ナロウの街角で ~転生した底辺作家、才能《チート》がないのでオリキャラと試行錯誤して努力と戦略でランキングを成り上がる~

上地王植琉【私訳古典シリーズ発売中!】

プロローグ 物語は【破綻】をきたした



「よくここまで来たんだよ、お兄ちゃん! さあ、ここで会ったが百年目! 魔王ミチコの前にひれ伏すがいいんだよ!」


 ほとんど全裸に近い魔族っぽいエロい衣装を身につけたロリ娘が、そのすかすかの胸を張って言った。

 勇者は謎の光で見えない乳首の辺りをガン見したまま膝を折った。


「わかったよ、さっちゃん。ひれ伏すよ、世界の半分貰っていいんだよな?」

「ちょっと、成り上がりでチートで転生者で性転換した元婚約破棄された悪徳令嬢で幼馴染のクラスメイトの勇者様! ダメですよ、そんな話に乗っちゃあ!」


 これまた防御力皆無に見えるビキニアーマーを着けた女騎士が突っ込んで制止する。


「えっ、でも世界の半分くれるって……」

「言ってないよ。だってさ、そしたら二大陣営に分かれて冷戦なっちゃうもん。そんな世界、ミチコやーだ!」

「そうか。さっちゃんは優しいなあ」

「ミチコだよ、勇者のお兄ちゃん」

「そうか。みっちゃん」


 ははははっ(一同、笑う)


「あ、そうだ。お兄ちゃん。戦う前に、『真実』を伝えないといけないの」

「真実だと?」

「そう。じつは十年前にお前の父親と母親を殺したのはミチコだったのだ」

「な、なんだってー!」


 ガガーン!(一同、驚愕)


「でも、お前はその時はまだ生まれてないじゃないか」

「うん。そうだよ。だから黒幕がいるの」

「黒幕だと……」


「ふっ、ふっ、ふっ……こうなっては仕方がないですねぇ!」


 その時、魔王の魔の入口の扉が破壊され、外から対異星生物用決戦人型装甲兵器〈ベルセルク〉が侵入してきた。超形状記憶合金のコックピットが開き、中からチャイナ服を身に纏ったプロフェッサーMが踏み込んできた。

 プロフェッサーMは銀河帝国の中でも腕利きとして知られる人外学者で、主人公たちが4000年後の未来世界で確かに殺したはずだったのだ。


「お前は……プロフェッサーM!」

「覚えていてくれて光栄だよ。ライヘンバッハの滝ではよくもやってくれたな! エルロック・ショルメ!」

「そうだ。俺は勇者、タナカ・タナカ!」

「なんだ、人違いか……」

「死ねぇーー!!」

「ぐはああああああ!」


 勇者の鉄拳が〈ベルセルク〉を完膚なきまでに破壊!

 プロフェッサーMは爆散した!


「ぐふっ、俺を倒していい気になるなよ……俺はロンメル四天王の中でも最弱の男……そして、ロンメル四天王は、フランシス十三騎士団の中でも最弱……つまり、俺の後ろにはまだ50人が控えている!」

「そうか。52人が控えているのか」

「そうだ」

「死ねぇー!」

「ぐはああああああ!」


 プロフェッサーMは爆散した! 一度爆散しているので、再爆散である。

 主人公がアルバトロス村から乗ってきたティラノサウルスも爆散した。ミチコも爆散し、主人公の仲間にいたケモノ娘も爆散した。なぜかと言うと、ケモ耳キャラはまだしも、ケモノキャラは人気が出にくいからである。担当編集も言っていた。畜生! あいつマジわかってねぇよ……。


「うう……サチコ……」

「ミチコですよ、勇者様」


 その時、回復呪文でミチコは蘇った。


「お兄ちゃん……?」

「まさか、ミチコ……ミチコなのか?」

「ずっと騙していてごめんね、お兄ちゃん。じつは、私たち、血が繋がってないの。だから、セックスして子ども産めちゃうよ!」

「えっ! そうだったのか! いいね、カモン! マイ・ハーレム!」


 ミチコが仲間になりたそうに、(エロい感じの上目づかいで)見ている。

 仲間にしますか →Yes or Yes


「でも、勇者様。連れていけるハーレムは六人までって決まっていますよ。それが公式ハーレム・リーグのルールです」

「そうか。じゃあ、お前ら融合しろ」

「えっ?」

「いっくよー!」


 女騎士とミチコは融合合体した。運よく経験値が二倍上がった!


「よし、いくぞ、ミチコⅡ」

「そうだね、タナカ様!」

「そこはお兄ちゃんだろ! もー、まったく、女騎士が強く出てるぞ、この!」

「いっけない☆」


 ミチコは巨乳をブルブルと……》





「ちょ、一端、止めようか……」


「「「はーい!」」」


 〈創作者ライター〉のその一言で、〈登場人物アクター〉たちは一斉に動きを止めた。

 休憩の時間である。〈物語〉が解かれ、各々が素に戻る。

 そこはナロウの町の周縁にある古びた劇場の一角。演者たちが舞台を降りる中、頭を抱えた〈創作者ライター〉の一人はふらふらと劇場を出た。

 店のすぐ近くの広場に出て、ベンチに倒れ込む。創造力は限界に達し、頭はもはやゆでだこのように熱い。


「な、なんか、もう色々破綻している気がする……なんだよ、サチコだったりミチコだったり、六人制度とか、あまったハーレム人員を融合して人数処理とか……」

「せ、先生……だ、大丈夫ですか?」

「全然、大丈夫じゃない。なんだこれ、もう意味わかんない」

「言われた設定を全部ぶち込むからですよ。世界観と設定は一つに絞らないと……」

「難しいな。こんなんじゃ、いつまで経っても、あの塔には登れないな……」


 町に巣食う底辺〈創作者ライター〉の一人、〈24601〉はそう言って、街の中心でもっとも栄え、〈市民ユーザー〉を集めている巨大な白亜の巨大ダンジョン――〈ランキングの塔〉を見上げた。

 自分たちではどうしてもそこに行くことはできない。近づくことすらもできない、憧れの場所――近くにあるが、この〈劇場アカウント〉では手の届かない

 ため息を漏らす〈創作者ライター〉の肩を叩き、〈劇場アカウント〉に所属する猫耳ヒロインの〈登場人物アクター〉は励ますように言った。


「大丈夫ですよ、先生。焦らなくていいんです。ゆっくり、自分だけの素敵な物語を紡げる日が、いつかきっときます。もしかしたら、〈ランキングの塔〉に近づける日がいつかはくるかも……」

「いや、『自分だけの素敵な物語』じゃ、ダメだ。読まれなければ、大多数の〈市民ユーザー〉に指示されなければ、『バズら』なければ、『物語』は……なんの意味もないんだ!」

「先生……」

「俺はいつかお前たちを高みに連れていく! いつか絶対に、あの栄光の場所……〈ランキングの塔〉を昇ってみせる! 例えどんなに苦しくても……どんな手を使ってでも……絶対だ!」

「先生、私は……」


 ヒロインは口を開いたが、続きは言えなかった。

 熱いまなざしで塔を見つめる〈創作者ライター〉に、所詮、有象無象の〈登場人物アクター〉に過ぎない自分が何を言えると言うのだろうか。






 ――ここは、ナロウの町。

 幾多の物語が生み出され、消費され、そして廃棄されていく、想像と破壊の町。

 ここに、野望に燃える〈創作者ライター〉が一人。果たして、彼は……いや、彼らは、どのような物語を紡ぐだろうか。

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