるエルフたちが自分たちで用意すると言っていた。まあ空き地があれば、だが。
ミーヤは再び村長へ連絡し、リグマ達のスキルについて説明をした。特に羊皮紙が作れることはかなりのメリットだと思えたので強くアピールする。牧羊ができる人が増えれば今までよりも多くの羊を飼うこともできるだろう。
リモートでのプレゼンテーションは初めてだったが、何とかすべて伝えることが出来た。数字やグラフを伝えるのではなく、事実と熱意を伝えるのが本当のプレゼンなのだと、ミーヤは始めて気づいた。七海には大幅に足りていなかった熱い心が今のミーヤにはある。だからきっと想いは伝わっただろう。
どちらにせよ最終的には村長たちの判断になるので待つしかない。それでもアピールできることはすべて伝えたし、やり残したことは無い。不安ではあったが概要をまとめて並べることが出来たので、ミーヤ的には満足していた。
一通りの話が終わったこともあり、リグマ達はいったんコラク村へ戻ると言った。移住できるかどうかに関わらずコラク村を出ることはすでに決めているらしい。カナイ村への移住が無理な場合は、大きな都市へ散らばり、それぞれで生計を立てることも視野に入れているとリグマは言っていた。
そしていよいよお別れの時間がやってきた。
「本当にお世話になりました。
馬までご用意いただきまして感謝いたします。
ご連絡お待ちしておりますね」
「きっといい返事が返ってくるから楽しみに待っていて。
それに知らないこと教えてもらえて助かったわ。
道中気を付けて!」
こうしてリグマ達は去っていった。ここで初めて知ったのだが、馬には二人まで乗れるようだ。今回は四人のエルフたちが馬二頭へ二人ずつ乗り走っていった。細かい事でまだまだ知らないことがあると認識するとともに、そんな知識をどうやって得るのかを考える必要があると頭を悩ますミーヤだった。
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